第32話 勇者からの手紙
ギルバートから届いた手紙を読み終えた後も、レクスはしばらく紙を畳まなかった。
『再認定された。
まだ昔みたいに何でもできるわけじゃないし、たぶんその方がいいんだと思う。
約束したから報告する。
次に会った時は、少しくらい胸を張ってお前と話せそうだ。
あと、釣りはまだそんなに面白いのか?』
最後の一文だけ、どうにも浮いている。
勇者資格の再認定という、それなりに大きな報告を書いた直後に聞くことが釣りなのかと思う。
しかし、だからこそギルバートらしい気もした。
「まだ読んでるの?」
隣の卓で古い術式図を整理していたクラウディアが声を掛けた。
「もう読んだ」
「なら、なんで持ったままなの?」
「何となく」
「珍しいわね」
「何が?」
「あなた、依頼書でも手紙でも、読み終わったらすぐ畳むでしょう」
言われてみればそうだった。
必要な内容を頭へ入れたら、紙そのものをいつまでも眺めることは少ない。
レクスはようやく手紙を二つ折りにし、机の端へ置いた。
「再認定されたのが、そんなに嬉しかった?」
「嬉しいというか……よかったとは思う」
「素直ね」
「何でそこで驚くんだ」
「少し前まで、ギルバートの話になると『別に』って顔してたから」
「戻るつもりがないのと、あいつらがどうなってもいいのは別だろ」
クラウディアの手が止まった。
「そういうもの?」
「ああ」
「追い出されたのに?」
「追い出されたからって、死ねばいいとは思ってない」
「そこまで聞いてないわよ」
「じゃあ何を聞いてるんだ」
「三年間一緒にいた相手が、自分なしでもう一度立てるようになったことを、どう思ってるのかなって」
レクスは少し考えた。
難しい質問ではない。
ただ、一言で答えるには少しだけ感情が混ざりすぎていた。
「安心した」
「安心?」
「ああ」
レクスは卓の上へ肘を置く。
「あいつらが俺のところへ来た時、正直、少し心配だった」
「戻ってくれって言われた時?」
「それもある」
ギルバートは変わり始めていた。
セシリアも。
バルガスも。
それでも、レクスが戻れば。
また以前と似た形へ戻ってしまう可能性はあった。
困ればレクスが弱くする。
足りなければレクスが補う。
装備も。
探索も。
野営も。
全部。
誰か一人が何でもやる状態は、短い間なら楽だ。
けれど、その人間が抜けた瞬間に何も残らない。
「俺が戻らないって言って、その後どうするかは、あいつら次第だった」
「ちゃんとやったみたいね」
「ああ」
「再認定の詳しい内容は書いてなかった?」
「そこまでは」
「気にならない?」
「少しは」
「少しなんだ」
「長い報告書を送られても困る」
「それは分かる」
クラウディアが笑った。
「でも、『昔みたいに何でもできるわけじゃないし、たぶんその方がいい』って書くくらいなら、相当考え方が変わったんでしょうね」
「前なら絶対書かない」
「どんな手紙だったと思う?」
レクスは少し想像した。
「『当然だが再認定された。これで俺が勇者だと証明された』とか」
クラウディアが噴き出した。
「言いそう」
「だろ」
「本人に聞かれたら怒るわよ」
「昔のあいつなら言ってたと思う」
「今のギルバートなら?」
レクスは手紙を見る。
「怒る前に、一回考えるんじゃないか」
「それなら本当に変わったわね」
レクスは頷いた。
たぶん。
それが一番大きい。
強くなったかどうかではない。
勇者の称号を守れたことですらない。
言われたことを一度、自分の中へ入れて考えるようになった。
以前のギルバートには、それがほとんどなかった。
「で」
クラウディアが手紙へ顎を向ける。
「釣りの返事は?」
「面白いって書いた」
