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2018年 クリスマス 6年目 ~暗黒ケーキ~


「あの。お二人供、少々お時間ありますか?」


そう、遠慮がちに聞いてくるのは、薄水色の髪に色白の肌、青い瞳を持つ、サナカルア国無属妖精のラミ。

本来は手のひらサイズの妖精だが、今は人化している。


「何か用?」


ぶっきらぼうに問い返す彼は、サナカルア国闇属妖精、シャドウ君ことクロ君。

こちらも今は人化状態の彼は黒髪に黒目で見た目は若干幼さがあり、大人っぽいラミちゃんと並ぶと姉弟にも見える。


「えぇと……。」


「……早くしてくれる?」


言いづらそうに躊躇うラミに、クロ君はイライラとせっつく。


「すみません。……あの、今年は私達5人でクリスマスケーキを作ろう!と思ったのですが……その、盛大に失敗してしまいまして、……その事で、ルミがとても落ち込んd――」


「ルミィィィ!!大丈夫かぁー!?」


「あ、アハハハ……。」


話の途中で、奇声を上げて駆け出すのは、ルミ命のクロ君。そんな彼の姿に、ラミは困惑したように乾いた笑いを浮かべていた。

恐らく、『ルミが大変だ。』と言えば彼が飛び付く事を承知の上で、敢えてそういう言い方をしたのだろうが、予想通り過ぎて困惑しているのだろうか。

……まぁ、それは置いておいて。

僕は一つ気になった事を聞いてみる。


「ねぇ、ラミ。さっき5人と言っていたけれど、もしかしてそのケーキ作り、ミユちゃんも手伝ったのかな?」


「え?……えぇ。ご本人はとても渋ってらっしゃったのですが、ルミが『一緒にやる!』と言って譲らないので、どうしても!とお願いをし手伝って戴きました。」


「そっか。」


彼女が手伝ったのならばきっと、キッチンは凄い事になっているんだろうなぁ、と。



----------



「シャドぉぉぉー!!」


リビングに入る前から、涙混じりの絶叫が廊下に響き渡っていた。


何事か?と慌てて駆けつければ、リビングの床で泡を吹いたクロ君が倒れていた。その側には涙でグシャグシャのルミが、泣きながらクロ君に縋っている。

テーブルには皿に乗った、黒いスライムの様な物体。手をつけた形跡がある。

……もしやクロ君は、これを食べちゃったのかなぁ?勇者だねぇ。


彼の事はスルーしてキッチンへ向かえば、そこは正に大惨事。黒いスライムが、床や天井や壁のあっちこっちに飛び散っていた。



「ごめん。」


所在無さげに部屋の隅で突っ立っている彼女がそう呟く。

美結ちゃんは“分かる”の血筋で本人も能力持ち。

これはその副作用。

彼女が料理をすると食材は黒スライムになり、それが周囲に弾け飛ぶ……のかな?

そういえばと、彼女が実際に料理をし、黒スライムの製造をしている所を見た事がないことに気付いた。



「……ひぐっ。ねぇ、カルぅ。……ぐす。みんなで頑張ったんだけどね、……ひぐっ、上手に出来なかっ、うわぁぁーん!!」


足元に駆け寄ってきたと思ったら足を抱えて縋り付き、最後まで訴えを言えずに泣き崩れたのはルミ。

薄黄色の髪に黄緑色の瞳。身長は低く顔付きも幼い彼女は、見た目小学生であるが、実はこちらもサナカルア国光属の妖精。

あと2人。ミュウボア国、灯属妖精と地属妖精の姿が見当たらないが……。


「オイぃ~テメぇ~。ルミぃを泣かすとはぁ~良い度胸だなぁ~?」


キョロキョロとしていればルミの泣き声に反応したらしく、起き上がったクロ君が酔っ払った様に絡んで来た。だが、呂律は回っておらず、身体もフラフラで危なっかしい。



「……うぐっ、ひっぐ。シャドぉー。」


「おぉ~ヨシヨシ。ルミはぁ~いつも可愛いねへへ~。」


理性がぶっ飛んでいるらしく、クロ君はいつも以上にデレデレしている。普段、本人の前ではクールを気取っているハズなのだが。


「……あー、んだコラおめ~、ルミの料理が食べられねぇ~つーのかぁ~?あぁん?んな訳ねぇよなぁ~?ホラ食えぇ、食うんだよぉ~!!」


視線が合ったと思ったらその瞬間に彼の目付きは鋭くなり、テーブルにあった彼の食べかけの黒スライムを鷲掴んだかと思えばいきなり突進してきて、見事にそれを口内に突っ込まれた。

