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廃棄兵装運用試験部隊  作者: 9 10
第一章 墓場配属編

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16/18

第15話 殺さない戦い方

先週に引き続き、今回も長くなってしまいました。

是非、お時間のある時にどうぞ。


 実地試験五日目の朝。


 基地内は静かであった。


 昨夜の戦闘の後処理が終わり、第三のメンバーはそれぞれ休息を取っていた。白鯨は格納庫に収まり、整備班が軽微な損傷の修復を進めている。


 レンは整備区画の隅で白鯨の戦闘データを確認していた。数値上の問題はない。しかし、昨夜のことが頭から離れなかった。


 開発者の祈り。


 誰も死なせないで。


 誰も殺さないで。


 それが白鯨の全てだとわかった。ならば、白鯨が本当の力を発揮できる戦い方が何かあるはずだ。レンはデータを眺めながら考え込んでいた。


「新人!」


 城崎が近づいてきた。右腕に包帯を巻き固定されている。昨夜の装甲車横転の名残だった。


「班長、腕は大丈夫ですか」


「これくらい平気だ!それよりお前、朝から何考え込んでんだ」


「……白鯨の戦い方のことを」


 城崎は左手で顎を掻いた。


「昨夜のアレか」


「はい、白鯨は戦えないんじゃなく、殺したくないんです。でも、今のままだと有人機がきたらまた止まってしまうかもしれない。明確に内容を詰めるべきなんです。」


「明確な案がなんかあんのか」


 レンは少し間を置いた。


「はい、あります」


 レンはその案を城崎に話した。城崎はそれを黙って聞いていたのであった。


 午前中の会議室。第三のメンバーが集められていた。レンは全員の前に立っている。こんな場に立たされるのは初めてで、手が緊張で汗ばんでいた。


「昨夜のことを踏まえて、白鯨の運用方法について提案があるそうだ。」


 そう灰崎が言って、レンに視線で促す。


「白鯨は人を傷つけられない、それ変わりません。ですが、昨夜白鯨は敵有人機の腕を破壊し撤退させました。ここでのポイントは、敵パイロットはまだ生きているという点です。」


 東雲が端末を確認しながら頷く。


「……機体への損傷と、搭乗者への危害は別物。ということですか」


「なるほどね、つまり……」


 灰崎が先を促す。


「はい、白鯨は搭乗者に危害を加えなければ機体は無力化できるということです。自分はそれを意図的に行う運用方法はできないかと思っております。」


 会議室が静かになった。その場を見渡し城崎は頭を掻きながら言った。


「で、具体的にはどうすんだ」


「白鯨の感情同期型という特性を使いたいと思います。シオンさんが白鯨の意思を汲んで戦う。敵搭乗者に致命傷を与えないよう、駆動系や武装、メインカメラだけを狙って無力化する。そうすれば白鯨は動いてくれるのでは、と」


 会議室の全員がシオンを見た。


 シオンは無表情のまま少し考え、その口を開いた。


「できる」


「本当ですか!」


 はっきりとした肯定の返事に思わずレンは身を乗り出した。


「昨夜で白鯨の意思はわかった。彼女がそれを望んでいることも。」


 シオンは続けた。


「私なら出来る。敵を殺さず、無力化することが」


「……彼女?」


 レンは気になった言葉を繰り返した。それに返事を返したのは灰崎だった。


「あぁ、シオンは何故か白鯨の性別を女性だと言うんだ。特にそういうデータも設定も無いんだけどね。」


 少し話が脱線してしまったが、灰崎はシオンの言葉を受けて腕を組んだまま天井を見上げた。


 長い沈黙。


「面白い……提案だね」


 灰崎はそう言うと、視線を天井からレンに向けた。


「ただ、何の実証もできていないよね。現状で言うと実戦で試すしかない。」


「はい、そうだと思います。」


「リスクは、高いね。失敗すればまた皆が危険に晒される。」


 その言葉にレンは自然と班長を見た。元気そうではあるが、固定された腕はやはり痛々しい。


「それでも……やってみる価値はあると思います。」


 レンは静かに、だがしっかりと言葉にした。それを聞いた灰崎は少し笑った。


「そうか。じゃあ、今夜試してみよう」


「はい!」


 レンの大きな声によって会議はお開きになり、灰崎と東雲はこのまま夜の試験の打ち合わせに入った。レンは城崎に雑に頭を撫でられながら、シオンと共に白鯨のハンガーへと向かった。