「それだけ?」
「あと、こっちは少し大きな仕事になりそうだって」
「少し?」
クラウディアが眉を上げる。
「四百年前に三王国でも倒せなかった相手が眠ってるかもしれないのに?」
「まだ起きてない」
「そこ?」
「大きな仕事ではあるだろ」
「『少し』はいらないと思うんだけど」
「書き直す?」
「もう封したんでしょう」
「じゃあいい」
「あなたたち、本当に似てないようで変なところが似てるわね」
「どこが?」
「大事なことを妙に短く書くところ」
レクスには分からなかった。
◇
同じ頃。
王都では、再認定を終えたばかりのギルバートが、もう一枚の文書を前に黙り込んでいた。
「……旧バルハ廃都?」
中央冒険者ギルドの会議室。
つい先日まで再認定審査を受けていた同じ建物だったが、今日は呼び出された理由が違う。
机の向こうには中央ギルドの幹部と王国騎士団の連絡官。
隣にはセシリアとバルガス。
ギルバートは文書を読み返す。
国境を越えて広がる寄生呪詛。
黒い祭壇。
生命力の収集。
魔物への異常強化。
神話指定を含む魔物の南下。
そして、四百年前の巨大封印。
「これ、本当にレクスがいるところの話なのか?」
「いるどころか、中心にいるわね」
セシリアが横から文書を覗き込む。
「重症者十六人を治療、その後は現地呪術師へ解除方法を共有。旧封印術式の分析にも参加」
「またあいつ、俺たちと別れてから数週間も経ってないのに国越えてないか?」
バルガスが言う。
「しかも世界規模の厄介事っぽくなってる」
「世界規模まではまだ分からないでしょう」
「四百年前に三王国で倒せなかった奴なら、十分でかいだろ」
ギルバートは文書を置いた。
「何であいつの周りばっかり、こんな化け物が出るんだ?」
中央ギルド幹部が淡々と答える。
「正確には、レクス・アルヴァーンが異変のある場所へ呼ばれている」
「同じに聞こえる」
「違う。彼が原因ではない」
「分かってます」
少し前なら。
もしかすると、本気で思ったかもしれない。
レクスがいなくなった途端、自分たちは弱くなった。
一方でレクスは次々と大きな功績を立てている。
そのことが腹立たしかった。
嫉妬もした。
今も。
まったく何も感じないわけではない。
神話指定を倒した。
世界最高級の支援職と評価された。
他国の軍にまで助けを求められている。
そんな話を聞けば、胸のどこかがざわつく。
自分だって勇者なのに、と。
その感情まで綺麗になくなったわけではない。
ただ。
「俺たちも行くんですか?」
ギルバートは聞いた。
「現時点では候補だ」
「候補?」
「王国側は追加戦力の選定中だ。Sランク冒険者数名、騎士団、魔術院、呪術師。それに勇者パーティ」
ギルバートは少しだけ前のめりになった。
「なら行きます」
「まだ正式な要請ではない」
「でも戦力が必要なんでしょう?」
「必要だ」
「じゃあ――」
「ギルバート」
セシリアが止めた。
名前を呼ばれただけで、ギルバートは口を閉じた。
「何だよ」
「昔と同じ顔してた」
「どんな顔だよ」
「『俺が行けば何とかなる』って顔」
「そこまでは思ってない」
「本当に?」
「……半分くらい」
「半分は思ってたのね」
ギルバートは椅子へ座り直した。
「だって、勇者パーティが必要だって言われたら行くだろ」
「正式に必要だと言われたらね」
「違うのか?」
「勝手に行くのと、役割を決められて行くのは違うでしょう」
バルガスも腕を組んだ。
「それに再認定された直後に、また命令無視して国境越えたら笑えねえぞ」
「そこまで馬鹿じゃない」
「紅蓮竜」
「……それ出すの卑怯じゃないか?」
「便利だからな」
「俺、一生言われるの?」
「たぶん」
