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転生したら奴隷でした。  作者: 二一人


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13/20

13話 物語を紡ぐは新たな仲間。

「問題ないな」


 足に力を込めても違和感はない。

 これなら走ったりしても問題ないだろう。


 あれから三日が経った。

 執事に言われた通り、今日から活動を再開する。ミナ伝いでシュリにも伝えてあるので、ギルドに向かっている最中だ。


(数日空けてからの迷宮は緊張する。今日はいつも以上に集中しないと)


 改めて自分に戒めていると、ギルドへ向かう道すがら、見慣れた緑の外套を見つけた。

 忙しなく動く足に、ヒョコヒョコと揺れる背負い袋。なんだか懐かしいとすら思ってしまうその後ろ姿に安堵する。


「シュリ」

 声をかけると、バッと振り返った。

 目があって俺だと分かると、口元を緩める。


「……治った?」

「大体は」

 シュリはしばらく俺の足元を見ていた。それから、小さく頷いた。


「よかった」

「心配かけたな」

「……別に」

 いつも通りの短い返事だった。だが、その声にわずかな柔らかさがあった。


「子どもたちの熱は」

「もう平気。ありがとう」

 珍しく、はっきりと礼を言った。

 並んで歩きながら、この十日ほどのことを話した。お互いが何をしていたか。ミナやガド、トリエの様子など。子どもたちがガドに懐いてしまったとも言っていた。


 子どもに寄り付かれるガドの姿は、なぜか簡単に想像できて笑えた。

 そうして話していると、すぐにギルドが見える通りに出た。


「さて、今日も頑張るか」

「うん」

 二人で入口に向かう。

 ギルドに着いて扉を開けると、セルナがすぐに気づいた。


「ユウトさん、お帰りなさい。足はもう」

「大丈夫です」

「ちょうど良かった。実は、募集の件でご連絡したいことが」


 同行者募集の板に貼っていた紙のことか。もうずいぶん前に貼ったきり、応募がなかった。


「応募があったんですか」

「はい。お二人、今日いらっしゃる予定です」

 セルナの声が、少しだけ硬かった。

 気まずそうというか、これから起こることを想定してそうというか。


「何か問題が?」

「……いえ。会っていただければ分かるかと」

 歯切れの悪い言い方だ。

 しかし、どっちみち会って話してみなきゃ分からない。


 シュリと目があってうなずき合う。


 その後、ギルドに併設されている酒場の端の席で待つことにした。


     ◆


 しばらくして、その二人は現れた。


 一人は肌が黒い男だった。短髪の白い髪。無口そうな顔つきで、装備は実用一辺倒。特に飾り気もないが、体には無数の切り傷がある。


 もう一人は女で、こちらは対照的だった。

 仕立ての良さそうなローブ。手入れの行き届いた杖。金色の髪はきっちりと結い上げられていて、化粧もしている。迷宮に潜る格好というより、どこか社交の場に出るような身なりだった。


