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廃棄兵装運用試験部隊  作者: 9 10
第一章 墓場配属編

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第12話 地上へ

毎週金曜日に更新頑張ります!

 白鯨の再評価試験から一週間後。


 第三管理部会議室に第三の主要メンバーとレンが集まっていた。会議室壁面モニターには白鯨の過去資料及び前回試験結果をまとめたものが映し出されている。それらを指しながら灰崎は口を開いた。


「今日は、白鯨の次について話し合いたい。と、いうことで真琴ちゃんお願いね。」


 レンは資料に目を向ける。そこには見慣れない地名と、いくつかの試験項目があった。

 

「はい。白鯨の再評価試験の結果を得て、上から許可が下りました。次は地上での実地運用試験を行います。」


 東雲は手元の端末を操作しながら補足する。


「場所は、カスピ海沿岸北部の国境付近です。期間は一週間を予定しています。」


「……カスピ海、ですか」


 レンは思わず声に出してしまった。富士樹海の地下深くに潜ってからまだそれほど経っていないというのに、次の行き先が中央アジアの国境付近になるとは夢にも思っていなかったのだ。


「この地域は今、冷戦手前の状態でね。」


 灰崎はレンの言葉に返答した。


「連邦圏と《カスピ連合》の国境付近だ。カスピ連合は連邦圏への加盟を拒否した旧小国の集合体で、今は無人機を主軸に置いた非対称戦を続けている。戦闘は下火になっているが、無人機による小競り合いは今も続いているんだ。」


「なぜそんな遠くで試験を?」

 

 レンの疑問に灰崎は答える。


「ここは無人機メインの戦場だ。だからこそ、白鯨にはもってこいなのさ。それにここの国境付近の施設、実は第九管理区の地上施設だったりもする。」


 そう、白鯨が最も力を発揮できる環境。それは相手が無人機のみの戦場である。そう考えれば確かにピッタリな戦場だ。そして大規模な戦闘がここ最近ないことも試験向けと言えよう。


「もし、白鯨一機で無人機群を撃退できれば連圏側の物資、人員の損耗を大幅に抑えられる。上はそこに注目しているようだ。」


 灰崎は腕を組んでため息をついた。


「ただし、条件付きでね。」


 灰崎がモニターを切り替える。そこには三つの条件が映し出された。


 ”一.運用試験中の白鯨を常に第三の監視下に置くこと。”

 ”二.民間人及び、自国兵士への危害を一切禁ずる。”

 ”三.不測の事態が発生した場合は白鯨を廃棄(破壊)し、即時撤退。”


「上は、白鯨をまだ信用していない。まぁ、それは当然だね。」


 灰崎はそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。

 そこに東雲が静かに付け加える。


「移動には大型輸送機を使用します。富士地上施設で積み込み、現地まで直接飛ぶ予定です。ちなみに白鯨が地下を出るのは封印されて以来、初めてのことになります。皆さん十分に留意してください。」


 その後も会議は進む。レンは帯同するメンバーにももちろん入っていたが、正直発言ができるほどの知識もその立場でもなかった。つつがなく物事は決まっていき、会議は小一時間程で終わった。


