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籠の鳥王女は愛されたいので好きにすることにした  作者: 狭山ひびき
籠の鳥王女と魔法使い

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浮気の一報が届きました 7

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 ティファニーが来てレーヌとバチバチやって帰る、という日々が数日続いたある日のことだった。

 この日はあいにくと曇っていて、いつ雨が降ってもおかしくないような天気だった。


 部屋でマノンと遊んでいると、執事のデリクが来客を告げに来た。ティファニーが来たらしい。


 今日はティファニーが来る予定はなかったのだけど、どうしたのかしら?

 レーヌってば「非常識な!」てプンプンしているわ。


 ……なんか、レーヌはティファニーが嫌いみたい。


 ティファニーは礼儀正しい人だと思うのだけど、レーヌに言わせれば「とっても失礼」なんだそうよ。よくわからなかったからジェラルドにも聞いてみたら、ジェラルドもジェラルドで「あんまり関わらない方がいいと思いますよ」なんて言う。

 それでもティファニーの来訪を止めないのは、わたしがシャルルの話を聞きたがっていることと、ティファニーが魔法師団所属の魔法使いだからなんだって。わたしの未来の夫であるシャルルの部下だから、無碍に扱えないって悔しそうだったわ。


 ……二人とも、ティファニーに冷たいと思うの。


 わざわざうちに足を運んでシャルルのことを教えてくれるんだから、もっと親切にしてあげてほしいのに。

 レーヌはことあるごとに「マウント」「マウント」って言うけど、だからマウントってどういう意味なのかしら。


 ……まあいいわ、ティファニーが来たのならお出迎えをしなくちゃね。


 わたしが猫じゃらしを揺らすのをやめると、マノンが不満そうに「むっ」って鳴く。マノンってば本当に変な鳴き方をするわよね。「けっ」とか。


「ねえマノン、ティファニーが来たんですって。一緒に行く?」

「へっ!」


 マノンはまた変な声で鳴いてぷいっと顔をそむけると、ぴょんとわたしのベッドに飛び乗って丸くなった。行かないらしい。


「もう、マノンまでティファニーが嫌いなの? そう言えば、まだ一回もティファニーに会ってないわよね? 一度くらい一緒に行きましょう?」

「けっ!」


 説得してみたけど、やっぱり嫌らしい。


「マノンってば、猫らしくないわよ!」

「…………。にゃー」


 面倒くさそうにマノンが鳴く。マノンって、もしかしてわたしの言うことが理解できているのかしら? なーんて。


 マノンが意地でもベッドの上から動かないので、わたしは諦めてレーヌとジェラルドの三人でサロンに向かった。

 今日のティファニーは、紫のラインの入った黒色のドレス姿。ティファニーはやっぱり紫が好きなようで、ドレスや小物に必ずこの色が入っている。


 毎回それを目にするたびにレーヌの視線が怖くなるんだけど、ちょっとよくわからない。

 だけど、そんなレーヌも今日は困惑しているみたいよ。

 だって、ティファニーがとても沈痛そうな……悲しそうな顔をしているんですもの。


「ティファニー、どうしたの? なにかあったの?」


 ハンカチで口元を押さえて視線を伏せているティファニーの顔色は悪い。

 わたしが駆けよれば、ティファニーは小さく顔を上げ、「エドウィージュ王女殿下」と震える声で言った。

 ティファニーの隣に座って、ハンカチを持っていない方の手をきゅっと握る。

 ティファニーはまた目を伏せて、逡巡するように「あの」とか「その」という意味をなさない言葉を繰り返したあとで、意を決したようにまた顔を上げた。


「驚かないで聞いてくださいませ」

「ええ、わかったわ!」


 と反射的に答えたけれど、びっくりするような内容だったらどうしましょう。お父様のぎっくり腰情報程度では驚きはしないから、わたしが驚くようなお話ってなかなかないと思うけれど。

 お茶やお菓子が運ばれてくる前に話しはじめたわたしとティファニーの横で、レーヌが紅茶を入れる準備をはじめた。

 カチャカチャと小さな音が響く中、ティファニーが一度深呼吸をする。


「実は、シャルル様の浮気の一報が届いたのです」


 ガチャーンッ!


 これは、わたしの心臓が壊れる音ではないわ。レーヌがティーカップを取り落とした音よ。

 わたしはと言うと、何を言われたのかすぐに理解できなくて、瞬きを繰り返すのに忙しかったわ。


 えーっと……なんですって?

 うわき?

 うわきってなにかしら。


 うちわ……は遠い東の国にあるという扇みたいなもののことよね。

 うきわ……は泳ぐときに使うものらしいわ。泳いだことはないけれど。


 じゃあ、うわき、は?

 うわき、うわき、うわき……浮気……はっ!