ビックリしたとはいえ、吐き出す訳にもいかないから条件反射的に咀嚼を始める。

まず感じたのは苦味。えげつない苦味が、舌の上をジュワーッと広がっていく。

食感は弾力のあるゴムのような。

なかなか歯が立たず、噛めば噛むほどより固く圧縮されていく。

それと同時に、しつこい渋味に口内を汚染されていった。


あぁ、これはヤバイかもねぇ?と思い早々に飲み込めば、その瞬間クロ君の表情がパッと輝く。


「うめぇだろ~?うめぇよなぁ~!さっすが俺の嫁さんだろぉ~。可愛いもんなぁ~。エヘエヘへ~♪」


「……そうだね。」


酔っ払いのぶっ飛んだ思考には適当に同意しておく。



「あの。……大丈夫ですか?」


すっかり機嫌を良くしたクロ君の代わりに、ラミが近付いてきて心配そうな言葉を掛けてくる。

だがその声は硬く、表情も険しい。


「……おや?もしかして、怒っているのかな?」


「当たり前です!何で、あんな危なそうな物食べたんですか!」


うーん。そう言われても……。


「自分の意思で食べた訳じゃないよ?」


「そ、そうかもしれませんが、わざわざ飲み込むことも無かったのでは?」


「……ねぇ。」


その時、トゲのある美結ちゃんの声が割り込んできた。


「ルミちゃんにデレッデレなクロ君がさー、アレを口に入れた瞬間、スイッチ切れたみたいにぶっ倒れたんだよねー。」


そう言って美結ちゃんは、困った様な、苦笑いの様な表情になる。


「ねぇ、なーんでアンタはそんなケロっとしてるの?」


僕の答えは、彼女も分かっているのだろう。


「僕は化け物だからね。」


通常なら害を及ぼす物質だとしても、僕の身体にとっては何の問題も無い。

そんな程度で倒れるほど、柔な造りはしてないよ。


「……むぅ。」


案の定な卑屈な返事に呆れたらしく、美結ちゃんは膨れてそっぽを向いた。

そこへ――



「なぉなぉー!」


天真爛漫な幼女がリビングへ駆け込んできた。

クルクルしたピンクの巻き髪に緋色の瞳。小学校低学年程度の幼い容姿。

ミュウボア国灯属妖精のヒィリだ。

そして、そんな幼女の後ろからは大人っぽい高校生か大学生くらいの女性。瞳はエメラルド色、髪はオレンジ色のロングストレートの彼女は、ミュウボア国地属妖精、ショコラ。

そんな彼女は、一見美味しそうなケーキの乗るお皿を手に持っていた。



「ねぇ、なぉなぉ!これヒーがね、“でこれーそん”したのー!食べてー?」


その言葉を聞いて、お皿を持つショコラが近付いてきたと思ったら、僕の近くのテーブルにケーキを置く。

そして呟くように一言。


「……フルーツならば問題はありませんが、他は口にしない方が宜しいかと。」


あー、こっちも失敗作なのかな?そうは見えないけど。

チョコレート色のスポンジにはピンク色のクリームが掛かっていて、その上にはたくさんのフルーツで飾り付けがされている。

見た感じは、普通に美味しそうだけどね……?

まぁ取り敢えずはフォークを持ってきて、言われた通りまずはフルーツを食べてみる。


「うん、おいしいよ。」


口に入れた瞬間、何か苦かった様な気がするけど気のせいかな。


「ほんとー?やったぁ♪ねぇーもっと食べて?いっぱい食べて?全部食べてー!」


「こら、ヒィリ?この人はさっき、お腹がいっぱいだと言っていましたよ。無理言っちゃダメです。」


「大丈夫ー♪おいしいからペロっと食べちゃうの!」


「あー、ハイハイ。」


うん。やっぱり、出されたものは残さずちゃんと食べないと……ね?

今度はフォークを縦に突き刺してみる。……おや?硬い。チョコレートのスポンジ部分が硬い。

それでもなんとか力業で切り分けて、口に運ぶ。すると、ジャリとした嫌な食感。砂を噛んでいるみたいだ。ちなみにクリームの方はとても苦い。黒スライムとは種類の違う苦みだが、こちらもえげつなく苦い。

なんとか飲み込んで、今度は口直しにとフルーツを食べてみるが、口内に残った先程の苦みと、フルーツの周りに付着したクリームの苦みのダブルバリアで味が分からない。

その後のチョコレートスポンジも苦い。フルーツも苦い。全部苦い。


それでもなんとか食べきって『ごちそうさま。』と言えば、ヒィリは満面の笑顔になった。


でも何故かなぁ?

部屋の中が若干、ピリピリしている気がする。

心配しなくても、僕なら問題ないんだけどなぁ。

だってホラ、身体の造りは化け物だもんねぇ?

っていうかそもそも、ちゃんと普通の食べ物を作ってくれると嬉しいな?


でも取り敢えず今は、何か口直しが欲しいかなー。

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