中央ギルド幹部が小さく咳払いする。
「お前たちが反省会を続けるなら、別室を貸すが」
「すみません」
ギルバートは姿勢を直した。
「正式に聞きます。俺たちへ要請が来た場合、何を求められます?」
「現時点では前衛戦力。それから、対災害級戦闘の経験だ」
「レクスの補助前提?」
その質問に。
自分でも少し驚いた。
昔なら。
自分が中心だと思っていた。
今は最初に、支援の条件を確認している。
「まだ作戦自体が組まれていない」
幹部が答える。
「だからこそ、現地の解析を待っている。レクスの弱体術がどこまで効くのか。封印を維持するのか、討伐へ切り替えるのか。敵の規模すら確定していない」
「じゃあ俺たちが今やることは?」
「待機だ」
ギルバートの顔が少し引きつる。
「待つだけ?」
「不満か?」
「いや……」
昔から苦手だった。
待つこと。
何かが起きていると知っていながら、手を出せないこと。
「訓練を続けろ」
幹部が言う。
「それから装備の再調整。特に、レクスの常時補助を前提にしていた頃の装備運用は捨てろ」
「はい」
「現地から要請が来れば、すぐ動ける状態にしておけ」
「分かりました」
それなら納得できた。
今すぐ飛び出すのではなく。
必要になった時に動けるよう準備する。
簡単そうで、以前のギルバートにはできなかったことだった。
◇
会議室を出た後。
三人は中央ギルドの食堂へ入った。
昼を少し過ぎていたため、冒険者たちの姿はまばらだ。
バルガスは肉料理。
セシリアはスープとパン。
ギルバートは注文した料理へ手を付けず、さっきの報告書の写しを眺めていた。
「まだ見るの?」
セシリアが呆れる。
「だって気になるだろ」
「気になるのは分かるけど、料理冷めるわよ」
「レクスの奴、四百年前の封印なんかに首突っ込んでる」
「首を突っ込んだというより、流れでそこまで行ったんでしょう」
「同じようなもんだ」
「お前が言うな」
バルガスが肉を切りながら言う。
「お前は自分から紅蓮竜へ首突っ込んだ」
「それ便利すぎない?」
「何度でも使える」
「もうやめろよ」
セシリアが苦笑した。
「それより」
「何だ?」
「もし正式に呼ばれたら、どうするつもり?」
「行く」
「それは分かってる。そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
「レクスとの戦い方」
ギルバートの手が止まった。
以前は、レクスの支援を受けていることすら意識していなかった。
知らなかったのではない。
知ろうとしなかった。
それが正しい。
「聞く」
「何を?」
「何を落としたか。どこまで落としたか。何が残ってるか」
セシリアは頷く。
「私もそれがいいと思う」
「それから、俺たちができることを先に言う」
「例えば?」
「《聖断》を何発撃てるか。どのくらい動けるか。バルガスが何発受けられるか。お前がどれだけ魔力残してるか」
バルガスが苦笑した。
「昔なら絶対言わなかったな」
「ああ」
「何で?」
「弱く見られたくなかったから」
ギルバートはあっさり認めた。
「勇者は何でもできると思われたかった」
「今は?」
「できないことを隠す方が危ない」
「随分まともになったじゃねえか」
「褒めてる?」
「珍しく」
「お前ら、本当に俺に厳しいよな」
「今まで甘やかしすぎたのよ」
セシリアの言葉に。
ギルバートは少しだけ黙った。
冗談のようで。
たぶん、かなり本当だった。
「……なあ」
「何?」
「もし呼ばれても」
ギルバートは報告書を見る。
「レクスを助けに行くって考えない方がいいよな」
セシリアが少し意外そうな顔をした。
「どうしてそう思ったの?」
「いや」
自分でも言葉にしづらい。