『戦士』と『魔法使い』が来ると聞いていた。明らかに男は戦士、女は魔法使いだ。知り合いには見えない。


 その女がこちらを一瞥した。


「これが応募先? 聞いていた話と違うわ」


 セルナが割って入った。


「こちらがユウトさんとシュリさんです。今回のパーティに」

「ちょっと待って」

 女が手を上げて遮った。

 その後、はっきりと俺の方を指さす。


「奴隷でしょう、この人」

 俺の首筋を見ながら言う。その目は明らかに軽蔑しているものだった。

 セルナが困ったように目を泳がせている。


「えーと……」

「この私に奴隷とパーティを組めって? それに」

 視線がシュリに移る。フードの隙間からのぞく耳を見て、わずかに眉をひそめた。


「獣人まで。冗談じゃないわ」

 その場の空気が冷えた。

 俺は好き勝手言われても何も言わないようにしていた。立場が違うし、何を言っても仕方のないことだと思っていたから。覚悟していたことだ。


 けど、シュリを侮辱されたら流石に黙ってられないな。


「セルナさん。この件は無かったことにしてくれますか」


 俺が言うと、女が眉を上げた。


「あら、この私を拒否するの。奴隷のくせに」

「あなたと組むより、二人で潜る方が安全だと判断しました」

 女の顔色が変わった。

 実際、大した実績もない、同じランクのくせに自尊心(プライド)の高い人物だということはもう十分分かった。この人と迷宮を潜ったところを想像しても悪い予感しかしない。


「――生意気ね」

 睨みつけてくる。だが、こちらが引く理由もなかった。

 すると、セルナが慌てて間に入った。


「お、お待ちください。エルミラさん、ユウトさん。今日だけでも一度組んでいただけませんか」

「なぜ私が」

 エルミラと呼ばれた女が不満そうに言う。

 こっちの台詞だ。どう考えてもこの女は迷宮の適正がない。論外だ。


「本日、他に空いている前衛の方がいないんです。それに……エルミラさんのお父上からも、実績を積んでほしいとのご要望が」


 女がわずかに眉を寄せた。父親、という言葉に反応したようだった。


「……仕方ないわね。今日だけよ」

 しぶしぶ、という様子で言った。

 俺はシュリに目をやった。シュリは小さく息を吐いた。


「……今日だけなら」

 二人とも、渋々の了承だった。


「ありがとうございます。……ジャコルさんも、よろしくお願いします」


 無口な男が、初めて口を開いた。


「よろしく」


 それだけだった。


     ◆


 迷宮の入口で、四人が向き合った。


「先頭は俺が行く。他のメンバーは俺に続くように」


 俺が言うと、エルミラが鼻を鳴らした。


「奴隷が指示するのね」

「役割だからです。索敵と罠の解除をします」

「……ふん」

 不満そうだったが、反論はしなかった。

 石門が開く。冷たい空気が流れてくる。


「行きましょう」


 俺が先頭に立ち、シュリが後方、エルミラとジャコルが中央に入る形で進んだ。


     ◆


 迷宮に入って数十分は経過した。


 最初、エルミラは俺が罠を解除したときは何も言わなかった。それが当然の役割、と言わんばかりの様子だった。

 次に、俺とシュリが索敵をして、暗闇の先からブラッドラットが現れた。シュリが矢を放ち、俺が音を立てずに近づいて仕留めると、その様子を見ていたエルミラは息を呑んだ。


「……この二人だけで、一層を回ってるの」

 小さく呟くのが聞こえた。その声には若干の驚きが混じっているようだった。

 実際、ギルド内で二人だけで一層を攻略しているのは俺とシュリのパーティだけだ。それほど強力な敵が出ないことや、俺とシュリの補完が完璧に近いという点で相性がいい。比較的安定して回れている。


 俺とシュリが短刀を取り出して、ブラッドラットの死体に近づく。

 そして、剥ぎ取れる素材を取り出していく。爪、汚れていない毛皮。死体から吹き出す血を避けながらそれらを袋に詰めていると、エルミラが後ろで引きつった声を出した。


「うぅ……酷い匂い。それに汚いし……」

「金になるんだから、やるしかないでしょう」

「ユウト。ここの切り口、もう少し丁寧に」

「どこだ?」

「ここ。ここは刃を入れた後、少し上に傾けて……」

「なるほど……」

 シュリ先生に解体技術を教わる。

 慣れているからか、シュリの解体した素材と、俺が解体したものとでは品質が違う。売値が変わってくるから、彼女から学ぶのは必須だ。


「……低俗ね。私は絶対にやらないわ」

「見たい」

「あなたも!?」

 俺が教わっている所に、ジャコルも横から見てくる。

 ジャコルは無口だが、剣の扱いは堅実だった。無駄がない。前に出すぎず、下がりすぎず、常に一定の距離を保っている。戦闘の技術では俺より遥かに上を行くだろう。ただ、対魔物の戦い方ではないと感じる。対人に慣れている。そんな感じだ。


