第48話 勇者と黒魔導士、同じ依頼を受ける
Sランク昇格審査の模擬戦を終えた翌朝、レクスはベルン冒険者ギルドの受付で、一枚の依頼書を前にして考え込んでいた。
依頼そのものは珍しくない。
王国東部の小さな開拓村、その周辺で魔獣の目撃が増えたため、討伐と原因調査をしてほしい。
推定危険度はBランク。
目撃されているのは大型の牙狼が数頭と、猪型魔獣らしき影。家畜が三頭襲われたものの、今のところ人的被害はない。
依頼人は村長。
報酬も、Bランク依頼として普通だった。
「……普通だな」
レクスが言った。
受付の向こうで、ミリアが淡々と頷く。
「普通です」
「祭壇は?」
「報告されていません」
「黒い破片は?」
「ありません」
「古代遺跡?」
「ありません」
「国境?」
「ベルンから馬車で一日半ほどです。完全に王国内」
「呪いの症状は?」
「ありません」
「本当に?」
「レクスさん」
「何?」
「普通の依頼です」
「……そうか」
ここ最近、依頼書を開けば災害指定、古代封印、国境問題、呪術汚染のどれかが混ざっていたせいで、何もないことの方が不自然に感じるようになっていた。
それ自体、あまり健全ではない気がする。
「それで」
レクスは依頼書の下を見る。
「何で俺に?」
「Sランク昇格審査の実地依頼候補として中央ギルドから指定されています」
「Bランクなのに?」
「だからです」
「どういう意味?」
「災害級相手なら、レクスさんが強いのはもう十分確認されています」
ミリアは別の書類を一枚出した。
「今回は、必要以上の力を使わず、通常依頼を通常依頼として処理できるかを見るそうです」
「普通にやればいい?」
「普通にやってください」
「難しくない?」
「その質問が出る時点で少し不安です」
ミリアの返しが冷たい。
レクスがもう一度依頼書を見ると、同行者の欄に名前があった。
「ギルバート?」
「はい」
「何で?」
「中央ギルド側の希望です」
「勇者なのにBランク依頼?」
「勇者だからBランク依頼を受けてはいけない規則はありません」
「それはそうだけど」
ミリアは少しだけ口元を緩めた。
「それに、本人も了承しています」
「もう?」
「朝一番に来ました」
「早いな」
「レクスさんと同じ依頼だと聞いたら、五秒で受けました」
「何で」
「本人に聞いてください」
◇
本人は、ギルド前のベンチに座っていた。
聖剣は持っているが、王都で見せたような華美な装備ではなく、旅向けの軽装だ。隣には必要最低限の荷物と、なぜか釣り竿まで立てかけてある。
「何で釣り竿?」
レクスが最初に聞いた。
「村の近くに川あるって」
「依頼だぞ」
「夜は休むだろ」
「やる気ある?」
「あるよ!」
ギルバートが立ち上がる。
「むしろ、こういう依頼久しぶりだから楽しみなんだ」
「Bランク」
「分かってる」
「災害級じゃない」
「それも分かってる」
「本当に?」
「お前、俺を何だと思ってる?」
「昔なら『せっかくだからもっと強いの行こうぜ』って言いそう」
ギルバートが一瞬黙った。
「……昔なら言ったかも」
「だろ」
「でも今回は言わない」
「何で?」
「普通の依頼を普通にやる」
ギルバートは、少しだけ照れくさそうに肩を竦めた。
「俺も最近、それができるか試したくなった」
レクスは少し意外だった。
「再認定終わったのに?」
「終わったからだよ。大事件の時だけまともでも意味ないだろ」
「真面目だな」
「お前に言われたくない」
◇
二人だけで依頼へ向かう。
そう考えると、妙な感じがした。
昔は毎日のように一緒にいた。
ギルバートが前。
セシリアが後ろ。
バルガスが盾。
レクスが、誰にも見えないところで全部を整える。
