第4話 隔壁の向こう側
地下施設全体を揺らす衝撃。
天井から細かな粉塵が落ち、隊長室の照明が一瞬だけちらついた。
『――AR-12封印区画出力反応増大。封鎖管理レベル1を継続、該当区画の非戦闘員は速やかに退避してください。――繰り返し』
モニターの向こうの白鯨は、なおも隔壁に身体を押し付けている。
「シオン」
「わかってる」
灰崎が声をかける前に、シオンは強化外骨格をすでに引き出していた。
白衣を脱ぐ、その下には黒いボディースーツと簡易戦術装甲。
黙々と強化外骨格に脚を通していく。
レンは思わず固まった。
(白衣の下、それなんですか…)
先ほどまで研究員のようだった人物が一瞬で軍人になっていた。
強化外骨格を着終えたシオンが振り返る。
「なに」
「い、いえ」
「変な顔」
「しておりません。」
「してる」
ぶっきらぼうに言いながら武装の起動確認をしていく。
その横で灰崎も装備を取り出していた。
戦術ベルトに大型拳銃、そして黒い無機質な鞘に収まった大太刀。
レンは思わず視線を止めた。
「あの……」
「ん?」
「それ…刀ですか?」
「そうだよ?」
「兵器相手に、ですか?」
「あぁ、銃より便利な時もあるんだよ」
笑っている。
だが、説明する気はなさそうだった。
灰崎は大太刀を左腰に固定し、拳銃の弾倉を確認する。
一連の動きに一切の澱みがない。
レンはもうひとつ、疑問に思ったことを口にした。
「あの…隊長も直接戦われるのですか?」
「ん?」
灰崎は薬室を確認しながら振り返る。
「いつもではないんだけどね」
軽い口調で答える。
その間も灰崎の手元は一切止まることなく、確認を終えていた。
その時だ。
『――――』
頭の奥にまた感情が流れ込んでくる。
レンは反射的に肩を振るわせた。
「……っ!」
近い、今までよりもはっきりとわかる。
まるで向こうもこちらを認識しているような、そんな感覚にレンは額を抑えた。
――『ミツケタ』――
先ほどの白鯨と目が合った時のことを思い出す。
「久城くん、大丈夫かい?」
灰崎は少しだけ真面目な声で尋ねた。
問われたレンは改めてモニターの白鯨を見る。
白い装甲の巨大な兵器。隔壁を押し広げようと組みついている。
――怖い。
それでも、モニターの白鯨から目が離せなかった。
「……大丈夫です。」
一瞬だけ部屋が静かになる。
「隊長、準備完了」
シオンは全長三メートルほどの強化外骨格を着込み、両腰に大型の拳銃と背部に大楯を背負っていた。
「よし、行こうか。」
灰崎はモニター画面の端末を操作した。
重い音と共にモニター横の壁が開く、その先には下へと続く長い薄暗い通路があった。
緊急時用であるからか、非常灯だけが並ぶ無機質な空間。そこに三人は足を踏み出した。
行き先の見えない通路の奥からは振動だけが伝わってくる。
白鯨だ。
レンは息を飲んだ、なぜ自分は行くのかと。自分の能力と白鯨の関係と分が第三に来た理由、それを確かめに行くのだと己に強く刷り込み歩を進める。
シオンが唐突に端末へ視線を落とし、灰崎に報告する。
「隊長」
「ん?」
「隔壁損傷率六十ニパーセント突破」
一瞬、空気が変わった。
「思ったよりも早いね」
「封鎖管理、レベル2へ移行」
『――封鎖管理レベル2発令
AR-12封印区画外壁の損傷を確認
戦闘員は各指定区域へ至急移動してください』
数秒の沈黙。
そして灰崎が笑った。
「……これは急がないとまずいね」
直後。
施設全体を揺らす轟音が響いた。
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