 予想よりも頼りになる。こうして学ぶ意欲もあるようだし……ただ、何を考えているのか分からない。表情が全く動かないのだ。それが冷静であるならいいが、この迷宮において感情表現が見えないのは、ある種怖い部分でもある。


     ◆


 解体が終わり、おれたちは歩を進めていた。

 しばらく進んだところで、リテルンの群れに遭遇した。


「――私がやるわ」

 今度はエルミラが前に出た。

 任せていいか判断に迷うが、群れは四体。仮に四体同時に突っ込んできても、俺とジャコルだけで十分対応できるだろう。


(お手並み拝見……)


 シュリやジャコルも、同じ考えのようだ。いつでも戦闘に臨める体勢を保ちつつ、エルミラの様子を見ている。


「ふんっ」

 エルミラは足を広げ、杖を掲げる。軸の通った美しい立ち姿だ。それだけで、彼女が自尊心だけの人ではないことが分かった。

 彼女の体から、言いようのない圧が増していく。存在感とも呼べるそれはどんどんと膨れ上がり、杖の先に集中していくのが分かる。


「……熱い」

 シュリが呟くと同時に、杖の先から炎が生まれた。

 その炎は揺らめく度に大きくなり、形を変えていく。徐々に細く、長く。


 それは、槍だ。


「――『火の槍(ファイア・ランス)』」


 杖の先から火の槍が弾かれるように放たれる。

 音もなく、矢のような速度で突き進むソレは、群れの中心に着弾し、爆発的に燃え広がった。


 数体が一瞬で消し炭になった。

 俺は驚いていた。攻撃魔法を初めて見たというのもあるが、想像以上の威力だった。魔物の群れと正面戦闘になったとしても、これだけで終わってしまうレベルの。


「悪くない」

 思わず口に出た。


「と、当然でしょう!」

 エルミラは得意げに笑った。その顔には彼女の本音が見えた。

 役に立てたことへの、隠しきれない満足感のようなものが。


     ◆


 探索は順調だった。


 罠は俺が処理し、遠距離はシュリとエルミラが担い、近接戦闘はジャコルが安定させる。

 バランスの良い編成だった。俺とシュリの二人だけで潜るよりも、安定している上に、進みが速い。

 エルミラは口は悪いが、指示にはちゃんと従った。ジャコルは無言でついてくるが、判断を誤らない。


(悪くないパーティかもしれない)


 そう思い始めていた矢先だった。


     ◆


 通路の分岐に差し掛かったときだった。


「右に行こう」

 俺が言うと、エルミラが少し前に出た。


 探索が順調なこともあって、彼女は意気揚々としていた。


「私が先に見てみるわ!」

「いや、先頭は――」

「ちょっとくらい構わないでしょう」


 止める間もなく、彼女は数歩先に進んでいた。


「待て、そこは――」

 カチリ。

 嫌な音がした。

 エルミラの足元の石畳が、わずかに沈んだ。


「え――」

 彼女が声を上げた瞬間、その場の床が抜け落ちた。


「エルミラ!」

 駆け寄ったが、間に合わなかった。

 石の破片と土煙の中、彼女の姿が真っ暗な穴の底へ消えていく。


「――ッ!」

 悲鳴が、遠く小さくなっていった。


 しばらく、誰も動けなかった。

 穴の縁から下を覗く。真っ暗で、底が見えない。


「……落とし穴の罠、だと思ってた。ただの」

 俺は唇を噛んだ。

 仮に踏んだとしても、危険は少ないはずだった。普段の罠なら。


「にしては、深すぎる」

 シュリが冷静に言った。

 穴の奥は暗闇だ。何も見えない。


「これは……」

 ジャコルが穴の縁に膝をついて、下を見つめていた。その無口な顔に、初めて感情らしいものが浮かんでいた。


「二層に、繋がってる穴だ」


 全員が沈黙した。


(二層。まだ俺たちの誰も、足を踏み入れたことのない場所だ)


 穴の奥から、風が吹き上げてくる。


 冷たく、深い風だった。

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