それが当たり前だった。
今は。
パーティではない。
戻ったわけでもない。
たまたま同じ依頼を受けた、別の冒険者同士。
馬車の荷台に向かい合って座りながら、ギルバートも同じことを考えたのかもしれない。
「変な感じだな」
「何が?」
「二人で依頼」
「ああ」
「昔はなかったよな」
「たぶん」
「お前、前は後ろにいたし」
「今も後ろがいい」
「いや、位置じゃなくて」
「分かってる」
馬車が街道の石を踏み、軽く揺れる。
「戻った感じする?」
ギルバートが聞いた。
「しない」
レクスは即答した。
ギルバートは少し笑った。
「俺も」
「嫌?」
「いや」
窓の外を見る。
「その方がいいと思ってる」
以前なら、その言葉を聞けば何か重いものが残ったかもしれない。
今は。
そうでもなかった。
「昔と同じに戻す必要ないだろ」
レクスが言う。
「今の方が話しやすいし」
「……それ、少し複雑だな」
「何で?」
「三年一緒にいた時より、今の方が話しやすいって」
「昔、お前があんまり聞かなかったから」
「そこは本当に悪かった」
「俺も言わなかった」
「お前、何でも黙ってやるからな」
「今は言う」
「ようやくな」
それ以上は続けなかった。
謝罪。
後悔。
もう何度も話した。
今必要なのは、同じところを何度も掘ることではない。
◇
依頼先のラウゼ村へ着いたのは翌日の昼過ぎだった。
人口百人ほど。
畑と牧草地に囲まれた小さな村で、遠くに低い森が見える。
村長は六十代の男で、二人を見るなり目を丸くした。
「勇者様と……黒魔導士様?」
「レクスでいいです」
「ギルバートで」
「いやいやいや!」
村長は慌てて首を振る。
「Bランク依頼ですよ!?」
「知ってます」
レクスとギルバートが同時に答えた。
村長は余計に困った顔をした。
「報酬、増やせませんよ?」
「要らないです」
「いや、でも……」
「依頼書通りでいい」
ギルバートも言う。
「家畜が襲われた場所を見たい」
「は、はい」
案内される。
村の北。
柵。
壊れている。
土。
足跡。
血。
レクスはしゃがんだ。
「大きいな」
「牙狼?」
ギルバートが隣で見る。
「似てる」
「何頭?」
「三……いや、四」
少し離れて。
別。
重い。
蹄。
「猪型もいる」
「一緒に?」
「たぶん」
普通なら。
別種の魔獣が。
同じ場所。
珍しい。
でも。
それだけで。
異常。
とは限らない。
「深層王の影響?」
ギルバートが聞く。
レクスはすぐ首を振った。
「まだ分からない」
「そうだな」
以前なら。
魔獣移動。
黒い祭壇。
古代ネットワーク。
そこへ。
思考が飛んだ。
今は。
証拠。
先。
「まず追う」
「了解」
◇
森へ入って一時間。
痕跡。
見つかる。
枝。
折れ。
獣毛。
泥。
「向こう」
ギルバートが言う。
「分かる?」
「足跡」
「前より見てるな」
「再認定試験で散々やった」
「役に立ってる」
「一応、勇者だからな」
「そこ?」
「少しくらい言わせろ」
先へ。
牙狼。
一頭。
姿。
現れる。
灰色。
体長。
二メートル近い。
Bランク。
「一頭だけ?」
ギルバート。
「後ろに二」
レクス。
「見える?」
「気配」
「じゃあ」
ギルバート。
聖剣。
抜こうとする。
レクス。
「待って」
「何?」
「三頭だけなら」
「弱くする?」
「少し」
「どのくらい?」
レクスは。
牙狼。
見る。
「速度五十。攻撃力三十」
「九十九じゃない?」
「要らない」
「じゃあ俺が?」
「普通に倒して」
ギルバートは。
一瞬。
妙な顔。
「何?」
「いや」
「何」
「昔のお前なら全部落としてた気がする」
「そうかも」
「今は?」
「必要な分だけ」
