まだ砕けていないので砕けに行きます 2
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レーヌはすぐにダヴィドおじいちゃんに連絡を入れてくれた。
すっかり元気になってベッドから降りて活動をはじめたわたしが、マノンの日向ぼっこに付き合って庭でごろごろしていると、二日後、ダヴィドおじいちゃんがやってきた。
ダヴィドおじいちゃんはへそ天で芝生の上でごろごろしているマノンを見て軽く目を細め、それから好々爺然と笑った。
「エジュちゃん。急用と聞いたが、どうしたんかの」
「ダヴィドおじいちゃん、呼び出してごめんなさい」
「そりゃ構わんよ。エジュちゃんはあの馬鹿弟子のせいでここから出られんからのぅ」
いくら王女でも、魔法師団の老師を私用でほいほいと呼びだすのはだめなのだけど、シャルルの魔法が相手ならダヴィドおじいちゃんしか頼る人がいない。
「おじいちゃん、今日はちょっと暑いから、サロンに行きましょ? 冷たいお茶を用意するわ」
ごろーんとだらしなく寝そべっているマノンを抱き上げて、わたしはダヴィドおじいちゃんをサロンに案内する。
執事のデリクがすぐに動いてくれるのがさすがだわ。
ダヴィドおじいちゃんをサロンに案内して間もなく、冷たいレモンティーとクッキーが運ばれてくる。
マノンは今日はおねむな日なのか、わたしが座ると、わたしの膝の上でまたでーんと横になってくぅくぅと寝はじめた。
「ふむふむ、すっかり懐いておるの」
ダヴィドおじいちゃんがマノンを見て言う。マノンはおじいちゃんがプレゼントしてくれた猫だから、きっと気にかけてくれていたのね。
「マノンはとってもいい子よ、おじいちゃん。でも、変な鳴き方ばっかりするの。『けっ』とか『へっ』とか」
「ほっほっほっ!」
おじいちゃんが楽しそうに笑った。
マノンってば、ダヴィドおじいちゃんも笑っているわよ。やっぱり「けっ」なんて鳴く猫はあんまりいないんだわ。
ダヴィドおじいちゃんはレモンティーをごくごく飲みほした。レーヌがお代わりをおじいちゃんのグラスに注ぐ。
「それで、わしに何の用かの?」
わたしは背筋を正した。
「実は、ダヴィドおじいちゃんにお願いがあるの。この邸にかけられたシャルルの魔法を解いてほしいのよ」
「ほっほっほっ! ついにあの馬鹿弟子から逃げ出すことにしたんかの!」
「ちっ、違うわよ! そうじゃなくて……!」
わたしは「逃げ出す」という言葉に慌てちゃって、うっかりシャルルが北で浮気していることまでべらべらと説明してしまった。
するとダヴィドおじいちゃんは目を丸くした後で、お腹を抱えて笑い出した。
「ほっ、は、ふはははははは! それはおもしろ……いや、災難じゃ……はっ、ふははっ。ほっほっほっ!」
……おじいちゃん、笑いすぎだと思うの。
わたしにしてみたらちっとも面白くない話だというのに、ダヴィドおじいちゃんってばシャルルが失敗したみたいに聞こえたのかしら。まあ、婚約者のわたしに浮気がばれたのは、失敗と言ったら失敗だろうけど。
ダヴィドおじいちゃんはひとしきり笑い転げ、レーヌが冷たい目で睨んでいることに気づくと、しゅっと背筋を伸ばした。
「すまんの、エジュちゃんを笑ったわけじゃないんじゃ」
「わかっているわ、おじいちゃん」
ダヴィドおじいちゃんは傷ついた女性を笑うような人じゃないもの。
「でも、エジュちゃんは面白いことを考えるの。浮気相手と自分を比べてもらうためにあの馬鹿弟子に会いに行くとは、普通はそんなことはせんと思うんじゃが。……というか、エジュちゃんが一言婚約解消を手紙に書いて送ってやれば、あの馬鹿のことじゃからすっ飛んで帰って来ると思うんじゃけどの」
「うん?」
「何でもないわい。まあ、これはこれで面白そうじゃからの。それで? この邸の魔法結界を解くのはできるが、エジュちゃんはどうやって北へ行くんかの」
「レーヌとジェラルドについてきてもらうわ!」
「レーヌ嬢ちゃんと騎士のジェラルドか。……ぷっ! ほ、ほっほっほっ! これはますます面白……じゃなくて、気を付けて行って来るんじゃぞ?」
「うん!」
「おおそうじゃ。行くならマノンも連れて行くとよいぞ」
「マノン? でも、猫に長旅は疲れるんじゃないかしら?」
「大丈夫じゃ、図太い猫じゃからの」
マノンは確かに図太いところがあるけど、図太さと丈夫さは比例するのかしら?
「あ、そうだ。ダヴィドおじいちゃん。わたしが北へ向かうことはお父様たちには内緒よ? 絶対反対するもの!」
「まあええが、多分そのうち気づくぞ? 暇さえあればエジュちゃんに会いに来とるからの」
「いいのよ。出かけた後だったらお父様たちでも止められないもの!」
出かけるのを邪魔されなければいいのだ。
ブラン王国は基本的には平和な国で、女性たちだけで旅行に行くのも珍しくない。
わたしは王女と言う立場だからジェラルドを護衛に連れて行くけど、ブラン王国は小国だから、北の国境までは魔道馬車で三日ってところよ。
普通の馬車と違って魔道馬車は魔道具が組み込まれているからとっても早いのよね。馬が引くわけじゃないから馬の休憩時間は考える必要もないし、揺れも少なくてとっても快適なの。魔道馬車には盗賊とか暴漢よけの結界魔道具も組み込まれているから安全だし。
レーヌもわたしが北に行きたいと言ったらちょっと渋ったけれど、魔道馬車を使うと言えば許してくれた。
魔道馬車はとっても高価だからお城にも数台しかないほどなんだけど、さすがは魔法師団長というか、シャルルのお邸にはあるのよね。これを使わせてもらうわ。だってシャルルに会いに行くんだから、いいわよね?
魔道馬車は普通の馬車と違ってちょっぴり扱いが難しいんだけど、なんと、執事のデリクが魔道馬車の運転ができるって言うの。デリクもついて来てくれるって言うのよ? サティ侯爵家の使用人のみんなは本当に優しいわ!
デリクってば、「主人の不始末は使用人として見過ごせません」なんて言うの。デリクって五十歳を過ぎたおじさまなんだけど、渋い感じがして、とーってもカッコいいわ!
「それじゃ、邸の魔法はちょちょいのちょいっと解いておこうかの。気をつけて行って来るんじゃぞ?」
「うん! ありがとう、ダヴィドおじいちゃん!」
シャルル、待っていてね!
浮気相手の人がボンキュッボンな超美人でわたしじゃ勝負にならないような人だとしても……簡単には、諦めないからね‼
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