「前ならさ。あいつが危ないって聞いたら、『俺が行って救ってやる』って思ったと思う」
「思ったでしょうね」
「即答かよ」
「で、今は?」
「たぶん、あいつも俺たちを助けるし、俺たちもあいつを助ける」
バルガスが食事の手を止める。
「共同作業ってことか」
「ああ」
ギルバートは少し笑った。
「レクスが全部やって、俺たちが最後だけ斬るんじゃなくて」
過去の三年間。
まさにそうだった。
敵が強かった。
恐ろしかった。
それでも、自分たちは勝った。
その勝利の前半を。
ほとんど見ていなかった。
「今度は、ちゃんと四人……いや」
途中で言い直す。
「四人じゃないな」
「《銀翼》もいるもの」
「騎士団も」
「他国の兵もいる」
セシリアが数える。
「魔術師に呪術師も」
「多いな」
「だからこそでしょう?」
セシリアはスープを一口飲んだ。
「誰か一人が主役じゃない戦いになるんじゃない?」
ギルバートは少し考え。
「それ、勇者としては地味だな」
「嫌?」
以前なら。
嫌だったかもしれない。
「いや」
ギルバートは笑った。
「今は、それでもいい」
◇
二日後。
トルメ村。
アデルとガレンを加えた術式解析は、朝から続いていた。
レクスは途中から完全に置いていかれていた。
「つまり、この外環式が元の封印で」
アデルが石板の写しへ線を引く。
「現在の黒い祭壇は、その外環から生命循環式だけを反転させているんです!」
「なるほど」
レクスが頷く。
「分かりました?」
「半分くらい」
「分かったふりしないでください!」
「今、正直に言っただろ」
「そこは進歩ですね」
「何で上からなんだ」
ガレンが笑う。
「儂には半分分かれば十分に見えるがの」
「先生まで!」
「誰が先生だ」
アデルは興奮すると止まらない。
「重要なのはですね、レクスさん! これ、最初から『眠らせるためだけ』の術式じゃないんです!」
「どういう意味だ?」
「地下の存在から力を抜く機能もある!」
レクスの表情が変わった。
「弱体化?」
「概念としては近いです」
アデルは大きく頷く。
「四百年前の術式は、地上から魔力を押し込んで封じ込めるだけじゃない。地下にいる何かから力を吸い上げ、それを周辺の地脈へ逃がしていた!」
「では、今は?」
クラウディアが尋ねる。
「逆です」
アデルの声が低くなる。
「誰かが流れを反転させている。人間から奪った生命力と魔力を、地下へ送り込んでいる」
「封印を、給餌装置に変えた」
エルドが言う。
「そういうことです」
レクスは石板を見る。
「戻せる?」
「理論上は」
「理論上?」
「四百年前の術式を、現代の設備で完全に復元するのは無理です」
「じゃあ駄目じゃないか」
「最後まで聞いてください」
アデルが少し苛立つ。
「全部戻す必要はないんです」
「どういうこと?」
「今、敵がやっているのは生命力を地下へ送ること。そこだけ止めればいい」
「それなら祭壇を壊せば?」
「封印本体も傷つける可能性がある」
「前と同じか」
「はい」
アデルは別の術式図を出す。
「だから、反転部分だけ切り離す」
「できる?」
「一か所なら」
「何か所ある?」
「それを今数えてます!」
言った直後。
アデルの顔がだんだん嫌そうになった。
「……少なくとも十三」
「多いな」
「王国側と公国側で確認できた範囲だけです」
「まだ増える?」
「たぶん」
レクスは少し考えた。
「俺が全部回るのは遅い」
「そうです」
「なら前みたいに分業する」
アデルが目を上げる。
「弱体化するところだけ、俺がやればいい?」
「いえ」
今度はアデルが首を振った。
「それすら、全部あなたがやる必要はないかもしれません」
「どういうことだ?」