___


 会議室を一緒に出た城崎とは医務室で別れ、レンとシオンは格納庫にいた。


 シオンは白鯨の装甲に触れながら目を瞑っている。レンもその隣で目を開きながら同じように白鯨に触れていた。


「シオンさん、今夜は本当に大丈夫なんですか」


「さっき言った。できる」


「技術的な話じゃなくてですね……」


 シオンは装甲に触れたまま、レンを見た。


「どういう意味。」


「白鯨と一緒に戦うのを、シオンさんはどう思っているんだろうと思って。戦いながら感情が流れ込んでくるというのは、やっぱり普通じゃない気がして……」


「……慣れてる」


「慣れてる、ですか」


「白鯨とは長い。感じが流れ込んでくることにも慣れた。それに、レンが来てから変わった。」


 シオンは装甲から手を離した。


「自分ですか?」


「前より穏やかになった。今なら何を感じてるか少しわかる。」


 レンは白鯨を見上げた。装甲は穏やかに脈動している。


「それは、よかったです」


「……うん」


 シオンが珍しく、小さく頷いた。白鯨の装甲も僅かに強く、でも確かに輝きを増した。それから三人は、今夜のために話し合ったのであった。


 日中、灰崎の元に担当将校から連絡があった。カスピ側に増援有り、無人機と有人機で構成された一個小隊。それでも白鯨の試験に変更はなかった。


 そして、夜が来た。


 レーダーに反応が出る。無人ヘリが二機と自律戦車二機、そして有人機であるストリゴイが三機。内一機は昨夜の機体だった。


「来たね」


 灰崎が静かに言った。無人機が思いの外少ないのは、有人機一機あたりに無人機が二機、指揮下に入るカスピ連合軍の一般的な基本単位に則ったものだろう。

 つまり、昨夜のヴァシリ・クレインという男は一人で倍の無人機を指揮しながら自らも戦っていたということだ。そしてレーダーの動きを見る限り、無人機は増援の二機に随伴しているように見える。今夜のクレインは本気ということだった。


「シオン、無理だと思ったらどうにか離脱してくれ。でも、期待してるよ」


『了解』


 シオンの声はいつも通りだった。


「状況開始!」


 灰崎の声と共に、白鯨が動いた。それに合わせてカスピ側も動いた。クレインの機体は後方に待機し、増援の一個小隊が接近してくる。


 無人ヘリが二機先行し、ロケット砲を撃ち込んでくる。全面に展開した自律戦車も砲撃を開始した。その攻撃に紛れてストリゴイが二機、白鯨へと肉薄する。


 白鯨は無人機の攻撃をわざと受け、装甲と盾で弾く。自律戦車の砲撃も正面から受け止めながら前へ出た。

 

 そこへ、ストリゴイが二機、白鯨へと肉薄してきた。

 

 白鯨が、止まった。

 完全な停止ではない。だが、一瞬だけ動きが鈍った。

 

「……っ」

 

 レンの頭に感情が流れ込んでくる。それは迷い、ではなかった。もっと深いところにある、恐怖に近い何か。人が乗っている、とわかった瞬間に生まれる本能的な拒絶。


 開発者の祈りが、白鯨の奥底から押し返してくるような感覚だった。

 

「白鯨」

 

 レンは小さく呟いた。声には出さなかったが、白鯨へ気持ちを込めた。


 殺さなくていい。止めるだけでいい。


 一秒にも満たない一瞬の沈黙。

 白鯨の装甲の発光が、一度だけ強くなった。

 そして、白鯨は動いた。 

 

 二機のうち、一歩早く接近していたストリゴイのライフルを蹴りで破壊する。体勢を崩したストリゴイの腕を掴み、引き寄せながら頭部センサーに肘を叩き込み破壊した。

 

