2019年12月24日 ~クリスマス~
瞳を開く。
そこはコンクリート壁に囲まれた殺風景な部屋。明かりは点いておらず、周囲は薄暗い。
見覚えの無い場所だ。直前までの記憶は無い。
彼を元の世界へ見送ったのが、遠く昔の様だ。
自分の名は……ユアンス・パスカル。
訳あって、こちらの世界に異世界召喚された少年少女達と共に旅をしていた。
だが、それも今は昔。今は──。今は?
ふと顔を上げれば、正面の様子が視界に入った。
宙に浮き、十字に組まれた柱に括りつけられている人間。服はボロボロの血塗れで、両手は横に伸び縄で柱に括られ、右足は無く、腹に刺さった杭で更に柱へと縫い付けられている。
紺色の髪。こちらをジッと観察するように見詰める黄色い瞳。
自身の身体を見下ろせば、腹からは杭が生え、横に伸びた両手は動かせず、左足は無く、服はボロボロで、身体は重力と垂直方向のまま宙に浮いており、どこかへ括り付けられている。
──鏡か。
宙に浮いた十字の柱に括られ、腹から杭を生やすあの人間。──あれは俺か。
諦念と共に現状を理解する。
何せ今更である。
拷問だの実験だの、それは遠い昔に──。
「ヤッホー!元気してるかぃ?我が愛しのモルモットくん!」
その時、唐突に室内の照明がパッと点いたかと思えば、そんなハツラツとした元気な声が室内に響いた。
「おやおや~ぁ?これはこれは。今日は一段と元気そうだねぇ、我が愛しのモルモットくぅん。こりゃぁ、我が世界の神に必至こいて願った甲斐があったってもんだよぅ~?うふ~!」
部屋に入ってきたのは、派手な蛍光ピンクの髪を後ろでポニーテールに結わえ、白衣を着ている女性。整った顔立ちとは裏腹にその表情は恍惚に歪んでいる。
──あぁ、奴等の同類か。
手に入れたオモチャを嬉々として破壊し嬲り壊す。彼女はそんな彼等と同じ目をしている。
「さーて。準備準備~。」
そう言うと彼女はこちらに背を向け、どこからかテーブルを引っ張ってくると、何やらカチャカチャと手を動かし始めた。
「今日はね、特別な日なんだぁ!!ねぇ、何の日か分かる?」
「…………。」
こちらへ振り向き、最高に楽しそうな瞳が向けられ、俺はスッと視線を逸らす。
アレと、まともに取り合ってはいけない。
「も~。元気なんだからちょっとはお話ししてよぅ。ぷっぷくぷぅ。」
反応が無い事を気にしていないのか、彼女は再度手を動かし始める。
だが、その口も止まらない。
「今日はね、クリスマスだよ。」
カチャカチャとした、微かな金属音。
「世界が止まっちゃったからね、どーしよっかなー?って。だから私、良い事思い付いたんだ!私がやる!って。だから、新品の君が欲しいなー!ってお願いしたの。だって、君達は私まで辿り着けないじゃん。そんなのつまらない。……ね?」
フッと、それまで鳴っていた金属音は止まり、彼女が体ごと振り向いた。
「あぁ……。」
彼女が一つ吐息を吐き、ツカツカとこちらへ歩み寄ってくる。
それと同時、カラカラと音を立て、自身の身体の高度が下がっていくのを感じる。
「やっぱりその瞳、とっても綺麗……。」
気付けば、怪しげな光を放つスカイブルーの瞳が、ごく間近から覗き込んでいた。
「髪もまだ青いね……。」
視線は逸らさないまま、彼女は愛おしそうな手付きで俺の髪を撫でる。寒気が走った。
「ねぇ、楽しもう?クリスマスだもんねぇ。」
髪を撫でる彼女の、反対の手に握られているのは鋭利に光る────。
クリスマスっぽくない……。




