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籠の鳥王女は愛されたいので好きにすることにした  作者: 狭山ひびき
籠の鳥王女と魔法使い

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19/45

まだ砕けていないので砕けに行きます 1

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「エドウィージュ様、大好きなプティングですよ。ほら、少し食べましょう?」

「うん……」


 わたしはのそのそとベッドに上体を起こした。

 シャルルの浮気の一報を聞いてから、わたしは熱を出してしまった。

 たぶん頭の中がいっぱいいっぱいになったんだと思う。


 わたしは昔からとっても健康で、風邪も滅多に引かないくらいだったから、熱を出したときのレーヌやジェラルドの慌てようったらなかったわ。

 お父様やお母様、お兄様にお姉様も大慌てで駆けつけて、枕もとで、「死ぬなエドウィージュ!」なんて言うの。微熱程度で死んだりしないと思うのよ。


 だけど、熱は微熱程度でも、ちょっと心が参っているから、ベッドで安静にさせてもらっている。

 レーヌが「エドウィージュ様のお体に障りますから」ってお父様たちを撃退してくれたんだけど、レーヌもレーヌで大袈裟よね。ちょっと熱っぽいだけなのに。まあ、お父様たちの取り乱しようったら娘のわたしも引くくらいだったから、追い返してくれたのは助かったわ。だって、何を言っても聞く耳を持たず「死ぬなーっ!」ってうるさいんですもの。


 お父様たちの耳には、シャルルの浮気の一報は入っていないみたいだったから、わたしはひとまずホッとしている。


 だって、わたしの家族の耳に入ったら大変よ?

 怒りに任せてお父様なんてシャルルを国外追放にしかねないし(そんなことをしたら国にとって大損失よ!)、お兄様たちならきっと、ありもしない罪を捏造してシャルルを投獄ぐらいするでしょうね。


 アデライドお姉様は確実に、大きなお腹を抱えて「決闘だ!」って飛び出していくわ。そんなことになったらラウルお義兄様が本当に大変だから、絶対に耳に入れるわけにはいかない。


 ……思ったんだけど、わたしの家族、問題児ばっかりじゃないかしら?


 みんな優しくて大好きな家族だけど、いかんせん熱すぎるというか……。

 結婚前に別の誰かが好きになった場合、婚約を解消して終わるのが普通だと思うんだけど、お父様たちに任せたら絶対大事にすると思うの。


 ……婚約解消。


 ああ、自分で想像して、落ち込んでしまったわ。

 わたしはレーヌの差し出したプティングの乗ったお皿を受け取って、もぐもぐと食べる。

 プティングはつるんとのど越しがいいから食欲がなくても食べられるわ。


「ねえレーヌ、わたしは失恋したのかしら」

「何を言うんですかエドウィージュ様! エドウィージュ様は失恋なんてしていませんよ! シャルル・サティ侯爵はきっと悪い魔女に心を操られているだけです!」


 そんな都合がいい話はないと思うの。

 まあ、ファヴィエンヌお姉様が残した恋愛バイブルの中には、悪い魔女に心を操られた王子様の物語があったけれど。現実では、普通は起こらないと思うのよ。


 だけど、そうね。

 もし本当にシャルルが悪い魔女に心を操られているのなら、どんなにいいかしら。

 それならわたしが奮起してシャルルを魔女から救い出しに行けばいいだけの話だもの。

 わたしが魔女に勝てるかどうかは置いておくとしても、そうならば、わたしがどうすればいいのかは決まっているわ。


 だけど、そうじゃないから……。


「わたしはここでシャルルが帰って来るのを待っていても、いいのかしら?」


 そもそもこのお邸は、わたしの居場所なのかしら?

 だって、きっとシャルルはわたしのことをいらないって言うわ。他に好きな女性がいるんですもの。だから婚約を解消してほしいって言われるはずよ。

 一応わたしはまだシャルルの婚約者だけど、婚約が解消されるのがわかっているのに、ここに居座り続けてもいいのかしら?


 ……まあ、シャルルが魔法をかけているから、出て行こうにも出て行けないんだけどね。


 どうしてシャルルはわたしを閉じ込めたのかしら?

 わたしはそれをシャルルの愛だと思ったけれど、シャルルの愛はもう別の人に捧げられちゃったわ。

 それなら愛していないわたしを、どうしてシャルルは閉じ込め続けるの?


 ……なんか、とっても理不尽だわ。


 もぐもぐとプティングを食べながら考える。

 三日寝込んだせいか、最初ほど頭の中が真っ白ってわけじゃない。

 人間寝ると回復するのね。体も、心も。


 ……そもそも、わたしとシャルルの出会いはわたしが五歳の時よ。その一度だけで、それからずっと会ってなくて、婚約者になっても二人の時間はまるで取れずに、シャルルは北に行ってしまったわ。


 もちろん、シャルルが北へ向かったのはお仕事だ。仕方のないことである。

 わたしは王女で、ただシャルルの側にいたいというだけでくっついていくわけにもいかないから、王都で待っているしかなかった。


 それは、わかっているのだ。

 だけど……ずるい。


 だってそうでしょう?

 わたしが知っているシャルルは、わたしが五歳のときにあった少年だったころの彼だけよ。

 あとは、フードをかぶった彼しか知らなくて、お喋りをしたこともない。

 お手紙も薔薇の花ももらったけど、それは全部間接的な関りで、彼と直接かかわったわけではないのだ。


 それはシャルルにも言えることで、シャルルもきっとわたしのことをよく知らない。

 よく知らないままに、よく知り合う機会のあった女性と仲良くなって心を移すのは……ずるいわ!

 せめてわたしのことをよく知って、ちゃんと顔を見て話しをして――そこからでないと、わたしは、同じ土俵に立つ前に「さようなら」をされることになる。


 ……婚約者はわたしなのに、わたしが経験する前に、シャルルの顔を見てデートをしてキスをするなんて許せないわっ!


 せめて、わたしと浮気相手の女性を比較できる状況で……同じ条件下で判断してくれないと不公平よ!


「レーヌ、わたし、決めたわ」

「プティングのお代わりですか?」

「違うけど、お代わりは欲しいわ。なんだかとってもお腹がすいてきたの」


 プティングを一つ平らげたわたしは、空になったお皿をレーヌに渡す。

 腹が立ってくるとお腹がすくらしい。今ならプティング十個は食べられそうよ。

 レーヌが嬉しそうに微笑んで、メイドを呼んでプティングのお代わりを持って来てくれるように頼んだ。

 わたしは拳を握り締めてレーヌに向き直る。


「わたし、シャルルに会いに行こうと思うの! 振られる前に‼」


 せめてわたしという人間を知ってもらって、それから判断してもらわないと、納得できない。


 そうと決まれば――ダヴィドおじいちゃんに、このお邸にかけられた魔法について相談よ!





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