 会議室を出たレンは整備区画に戻る途中で足を止め、白鯨の格納ハンガーのほうを見た。


『————』


 微かな感情が伝わってくる。いつもの穏やかな感覚とは少し違った。期待、のようなそんな風に感じられた。


「……もう、知っているのか」


 レンは思わず呟いた。


「何が」


 隣にシオンがいた。いつの間にか並んで隣にいたのだ。


「地上に出られるって話を、白鯨がもう知っている気がして」


 シオンは少しだけ考えてから答えた。


「ありえる。レンが知れば伝わるかも」


 なるほど、感情同期型とはそんなこともできるのかとレンは感心していた。それでもやっぱり直接伝えたくなるのは人間の性なのかレンの性分なのか。


「それじゃあ、ちゃんと伝えてきます!」


 シオンは何も言わなかった。ただ、レンの後ろ姿を見送るシオンの目には温かいものが写っている気がした。


 格納ハンガー。

 白鯨は静かに立っていた。その装甲は脈動するように発光している。やはり、いつもよりもその発光は強く感じられた。


 レンは白鯨の装甲にそっと触れた。


「白鯨、聞こえるか?もう知ってるかもしれないが。お前、地上に出られることになったぞ。」


『————』


 温かい感情のようなものが流れ込んでくる。そして一瞬、白鯨の装甲が強く発光した。いつもの穏やかな脈動ではなく、全身の装甲が眩しく光ったのだ。

 それは言葉にならない感情。だが、レンにはしっかりと伝わってきた。

 白鯨の嬉しい、という感情が今までで一番強くはっきりと流れ込んできた。


「そっか、楽しみか。俺もだよ。」


 また後で。と言い残し、レンは仕事に戻っていった。


 時は流れ、出発の三日前。

 整備区画は朝から忙しなかった。


「輸送コンテナの固定具再確認したか!?」


「電源ユニットの予備、全部積みました!」


「リフトの重量制限もう一度確認してこい !!」


 城崎の号令の下、整備班が白鯨の輸送準備を進めていた。富士の地下から地上へ、そして輸送機へと十八メートルの機体を運び出すのはそれなりに大変であった。専用の輸送コンテナ、大型リフトの使用、地上での機密保持のための処置。正直、地上試験など滅多にしないためほぼ手探りの状態である。


 レンはその中で白鯨の輸送前最終チェックを行っていた。各部装甲の状態、駆動系の動作確認、電源ユニットの充電状況など。いつもの整備よりも念入りに時間をかけていた。


「新人!白鯨の状態はどうだ?」


 城崎が近づいてきて、レンに声を掛けた。


「全系統、異常なしです。むしろ全数値が高くなっています。」


「機嫌がいい証拠だな!」


 城崎はガハハと笑う。


「まぁ、何年も地下にいたからな。そりゃ楽しみにもなるわな!」


 レンは白鯨を見上げる。装甲の発光が普段よりも気持ち明るく感じた。

 

 準備は二日がかりであったが、つつがなく終わった。

 そして、出発前日の夜。レンは一人、格納ハンガーに来ていた。


 輸送コンテナへの収納作業は完全に終わっており、白鯨は巨大なコンテナの中に納まっていた。明日の朝、このコンテナごとリフトで地上にあげられ、輸送機へと積み込まれる。


 レンはコンテナの外壁に手を当てた。


『————』


 微かだが落ち着いた、穏やかな感情が伝わってくる。眠っているような、静かな感情だった。


「明日が楽しみだな、白鯨。」


 レンはそう言ってハンガーを後にした。


 翌朝、巨大なコンテナを乗せたリフトが緩やかに動いていた。

 レンはリフトの端に立ち、コンテナとともに地上へと上がっている。ゆっくりと、しかし確実に地上へと近づいていた。

 やがてリフトは止まり、重厚な隔壁が開く。冷たい、朝の空気が流れ込んでくる。

 レンは思わず目を細めた。


 樹海の朝であった。霧のかかった木々の間から、薄い光が差し込んでいる。地下で過ごした時間はまだそれほど長くはないのだが、外の空気が沁みる気がした。


「————」


 コンテナの中の白鯨からも感情が伝わってくる。

 懐かしい、というような感覚。長い間地下に閉じ込められていたんだ。久しぶりに外の空気に触れられて嬉しいのかもしれない。


「……帰ってきたな、白鯨。」


 レンは霧の中、コンテナを見ながら小さく呟いた。


 そして、コンテナの輸送機への積み込み作業は昼前までかかった。

 大型輸送機のハッチが閉まり、エンジンが唸り始める。白鯨を載せた機はその重量をものともせず、無事に離陸した。

 同じ機に乗っているレンは窓の外を見た。樹海が遠ざかっていき、富士の稜線が小さくなっていった。

 隣の席では灰崎が目を閉じ、その隣に書類に目を通している東雲。通路を挟んだ向こうには大口を開けて爆睡する城崎と外を静かに見ているシオンがいた。


 機内はとても静かであった。


『————』


 貨物スペースの方から楽しそうな感情が伝わってくる。朝の懐かしさとは違った、高揚感に似た何か。飛んでることへの感情か、遠くへ行くことへの期待感なのか、レンには判断がつかなかった。


「白鯨、飛行機初めてだったりして……そんなことないか」


 レンは小さく笑った。

読んでいただきありがとうございます。

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