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廃棄兵装運用試験部隊  作者: 9 10
第一章 墓場配属編

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第2話 白鯨

 第三管理部 隊長室。

 そこは軍施設というよりも古い研究室のようであった。


 紙の資料、分厚いファイル、そして旧式のモニター。


 どれも、これも時代遅れの品物だ。

 今まで見てきた連邦軍の施設とは、まるで別世界だった。


「新人くんかな?」


 少し軽い、若干気の抜けた声がした。

 ソファに座っている男が、煙草を揉み消していた。


 灰崎ユウゴ。


 彼のことは知っている。

 なぜなら有名な元英雄である、しかし命令違反の疑いでその肩書を剥奪されたと聞いた。

 そして今は左遷組のようだ。


「久城レン 二等整備士であります。」


「聴いているよ。ようこそ、第九管理区第三へ。ここの責任者を務めている、灰崎ユウゴだ。大佐でも、隊長でも、ユウゴさんでも好きに呼んでくれていいよ。」


 灰崎は立ち上がり、右手を差し出しながら言った。

 身長は185cmほどだろうか、声の雰囲気とは裏腹にその身に纏う空気は歴戦の古兵そのものである。

 灰崎はレンと握手をしながら続けて言う。


「不躾で悪いが。君、兵器の声が聞こえるようだね。」


 レンの心臓が止まりかけた。


「……一体、なんのことでしょうか」


「あ、大丈夫、大丈夫、隠さなくていいよ。ここに送られてくるのは大なり小なり似た者ばかりだから。」


 嫌な予感がした。


「それは、どういうことでしょうか」


「薄々わかってはいると思うが、君は普通の人間ではないと言うことさ。そして、もちろん僕たちもね。」


 室内に沈黙が広がる。

 シオンも壁際で黙ったままだ。

 レンは、嫌な汗が頬を伝うのがわかった。


 灰崎は席を離れ、机からファイルを出してこちらに渡してきた。

 それを受け取り、中身を見る。

 そこには、《AR-12 白鯨》と記されていた。


「そんな君を見込んで、この機体を任せたいんだ。」


「白…鯨?」


 レンは資料をめくっていく。

 そこに写っていたのは風変わりな兵器だった。

 球体が人型に変形したような全高十八メートルの機動兵器。

 そして戦場では明らかに浮くであろう真っ白な外装。

 それは写真からでもわかるほど、とてつもなく重装甲な機体であった。


「正式名称は、局地防衛用特化型兵装AR-12 《白鯨》」


 灰崎が続ける。


「都市防衛用の特化兵装だよ。」


「そのような物を、何故地下に……」


「うん、失敗したからね。」


 灰崎はやれやれと言った風である。

 レンは考える。

 こんなところに送られてくるほどの失敗とはなんなのか。


「暴走、ですか?」


「有体に言えば、そうかもしれないね。」


 レンは眉を顰めてしまう。

 暴走かも。とは、またはっきりとしない話である。

 灰崎はレンの疑問を把握しつつ静かに続けた。


「この機体は搭乗者と防衛対象を絶対に死なせない、そう造られていた。そして、その結果戦えなくなった。」


 レンはどういう意味なのかわからなかった。

 灰崎は大きなため息を吐きながら説明し始めた。


「まず順を追って説明していこうか。白鯨は初め、危険を察知すると敵を攻撃する前に回避行動を取ったんだ。」


「防衛用の兵器が、ですか?」


「そう。そして最終的にはその防衛対象に“敵兵”まで含み始めた。」


 レンは絶句してしまった。

 灰崎は壁面のモニターにとある映像を出す。

 短い映像だったが、白く巨大な人型兵器が敵味方の間に立ち、砲撃を受けていた。


「試験運用先の基地でね、敵兵ごと自軍陣地を防衛したんだ。戦闘開始直後こそ若干の損耗はあったそうだが、両陣営に人員の損害は無し。双方戦闘継続困難になり、一時休戦。」


「そんな馬鹿な。」


 レンは開いた口が塞がらなかった。

 それでも灰崎は淡々と続ける。


「実践投入は不可能と判断されてね。以後、白鯨はここに封印されているというわけだ。」


 レンは信じられない話に圧倒されながらも、資料に視線を落とした。

 すると先ほどの話とは矛盾する数字を見つけてしまった。

 

 搭乗者の死亡記録である。


 だが、戦闘での死亡記録ではない。


「……精神崩壊?」


「白鯨は、搭乗者と深度同期する」


 これにはシオンが答えた。


「感情共有型兵装だから」


「感情……?」


「恐怖も、痛みも情報として流れ込んでくる」


 レンは嫌な汗をかいた。

 さっきの隔壁を思い出す。

 あの頭の中に流れ込んできた感覚、あれが精神崩壊の原因の一端なのかもしれない。

 説明を一通り終えた灰崎は立ち上がる。


「明日、その白鯨の起動試験を行いたい。」


「え???」


「もちろん、君にも立ち会ってもらう。」


「ちょっと待ってください!自分はまだ来たばかりで……」


「安心したまえ!」


 灰崎は遮るように言った。


「君は今までの整備士の中で誰よりもあの機体に向いている。」


「……そう言われましても。」


 灰崎はニコリと笑って言った。

 

「君は白鯨に選ばれたんだから。」


 ――パッ。


 その瞬間、隊長室の照明が一瞬落ちた。

 そして警報が響き、警告灯の赤色が激しく光る。


『――第三封印区画に起動反応あり』

『識別コード : AR-12 封印区画及び周辺区画に封鎖管理”レベル1”を発令、繰り返す……』


 レンの背筋が凍る。

 何故なら頭の奥にまた何かが流れ込んできていたからだ。


『……――――』


 さっきよりもハッキリと感情のようなものが伝わってきている。

 不安、焦燥、閉塞感。

 そして――何かに向かおうとしている強い衝動。

 これは、怒りなのか。


 レンにはそう思えた。

読んでいただきありがとうございます。

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