《深淵呪詛》。
速度。
五十。
攻撃。
三十。
三頭。
同時。
牙狼。
飛び出す。
遅い。
でも。
遅すぎない。
ギルバート。
前。
聖剣。
通常斬撃。
一頭。
首。
仕留める。
二頭目。
横。
ギルバート。
避ける。
切る。
三頭目。
レクス側。
「俺?」
杖。
構える。
牙。
来る。
「攻撃力、追加二十」
総計。
五十程度。
レクス。
横。
避ける。
「ギルバート!」
「分かってる!」
勇者。
戻る。
斬る。
終了。
数十秒。
「……普通だ」
ギルバートが言った。
「何が?」
「戦闘」
「Bランクだから」
「いや」
血。
払う。
「お前が九十九まで落としてない」
「必要ない」
「そうだよな」
少し。
笑う。
「何か変な感じ」
「何で?」
「昔なら、俺たちが強いと思って終わってたかもな」
レクスは。
少し。
黙る。
「今は?」
「半分弱くされてたの分かってる」
「それでも倒せる?」
「倒せる」
「なら十分」
「うん」
◇
問題は。
牙狼ではなかった。
さらに森。
奥。
猪型魔獣。
五頭。
その近く。
地面。
掘り返されている。
「何これ」
ギルバート。
「餌?」
レクス。
見る。
木の根。
地中。
白い。
塊。
「茸?」
「たぶん」
野生。
魔力。
含む。
地下茸。
普通。
魔獣。
好む。
ただ。
量。
異常。
「これが増えて」
「牙狼も猪も集まった?」
「可能性高い」
「黒い何かじゃない?」
「ない」
「祭壇も?」
「ない」
二人。
少し。
沈黙。
「……本当に普通の自然現象?」
「たぶん」
「最近それが一番珍しいな」
「分かる」
地下茸。
原因。
湿度。
魔力。
森奥に。
倒木。
腐敗。
地脈。
薄く。
溜まる。
季節。
重なった。
それだけ。
「じゃあ」
ギルバート。
「全部倒す?」
レクス。
猪型。
見る。
五。
Bランク下位。
危険。
でも。
全滅。
必要?
「村に近いのだけ」
「残りは?」
「奥へ誘導できるなら」
「どうやって?」
レクス。
少し考える。
地下茸。
「餌」
「使う?」
「集めて、もっと奥」
「なるほど」
「魔獣全部殺す必要ない」
「依頼は討伐って書いてる」
「被害原因除去でもいいって下にある」
「読んでた?」
「全部」
「偉いな」
「普通だろ」
「俺、最初の二行しか」
「勇者」
「今読む!」
◇
結局。
村周辺へ出ていた猪型二頭。
討伐。
残る三頭。
地下茸の群生地。
さらに森奥へ。
誘導。
牙狼。
他に二頭。
確認。
村へ向かう経路。
塞ぐ。
必要な戦闘だけ。
レクス。
速度。
嗅覚。
攻撃力。
適度。
下げる。
ギルバート。
倒す。
あるいは。
追い払う。
「これ」
ギルバートが。
途中で。
言う。
「何?」
「楽だな」
「Bランクだから?」
「それもあるけど」
少し。
考える。
「全部お前がやってない」
「うん」
「全部俺もやってない」
「うん」
「でも終わる」
「それが普通じゃない?」
ギルバート。
笑う。
「昔の俺ら、普通じゃなかったな」
「強かったから」
「違う」
「何が?」
「強かったと思ってたから」
レクス。
少し。
黙る。
「厳しいな」
「自分に?」
「ああ」
「でも、今なら言えるだろ」
「何を?」
「俺たち、強かったよ」
「……」
「でも」
ギルバート。
森。
見る。
「お前の力込みで」
レクス。
少し。
笑う。
「今さらだな」
「今さらだから言える」
◇
夕方。
村へ。
戻る。
報告。
村長。
ほっと。
肩。
落とす。
「全部倒したんですか?」
「いや」
レクス。
「村周辺の個体だけ」
「残りは?」
「森奥へ」
「大丈夫ですか?」
「地下茸が奥で増えてる。それ目当て」
