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廃棄兵装運用試験部隊  作者: 9 10
第一章 墓場配属編

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第3話 起動反応

 警報音が地下施設に響き渡る。

 赤色灯が明滅し、隊長室の壁を不気味に染めあげていた。


『―― AR-12封印区画の出力反応、尚も増大中』

『第一隔壁のロック解除。該当区画の非戦闘員は至急退避してください。繰り返し――』


 警報が尚も響きわたる隊長室。

 その中でレンは息を飲み、固まっていた。

 なんとか絞り出した声はあまりにも小さく警報音にかき消された。


「……AR-12って」


「始まったね。」


 灰崎は妙に落ち着いた様子で立ち上がる。

 対してシオンは素早く動き、既に端末を操作していた。


「白鯨、出力上昇。自律起動を確認」


「自律起動……、ですか?」


 レンの声が引き攣る。

 なんせ十八メートルもある機動兵器が、搭乗者無しで勝手に起動しているのだ。

 本来ならば基地全体に非常事態が発令されるべき事案だ。


 だが。

 シオンも、灰崎も驚いている様子が一切無い。

 まるで、いつもの事だとでも言いたげな雰囲気である。


「……まさかこんなことが頻繁に?」


「月に二、三。前より減った」


 シオンは端末を見たまま答える。


「それでも、十分多いのでは…」


「以前は毎週、ここじゃ普通」

 

 ぶっきらぼうに返され、レンは言葉を失った。

 本当になんてところに来てしまったのだと。


 灰崎は隊長室奥にある隠しロッカーのロックを解除した。

 中には大型の拳銃や大太刀のようなもの、簡易的な強化装甲。それと見慣れない端末類が並んでいた。


「念の為に持っていこうか。」


「隊長も自ら戦われるのですか?」


「ん? 場合によるね」


 軽い口調だが、その目は笑っていない。


 その時だった。


『――――』


 頭の中にまた感情が流れ込んでくる。

 レンは反射的に後退り、額を手で覆った。

 閉塞感による息苦しさなのか、それとも焦りによる動悸なのだろうか。

 流れ込んできた感情に影響され、呼吸が乱れる。


「……っ!」


 レンの視界が揺れた。

 そして脳内に身に覚えのない映像が流れ込んできた。


 白い装甲。

 巨大な格納庫。

 震えてる手。

 泣いている女性。

『お願い……この子に殺させないで』

 知らない声。


 全ては知らない記憶。

 それなのに、その感情・思いは痛いほどに身に染みる。


 恐怖。後悔。そして祈り。


「……っはぁ、はぁはぁ」


 呼吸が乱れていたレンは気が付けば涙を流していた。

 それを見てシオンが問いかける。


「聞こえるの?」


 感情の希薄な声、しかし先ほどまでよりも確かに気遣いを感じ取れるような声。

 その声を聞き、レンは少し落ち着いた。

 涙を拭って、確信とも言える問いを口に出す。


「これは、白鯨なんですか」


「……、そう」


 シオンはまた最低限の返答のみを返す。

 やはり、この人達は知っていたのだ。


「貴方たちは一体……」


 灰崎は肩をすくめる。


「だから言ったろう?ここは普通じゃない連中しか来ないって」


 そう言いながら壁面のモニターに映像を出した。

 映し出されたのは白鯨の封印区画一帯と隔壁内、その監視映像である。

 巨大な白い機体。

 ――AR-12 《白鯨》

 その機体は隔壁内で膝を抱えるようにして座っていた。

 まだ停止状態である。

 しかし、装甲表面はゆっくりと脈動するかのように発光していた。

 まるで呼吸でもしているかのように。

 レンは見て感じたことをそのまま口にした。


「まるで、生きてるみたいだ。」


「みたいじゃない。彼女は生きてる」

 

 シオンが言ったその瞬間。

 白鯨の脈動がおさまる、そして頭部センサーがゆっくりと持ち上がった。

 あたりを見回すように左右にゆっくりと向く、それから監視カメラへとその視線を向けた。


 レンは凍りついてしまった。


 映像越しにも関わらず、確かに目が合った気がしたからだ。

 そして、気がつけば感じなくなっていた感覚。

 それがある言葉と一緒に、また脳内に流れ込んできた。


『ミツケタ』


 直後、轟音と共にとてつもない衝撃が発生した。

 レンは耐えられず、体制を崩して膝をつく。

 片手と膝で身体を支え、視線を上げて監視映像を見る。

 そこには、隔壁に組み付いている白鯨の姿が映っていた。

 既に隔壁には大きな亀裂も走っている。


「隔壁損傷率28%、白鯨 出力上昇中」


「……っ。」

 

 シオンが淡々と端末情報を読み上げる。

 立ち上がったレンは思わず一歩下がる。

 だが、モニターからは視線を外せないままでいた。

 そんな圧倒されていた意識を戻したのは、レンの肩を叩きながら言った灰崎の言葉であった。


「違うね、きっとこれは攻撃ではない。」


「え?」


 レンはモニターの白鯨をよく見る。

 確かに先ほどの資料で確認した武装などは何も展開していなかった。

 まるで閉じ込められた子供が外に出ようともがいている、そんな風にも見えた。


『――――』


 だが、また感情のようなものが流れ込んでくる。

 強い切迫感と、それに抗えない高揚感。

 だが、それが自分の感情なのか流れ込んできたものなのか、レンにはもうわからなかった。


「久城くん?」


 灰崎は訝しむように見た。

 レンはモニターの白鯨を見つめ、口を開いた。


「お二人は現場に行くんですよね。自分はどうしたら良いでしょうか……」


 一瞬、沈黙が落ちたのち。

 灰崎から衝撃的な言葉が発せられた。


「久城くん、悪いけど君にも来てもらうよ」


 その言葉を聞き、レンはモニターの白鯨をまた見る。

 白い巨人が未だ隔壁に組みつき、こじ開けようとしている。


「無理です。」


 レンには到底受け入れられない言葉であった。

 その言葉に、シオンは納得しているようである。

 だが、灰崎はそうではなかった。


「悪いがこれはお願いじゃない。上官としての正式な命令だ。僕とシオンで護衛する、必ず君を守り切ってみせる。だから、頼んだよ。」


 灰崎は、さっきまでとは別人のように有無を言わさぬ圧をその身に纏っていた。

 その姿にレンは元英雄の一端を見たような気がした。

 シオンは端末を操作しながら短く問う。


「適正試験前、死ぬかも」


「そこは僕達で守ればいい、これは覆さないよ。」


 苦言は呈したが、軍での命令は絶対である。

 シオンは小さく頷き、また端末に視線を落とした。

 これで同行することに反対できる者は居なくなり、レンは覚悟を決めるしかなくなった。

 

 その瞬間、地下施設全体により強い衝撃が響いた。


 白鯨が、完全起動したのである。

読んでいただきありがとうございます。

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