 頭部を破壊したストリゴイに組み付いたまま、もう一機のストリゴイと距離を取る。ついでと言わんばかりに動線上にいた自律戦車を轢き、片手のストリゴイを捨て置く。

 

 指揮を失った無人ヘリが無作為な攻撃をしてきたが、正面から叩き潰し爆散させた。


 爆発の熱はストリゴイの暗視装置を一瞬ホワイトアウトさせた。白鯨はそれに紛れ、残りのストリゴイの背後に付く。後ろから片膝を潰し、組み伏せる。片腕を肩の根本から捻り上げ、破壊した。

 

 残りは無人ヘリと自律戦車が一機ずつ。だが、連携をとるための有人機が全滅した無人機など、話にもならなかった。一機ずつ破壊していき、残るはクレインのストリゴイだけだった。


 クレインは冷静に状況を分析していた。


 増援が短時間で無力化された。しかし、よく見ると二機ともパイロットへの被害は一切ない。武装、駆動系、センサーを選んで潰しているようだった。


 昨夜とは明らかに動きが違う。


 白鯨が正面からクレインに使っていく。クレインは後退せずに受け止めた。スラスターを全開で噴かし、側面へと回り込もうとする。昨夜も使った動きだ。


 しかし、白鯨はそれを読んでいた。


 ストリゴイが回り込んだ先に盾が飛翔した。ストリゴイの右腕に直撃し、肩部接合部が大きく歪んだ。


 予想外の衝撃とアラートが鳴り響くコックピットの中、クレインは冷静に状況を判断していた。

 即座に右腕をパージ、機体のオートバランサーのパラメーターが調整され機体が軽くなった。左腕のライフルを白鯨に向ける。


「まだ戦える」


 クレインは低く言った。


 白鯨との距離、約三十メートル。クレインは踏み込んだ。スラスターを低出力でこまめに噴かしながら、ライフルで牽制射撃を続ける。白鯨の回避ルートを潰しながらも直撃を狙う射撃、それを高機動の中でやってのけられるのはクレインが故であった。


 白鯨は直撃弾だけを見極め、最小限の回避で前進した。


 クレインはこの攻撃に意味がないと見るや、直角に弾くように機体を急加速した。白鯨を中心に円を描くように旋回する。とてつもないGがクレインを襲った。それでも射撃のでは緩めない。


 しかし、白鯨は止まらなかった。


 機体を切り返し、ストリゴイを追随するように急加速した。射撃を受けながらも進む白鯨の手がストリゴイの左肩に届いた。そして掴む。今度は千切るでも弾くでもなく、そのまま押し込んだ。ストリゴイが耐えられず、膝をつく。クレインはスラスターで抵抗するが、白鯨の重量と出力が上回った。