「じゃあまた来る?」
「群生地が村側へ広がらなければ」
村長。
少し。
不安。
「完全に討伐した方が?」
ギルバートが。
横から。
口。
開く。
「全部殺しても、餌が残れば別の魔獣が来る」
「……あ」
「今回は原因の方を確認した」
レクス。
「二週間後くらいに、ギルドへ群生地確認頼んで」
「あなた方が?」
「別の人でいい」
村長。
少し。
驚く。
「別の人で?」
「普通の調査だから」
「でも黒魔導士様なら」
「俺じゃなくていい」
その言い方。
前より。
自然。
だった。
◇
夜。
村の宿。
小さい。
食堂。
パン。
煮込み。
野菜。
二人。
向かい。
「久しぶりだな」
ギルバートが言う。
「何が?」
「こういう飯」
「普通の宿?」
「ああ」
「王都だといいもの食べてた?」
「勇者用の席って面倒なんだよ」
「贅沢」
「分かってる。でも」
スープ。
飲む。
「こういうの落ち着く」
「俺も」
「お前、昔からそうだったよな」
「何が?」
「高い飯より普通の店」
「腹いっぱいになればいい」
「そのくせ釣った魚にはこだわる」
「自分で釣るから」
「そこ違う?」
「かなり」
食事。
終わる。
夜。
外。
川。
小さい。
ギルバート。
当然のように。
釣り竿。
「本当に持ってきたんだな」
「言っただろ」
「依頼中なのに」
「もう今日は終わった」
「見張りは?」
「交代」
「二人しかいない」
「じゃあ先にお前、後で俺」
「釣る時間減るぞ」
「……」
ギルバート。
真剣。
考える。
「そこ悩むんだ」
「大事」
「見張り優先」
「分かってる」
◇
最初の見張り。
レクス。
ギルバート。
川。
糸。
垂らす。
珍しく。
静か。
「なあ」
ギルバートが。
小さく。
言う。
「何?」
「追放した日のこと」
レクスの手。
少し。
止まる。
「急だな」
「こういう普通の依頼やったから」
「何で?」
「思い出した」
夜。
水。
流れる音。
「俺」
ギルバート。
浮き。
見る。
「本気で、お前いなくても何も変わらないと思ってた」
「知ってる」
「むしろ良くなるって」
「それも聞いた」
「言ったな」
「皆の前で」
「……あれは本当に最悪だった」
レクス。
すぐ。
慰めない。
必要ない。
「でも」
ギルバート。
続ける。
「今なら分かる」
「何が?」
「お前が全部黙ってやってたから、俺たちも分からなかった」
「うん」
「だからって追い出した俺が悪くないことにはならない」
「うん」
「でも」
言いにくそう。
「お前も悪かったって言いたいわけじゃないんだ」
「分かる」
「本当に?」
「俺も、最近そう思うから」
ギルバート。
こちら。
見る。
「何を?」
「何でも俺がやればいいと思ってた」
「……」
「言うの面倒だったし」
「そこ?」
「説明してる間にやった方が早い」
「お前らしいな」
「でも」
レクス。
川。
見る。
「それで皆が何も知らないままになった」
ギルバート。
黙る。
「だから」
レクス。
「今は、必要なら言う」
「何を弱くしたとか?」
「ああ」
「今日も」
「うん」
「速度五十、攻撃三十」
「聞いてた?」
「ちゃんと」
「成長したな」
「お前が言うな」
二人。
少し。
笑う。
◇
「戻りたいとは思わない?」
ギルバート。
聞く。
レクス。
答え。
早い。
「思わない」
「だよな」
「お前は?」
「昔の形には」
ギルバート。
首。
横。
「戻らなくていい」
「寂しい?」
「少し」
正直。
「でも」
ギルバート。
釣り糸。
指。
触る。
「今こうして一緒に依頼できるなら、それでいい気もする」
「毎回は嫌」
「何で?」
「休みたい」
「そこかよ」
「大事だろ」