「反転術式は同じ構造を使っています。最初の一つをあなたが弱体化して、こちらが詳しく解析できれば」
ガレンが続ける。
「残りは儂らで解除できる可能性があるということじゃ」
「俺なしで?」
「そうじゃ」
レクスはしばらく黙った。
「不満?」
クラウディアが尋ねる。
「何で?」
「自分にしかできなかったことが、他の人にもできるようになるから」
「むしろ楽になる」
「あなたならそう言うと思った」
「それに」
レクスは祭壇の位置が並ぶ地図を見る。
「俺が全部の祭壇に行かなくていいなら、その分、廃都へ行く準備ができる」
「合理的ね」
「ああ」
何より。
自分がいなければ何もできない状態より。
皆でできる状態の方がいい。
それは。
昔の勇者パーティと別れたことで、嫌というほど理解した。
◇
夕方。
王都から新しい伝書が届いた。
追加戦力に関する正式な候補一覧。
ローディスが読み上げる。
「王国騎士団、精鋭二個小隊。宮廷魔術院から六名。呪術師四名。Sランク冒険者二組」
「二組?」
クラウディアが聞く。
「《銀翼》以外に?」
「別の地域から呼ぶらしい」
「それから」
ローディスが紙を少し下げた。
「勇者ギルバート一行」
レクスは黙った。
「来るわね」
クラウディアが言う。
「ああ」
「嫌じゃない?」
「前にも聞いただろ」
「念のため」
「嫌じゃない」
今度はすぐ答えた。
「戦力が多い方がいい」
「それだけ?」
クラウディアが少し意地悪く聞く。
「再認定されたらしいし」
「うん」
「今度は、昔みたいにはならないと思う」
その言葉だけ。
しかしクラウディアは、それ以上何も聞かなかった。
「じゃあ、ちゃんと迎えてあげなさいね」
「何で俺が?」
「元仲間でしょう」
「普通にする」
「それで十分」
◇
その夜。
レクスの返事が王都へ届いた。
ギルバートは訓練を終えた直後だった。
汗を拭きながら封を切る。
『再認定おめでとう。
釣りは面白い。
こっちは少し大きな仕事になりそうだ。
もしこっちへ来るなら、無理はするな。』
ギルバートは最後の一文を二度読んだ。
「何て?」
セシリアが近づいてくる。
「無理するなって」
「レクスが?」
「ああ」
「あなたに?」
「ああ」
「珍しい」
「何でそんなに驚くんだよ」
「だって以前なら、あなたが勝手に無理しても『知らない』って言いそうだったから」
「そこまで薄情じゃねえだろ」
「でも追放した時は?」
「それ出す?」
「今でも使えるから」
「紅蓮竜と追放、便利すぎるだろ……」
バルガスも手紙を覗き込む。
「釣りは面白いってよ」
「そこ読むな」
「お前が聞いたんだろ」
「そうだけど」
ギルバートは手紙を畳んだ。
無理はするな。
たったそれだけ。
けれど。
悪くなかった。
「なあ」
「何?」
「正式に呼ばれたら」
ギルバートは聖剣を見る。
「今度はちゃんと、レクスの横で戦おうと思う」
「後ろじゃなく?」
「前でもなく」
一瞬だけ考え。
「横だ」
セシリアは少し笑った。
「それがいいんじゃない?」
ギルバートも笑った。
そして同じ夜。
トルメ村では。
アデルが古代封印術式の最深部に刻まれていた文字を、ついに読み解き始めていた。
「……レクスさん」
「何だ?」
「これ、かなりまずいです」
「最近そればっかりだな」
「今回は本当に違います」
アデルの顔には。
いつもの研究者じみた興奮がなかった。
「四百年前の連合軍が、どうして討伐を諦めたのか」
指先が。
削れかけた古代文字をなぞる。
「理由が書いてあります」
レクスは石板へ近づいた。
「何て?」
アデルは、ゆっくり読み上げた。
「――傷つけるほど、強くなる」
室内から。
誰の声も消えた。




