第11話 白鯨の実力
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試験の結果を経て、指揮所内には微妙な空気が流れていた。
そんな中、シオンから指揮所に通信が入る。
『白鯨、操縦拒否』
「わかった、班長とレンたちをそっちに向わせる。シオンはとりあえずそこで待っていてくれ。」
班長、レン、整備班数名がトラックで白鯨のもとに向かう。
レンは道中で考えていた。試験中、微かではあるが白鯨の困惑や拒絶の感情が自分に届いていたからだ。これはやはり戦闘に対する感情なのだろうか。
そんな考えに耽っていると城崎の声がした。
「よーしお前ら!もうすぐ着くぞ、テキパキ動け!!」
「「「はい!」」」
現着し、全員が迅速に降車する。
シオンも白鯨から降りて外で待っていた。班長はシオンの元へ、レンと他の面々は白鯨の元へと移動する。それぞれ割り当てられた装甲のチェック進めていく、そのどれもが全くの無傷であり模擬弾とはいえ流石であった。
レンは記録データを摂っていたが、白鯨からの困惑と強い拒絶にさらされて作業が手につかなった。一旦データ摂りを中断し、白鯨にしっかりと触れてみる。
『…………』
変わらず流れ込んでくる困惑と拒絶。その中に、戸惑いのような感情が含まれていることにレンは気が付いた。いったい何に戸惑っているのか考える。白鯨はほんとに戦いたくないだけなのか、違う理由があるのではないのか。そして、ある可能性を考え付く。
レンはデータの記録作業を完了させ、シオンと城崎のもとに行く。城崎に次の試験内容を確認し、次は必ずできるとレンは確信を持った。
「シオンさん、次は必ず動いてくれます。お願いです、信じてあげて下さい。」
「了解。でも、不服」
無表情のシオンから珍しい言葉が出て、レンは呆けてしまう。
続けてシオンから出た言葉は少しだけ気持ちがこもっていた。
「いつでも信じてる」
そう言い残してシオンは白鯨に乗り込んでいく。レンたち整備班も撤収し、指揮所へと戻っていくのであった。
―― ピーッ。
整備班を乗せた車両が市街地エリアを出てすぐ、次の試験を始める合図が鳴った。レンは車両の窓から様子を見る。すると、指揮所側にある壁が開いている。その中から無人機が2種類出てきた。
無人戦闘偵察機――UD-12 シーカー (Unmanned Drone‐12 シーカー)
全長約二メートル。球体型の本体、その左右に大型のダクテッドファンが付いてる。その無人偵察機が四機。小型の機関砲と小型ミサイルを搭載している。
無人機動兵器―― UG-08 ハウンド (Unmanned Ground‐08 ハウンド)
全高約五メートル。四脚の下半身に人型の上半身が乗ったような姿。頭部は円柱状のセンサーユニットになっておりカメラは無い。無人兵器が六機。両の腕に手は無く、左右それぞれの腕の半ばから三十ミリ機関砲とミサイルポッドが装着されている。
全て標準装備の兵装であった。
それらが市街地エリアへと向かう。空中移動のシーカーが先行し、地上移動のハウンドが後を追う。
レンたちがすれ違った後間も無くして、戦闘の始まった音がした。レンの考えが正しければ、さっきのような結果にはならないはずだ。
整備班を乗せた車両は急ぎ、指揮所へと走る。
戦闘開始から時間にして一、二分ほどだろうか。レンたちは指揮所に着き、観戦室へと足早に移動した。モニターには無人機十機中、四機が行動不能の表示になっている。
白鯨はすでに四機を仕留めており、シーカー、ハウンドともに二機が沈黙。
白鯨はまだ止まらない。四方を囲むように展開しているハウンドの内の一機へと間合いを詰めていく。その身に三十ミリ機関砲の攻撃を受けながら、一切減速せず接近しきりハウンドの胴体を手刀で貫いた。
「動きが全然違う……」
指揮所の誰かがそう呟いた。他の者からも驚愕の雰囲気が漂ってくる。
モニターの向こうでは白鯨が無力化したハウンドを盾にして、銃撃を受けつつもう二機のハウンドに肉薄していた。二機の目の前で盾にしていた機体を唐突に手放し、白鯨は信じられないスピードで敵機の後ろへと回り込む。白鯨を見失ったハウンドは、二機とも無残に頭から押し潰され無力化された。
「……強すぎる」
「皆、感心するのはいいが手は止めないようにね。」
ついつい手が止まっていた隊員たちを灰崎が諭した。皆、自分の仕事に意識を戻す。
二機を潰した白鯨は立ち上がり、最後のハウンドを視界に収める。また、距離を縮めるために跳躍する白鯨。そこへ、死角に潜んでいたシーカー二機がミサイル四発叩き込んた。
跳躍中で身動きが取れない白鯨に全弾が命中する。
白鯨は派手な爆炎に包まれた。それを見ていたレンには完全な不意打ちに見えた。だが、煙の中から腕をクロスにした白鯨が飛び出してくる。
最後のハウンドの頭部を踏みつけて不意を突いてきたシーカーへと跳躍した。シーカー二機を捕まえ、両手でダクテッドファンを破壊して無力化した。
それと同時に試験終了の合図が鳴った。
—— ピ、ピーッ。
先ほどとは打って変わって圧倒的な戦果である、皆何があったのかと口々に話し合っていた。
そんな中、灰崎がレンに話しかける。
「レン、これは……」
「はい、白鯨が戦えなかった。いえ、戦わなかったのは敵パイロットを殺さないためだったのだと思います。」
レンが白鯨に触れたとき感じた困惑と拒絶、そして戸惑い。それらは戦闘に対してではなく人を、敵パイロットを傷つけることに対してであった。
だからこそ、無人機相手にはそれがない。本来の白鯨の力を発揮できた。
そう、感慨にふけっていたレンは呟いた。
「それにしても強かったですね。」
「それはそうさ、白鯨とシオンは第三最強候補だからね。」
白鯨が指揮所付近まで戻ってくる。シオンが白鯨から降りてきたが、その表情はいつもと変わらない。しかし、どこか満足そうではあった。
灰崎は腕を組んだまま白鯨を見ていた。
「人には手を出せない。だが兵器とは戦える。か」
灰崎は、一拍おいて続けた。
「問題は、実践では人と兵器が混在しているということだな……」
白い巨人が静かに立っている。
その姿はもう戦えない兵器ではなかった。ただ、戦う相手を選んでしまう兵器であった。第三の面々もそれぞれ、白鯨を称賛するように眺めていた。
レンの頭の中に感情が流れ込んでくる。
穏やかな、誇らしげな、褒められて満足しているような感情である。
レンは思わず苦笑した。
「よかったな、白鯨」
白い装甲がほんの少しうれしそうに発光した。
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