「じゃあたまに」
「たまになら」
「……それ、結構嬉しいな」
「何で?」
「昔のお前なら、もう二度と組まないって言うと思ってた」
「戻らないとは言った」
「うん」
「一緒に仕事しないとは言ってない」
「そうなんだよな」
ギルバートが。
小さく。
笑う。
「そこ、俺が勝手に同じだと思ってた」
「違う」
「今は分かる」
◇
その時。
ギルバートの浮きが。
沈む。
「来た」
レクス。
小声。
「分かってる」
「今?」
「聞かない」
「成長した」
「黙れ」
待つ。
少し。
糸。
張る。
ギルバート。
合わせる。
魚。
水面。
跳ねる。
「よし!」
声。
抑える。
以前より。
上手い。
「大きい?」
「普通」
「前より?」
「少し大きい」
「勝った?」
「誰に」
「前の俺」
「それなら勝ってる」
ギルバート。
魚。
手。
見る。
「持って帰る?」
レクス。
「どうする?」
少し。
迷う。
「今日は食う」
「前は逃がした」
「今日は腹減った」
「そういう理由?」
「駄目?」
「普通」
「ならいい」
◇
翌朝。
村。
出発。
依頼。
完了。
魔獣。
必要数。
討伐。
原因。
判明。
村人。
被害なし。
ギルバート。
釣果。
一匹。
「それも報告書に書く?」
レクスが聞く。
「書かない」
「成果なのに」
「依頼関係ない!」
馬車。
揺れる。
帰り道。
ギルバートが。
少し。
眠そう。
「普通の依頼って」
「何?」
「いいな」
「大事件より?」
「毎回世界滅びそうなのは嫌だ」
「それはそう」
「またこういうの受けたい」
「たまになら」
「約束?」
「依頼次第」
「それでいい」
ベルンへ。
戻る。
◇
ミリア。
報告書。
読む。
「全魔獣討伐はしていない?」
「必要ないから」
レクス。
「村側個体だけ」
「理由は?」
「地下茸」
「群生地?」
「森奥」
「再確認依頼を?」
「別の冒険者で十分」
ミリア。
少し。
頷く。
「適切ですね」
次。
ギルバート。
報告。
「戦闘?」
「問題なし」
「無理は?」
「してない」
「レクスさんの弱体化は?」
「必要分だけ」
ミリア。
レクス。
見る。
「九十九まで落とさなかった?」
「一回も」
「珍しいですね」
「そんな毎回やってないだろ」
「昔はかなり」
「必要だったから」
「今回は?」
「必要なかった」
ミリア。
記録。
書く。
「では実地依頼、問題なしとして中央へ送ります」
「Sランク審査?」
「はい」
「これで終わり?」
「まだです」
「やっぱり」
「でも」
ミリア。
少し。
笑う。
「普通の依頼を普通に終わらせた、というのは良い記録になると思います」
「それ褒められてる?」
「かなり」
「基準変じゃない?」
「レクスさんには必要です」
◇
ギルド。
出る。
ギルバート。
隣。
「次どうする?」
「休む」
「釣り?」
「今日は寝る」
「珍しい」
「馬車疲れた」
「俺も」
「じゃあ帰れ」
「そうする」
別れる。
数歩。
ギルバート。
振り返る。
「レクス」
「何?」
「またな」
「ああ」
ただ。
それだけ。
昔なら。
「また明日」。
毎日。
同じパーティ。
同じ依頼。
今は。
次が。
いつかは。
分からない。
それでも。
また。
はある。
レクスは。
それで十分だと思った。
戻らなくてもいい。
やり直さなくてもいい。
昔をなかったことにする必要もない。
別々に歩きながら。
必要な時だけ。
横へ並ぶ。
そういう関係も。
悪くなかった。
そして。
その日の夕方。
ベルンへ向かう北東街道で。
一人の少年が倒れているのを見つけた荷馬車の御者が、冒険者ギルドへ駆け込んだ。
少年の右手には。
黒い紋章が刻まれていた。