 わたしはカッと目を見開いた。


 隣国に嫁いだファヴィエンヌお姉様からもらった恋愛バイブル――もとい、恋愛小説の中にあったわそんな言葉が‼

 浮気――夫婦や恋人など特定の相手がいるものが、別の異性に心を移して不純な関係になること(出典・ファヴィエンヌお姉様の恋愛バイブル)。


「なんですってええええええええ⁉」


 十数秒遅れて、わたしは大声で叫んだ。

 すでにその頃には、壊したティーカップの破片も放置で、レーヌがティファニーに食って掛かっているところだった。

 ティーカップの破片は、そのままにして置いたら危ないからと、ジェラルドがレーヌの代わりに片付けている。


「ちょっとそこの陰険魔女‼ どういうことですか⁉ 説明しなさい‼」

「い、陰険魔女ですって⁉」

「陰険が嫌ならマウント魔女と呼んで差し上げます。いいからとっとと説明しやがれっ!」


 レーヌってば、ティファニーの襟元を掴み上げて鼻の頭がくっつくほど顔を近づけているわ。興奮しすぎて言葉も崩れているけれど、今のわたしにレーヌを止める心の余裕はない。


「うわ、うわっ、うわっ!」

「エドウィージュ様落ち着いてください。はい、深呼吸して。情報確認はレーヌに任せて、こちらへどうぞ。メイドに冷たいお茶を運ぶように伝えたので……ああ、来ましたね。さあ、これを飲んで、はい、ごっくん」

「ごっくん!」


 ジェラルドに言われるまま冷たいレモンティーを飲んで、わたしはふーっと息を吐き出した。

 だけど頭は未だに大混乱の極みよ。


 浮気ってどういうことなの⁉

 シャルルが浮気したってこと⁉

 それともどこかのマダムが浮気しようとしてシャルルにちょっかいを出したってこと⁉

 どっちも嫌だけど‼


 人生において、ここまで混乱したのははじめてよ。

 マノンが高い木の上から降りられなくなった時だってこんなに混乱しなかったわ。だってあのときはどうやって助けるか、それを考えることでいっぱいいっぱいだったもの!


 わたしがコップを両手で握りしめて青ざめていると、レーヌがティファニーの襟元を掴んでがくがくと揺らす。

 ティファニーが「はなっ」「はなっ」と叫んでいるけれど、お花が欲しいのかしら。お花はいくらでもあげるから、その前にシャルルの浮気のことを詳しく教えてほしいんだけど。


「ジェラルド、浮気の一報っていうのは、何かの暗号だったりするのかしら?」

「すごく混乱しているのはわかるんですが、エドウィージュ様、さすがにそんなおかしな暗号はありませんよ」

「そう……」


 暗号だったらよかったのに。その言葉はそのまんまの意味なのね。

 まだ頭の中は混乱しているけれど「浮気」という言葉の意味は理解できた。

 理解できると、胸の中がぎゅーっと苦しくなる。


 つまりあれかしら?

 シャルルにはわたし以外の好きな人ができたのかしら?

 わたしとの結婚が嫌になったのかしら?

 北に、とっても素敵な女性がいたのかしら?

 婚約を解消したいのかしら?


 ……もうすぐ帰るって、ここでわたしが待っていたら嬉しいって、手紙に書いてくれたのに。


 あれは嘘だったのだろうか。

 それとも、手紙を書いた後で浮気相手の女性と出会ってしまったのだろうか。


 わたしはまだシャルルのフードの下の顔を見ていないのに、彼はその女性の前ではフードを外して、微笑みかけたりするのかしら。

 手を繋いでデートをしたりするのかしら。

 まさかキスとか……しちゃったり、するのかしら?


 まだどれも、わたしとはしていないのに。


 ……どうしよう。泣きそうだわ。


 だけどここで泣いたら、レーヌもジェラルドもティファニーも困っちゃうわよね。

 だからわたしは、泣きたいのを奥歯を噛んでぐっと我慢する。

 自分の感情を抑えることで精いっぱいのわたしの代わりにってわけではないんだろうけど、レーヌがカッカと怒ってティファニーに食って掛かっていた。


「あんのくそったれ侯爵は、エドウィージュ様という世界一可愛くて可憐な婚約者がいるというのに浮気しやがったと、そう言うことでいいんですね⁉」

「そ、そうだって言っているじゃないっ!」

「その相手の女はどこのどいつですか⁉ 二人まとめてこのわたくしが地中深くに埋めてやりますよ‼ ふざけやがって‼」

「しっ、知らないわよ! わたしが知るわけないでしょ⁉ とにかく、そういう情報が入ったってだけよ! 離しなさいよこのくそ侍女! 苦しいじゃないのっ!」


 キレたレーヌの口の悪さが伝線したのか、ティファニーまで言葉が崩れちゃっているわ。

 レーヌに襟元を掴まれて揺さぶられて腹が立ったのか、ティファニーはレーヌの手を振り払うと憤然と立ち上がる。


「とにかくそういうことよ! エドウィージュ王女殿下、このようなことを言うのは大変心苦しいのですが、シャルル様のことはお諦めになった方がいいですわ。シャルル様は浮気相手の女性と、とても愛し合っていらっしゃるそうですの。では失礼いたしますわね」


 これ以上ここにいたらそこの侍女に何されるかわからないわとぶつぶつ言いながら、ティファニーがそそくさとサロンを出て行った。


 ……とても愛し合っている。


 その言葉が、わたしの胸にぐさりと突き刺さる。

 シャルルは……わたしを妻に望んでくれたシャルルは、わたし以外の別の女性が好きになって、深く愛し合っているのね。


 もう、わたしのことは……好きでは、ないのね?


 ティファニーが去ったあとも、ソファに座ったまま立ち上がることもできないわたしの肩を、レーヌがそっと抱き寄せてくれる。


 ……どうしてかしら。さっきまで泣きそうで泣きそうで、涙をこらえるのに必死だったのに……涙が出てこないわ。


 茫然、というのはこういうことを言うのかしら。

 頭が動かないの。


 ……ねえ、わたしはこれから、どうしたらいいのかしら?


 誰か、教えて。





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