 白鯨はストリゴイのライフルの銃身を掴み、捻じ曲げた。ストリゴイから武装が消えた。


 しかし、クレインはまだ動き続けた。残るスラスターを全力噴射して立ち上がろうとする。膝をついたまま、白鯨の胴体へ体当たりを試みた。


 白鯨はそれを受け止める。いや、押さえ込んだ。


 ストリゴイのスラスターが地面を焼く。白鯨は両腕で押さえ込んだまま、ただ踏ん張り続けた。


 軋む音が続く。


 やがて、ストリゴイのスラスターが焼き切れた。推力を失い、機体がその場に沈んだ。武装無し、推力無し、右腕無し。もう、ストリゴイは動けなくなっていた。


 コックピットの中ではクレインも動きを止めていた。


 機体の状況を確認する。戦闘継続は困難、しかしクレイン自身には何の負傷もなかった。


 クレインは白鯨を見上げた。


 白鯨はストリゴイを見下ろしたまま動かなかった。攻撃はしてこない。ただ、そこに立っていた。


「なぜ、殺さない……」


 クレインは静かに呟いた。もちろん、答えは返ってくるはずもない。しかし白鯨の装甲がほんのわずかに発光を強めた。


 クレインにはその意味はわからなかった。だが、白鯨が踵を返して離れていく。この機体が初めから自分を殺すつもりがないことを理解してしまった。


 クレインは通信を開いた。


「撤退する、全機に伝えろ。……あぁ、撤収部隊をよこしてくれ戦闘は終了だ。」


___


 指揮所では灰崎が腕を組んだままモニターを眺めている。そこに東雲が静かに言った。


「……成功、しましたね」


「うん」


 灰崎は小さく頷いた。


「白鯨の、本当の運用方法が見つかったね」


 城崎も呆然としながら呟く。


「殺さずに……止める、か」


「そうだね」


 灰崎は立ち上がった。


「人は殺めず、機体だけを無力化する。それが白鯨にしかできない戦い方なんだろうね。」


 レンはモニターを見ていた。


 白い巨人が夜の草原を静かに歩いてくる。


『————』


 感情が流れ込んでくる。それは穏やかであった。疲労でも達成感でもない、ただ静かに己の存在を肯定された様な感覚。


 レンにはわかった様な気がした。初めて祈りに準じて戦え、皆を守れた。その感動に満ち足りていた。


 基地に戻って来た白鯨を第三のみんなで出迎えにいった。白鯨の新たな門出をみんなで盛大に祝うのであった。


___


 翌朝。


 担当将校より灰崎に連絡が入った。


「ザスロン基地より正式な停戦の申し入れがありました。」


 灰崎は目を少しだけ丸くした。


「そうですか、わかりました。わざわざご連絡をありがとうございました。」


 通信を終えた灰崎を東雲が見た。


「あのクレイン司令が、ですか」


「うん。昨夜の戦闘で決断したんだろうね。」


 灰崎は窓の外を見た。草原に朝の光が差し込んでいる。


「あの人は、勝てない戦いを無駄に続けるような人じゃないということだよ。」


 その日の午後、撤収準備が始まった。


 白鯨は格納庫の前に立っていた。輸送コンテナへの収納を前に、レンたち整備班が最終点検を行なっていた。


 各部装甲の状態、駆動系の動作・出力、電源ユニットの状態。全て問題無し。


 レンは白鯨に触れた。


「白鯨、帰ろう」


『…………』


 安心感と嬉しさ、そして少しの名残惜しさがレンに流れ込んできた。


「また来ることになるかもしれないけどな」


『————』


 返ってきた感情は穏やかなものだった。それでもいい、とでも言っているようだ。


「本当に、よく頑張ったな」


 レンは装甲を軽く叩いた。白鯨の装甲が強く発光した。


 白鯨のコンテナへの収納が完了し、輸送機への積み込みが始まった。格納庫の前では灰崎とレンが並んでその作業を見ていた。


「レン」


「はい」


「今回の提案、良かったよ」


 灰崎は煙草を咥え、使い古されたジッポに火をつけながら続けた。


「白鯨の本質を理解し、それを運用に繋げた。きっと君にしかできなかったことだ。」


 レンは少し考えてから口を開いた。


「自分だけの力じゃないです。シオンさんが居なければ実現しなかったですし、班長も隊長も、みんなが居たから……」


「そうだね。」


 灰崎は深く煙を吐いて、穏やかに笑った。


「それが、第三というところだよ」


 積み込みが完了して、輸送機のエンジン音が鳴り始める。


「……隊長」


「うん?」


「あの言葉を知っていたんですか。開発者の祈りを」


 灰崎は煙草を一気に吹かした。


「……知っていたよ」


 その答えにレンは驚いたが、灰崎はそれ以上深くは話さなかった。


「それはまた、いつか話すよ」


 灰崎はそう言い残して煙草の火を消した。そしてゆっくりと輸送機に向かって歩き始めた。


 レンはその背中を見ながら、輸送機を見た。中では白鯨が静かに眠っているだろう。今は暗闇の中でも、決して一人じゃない。


 レンはそう思いながら、輸送機へと向かった。


 墓場。と呼ばれる場所がある。だがあそこには、死んだものなど一つもないのかもしれない。


 そのことを、レンは今なら確かに言える気がした。

これで第一章『墓場配属編』一区切りです。

墓場にはまだまだ眠っている兵器たちがいます。

第二章もよろしくお願いいたします。

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