第10話 有人機の壁
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白鯨の整備から三日後。
場所は、第三管理部試験場。地下都市の最深部に用意された巨大なドーム型の試験場である。実際の運用を想定した試験場のため、壁や天井は他の第九管理区施設と比較にならないほど頑丈にできていた。ドーム中央には市街地を再現したエリアが用意されている。
レンたち第三のメンバーは市街地エリアから少し離れた場所に設置した、野営指揮所で再評価試験の準備をしていた。試験対象はもちろん白鯨である。
整備班はすでに準備を終えており、レンは市街地映像を眺めていた。
「すごい、規模……」
「もちろん、第三の実験場」
近くにいたシオンが答えた。
いつもと違い白衣は着ていない、白いボディスーツを着ている。着用者のボディラインがはっきりとわかってしまい、レンは若干目のやり場に困った。
だが、シオンは一切気にした様子はない。レンは余計に恥ずかしくなり、照れ隠しのついでに話を続けた。
「さ、さすがですね。地下にこんな施設まであるなんて」
「ある」
シオンの返答は簡潔すぎた。そのため、話題が広がらずレンにとっては微妙な空気が流れていた。その時、少し気の抜けた声にレンは呼ばれた。
「おーい、レンー」
呼ばれた方を向くと、そこには灰崎がいた。
普段は軍服の上着をあまり着ない灰崎だが、今日は珍しくしっかりと着込んでいた。
「隊長!おはようございます。」
「おはよう。今日はいよいよ白鯨の試験だね。」
灰崎は指揮所の外れに立っている白鯨を見上げる。白鯨の白い装甲が脈動するよう、穏やかに発光していた。今日の白鯨はとても落ち着いている。今日の試験は問題ないだろう。
「シオン、今日はよろしく頼むよ」
「了解」
シオンは短く答えると白鯨に向かって歩いていく。なんとも言えない緊張感が場に広がっていき、レンは生唾を飲み込んだ。そして皆が注目する中、シオンは白鯨のもとにたどり着いた。
シオンは白鯨を見上げて動きを止める。数秒、数十秒。動きを止めたまま時間が過ぎていった。どうしたのかと、レンが疑問を持ち始めたとき灰崎の端末にコールが入った。
「――、――――。」
誰かと何かを話し終えた灰崎がレンのもとに近づいてきた。灰崎は珍しく真剣な顔をしている。レンは身構えるが、灰崎の言葉を聞いて気が抜けてしまった。
「レン、白鯨が動かないってシオンが呼んでるんだが。」
――あぁ。
その場の全員から納得のようなため息が漏れ出た。
灰崎に言われたレンは渋々、シオンと白鯨の元に向かう。皆に注目されてあまり良い気分ではないが、本日の主役が動かないのであれば仕方がない。
シオンと白鯨、二人の元に辿り着く。白鯨はやはり大きい見上げていると首が痛くなってくる。
――ガシャッ。
そんなことを思っていると白鯨がゆっくりと片膝をついた。
白鯨さん動けるじゃないですか!とレンは思ったが、まあ仕方がないことである。
レンは白鯨に触れ、ゆっくりと話しかける。
「白鯨。今日の再評価試験でいい結果が出れば、もうひとりぼっちで暗いとこに居なくても良くなるんだ。だから、シオンさんを乗せてくれないかな。」
うまく伝わっているかは正直レンにはわからない。感情を感じ取ることができても会話ができるわけではないからだ。どうかな……と、白鯨の様子を見ていると白鯨の背面にあるハッチがゆっくりと開いていく。
どうやら話が伝わってるようだ。安心したレンはあとをシオンに任せて指揮所に戻る。
「おつかれ、助かったよ」
「いえ……」
灰崎からのねぎらいを受けつつ、周りを見てみる。すると奥で整備班メンバーがニヤニヤしているのが見えた。おそらくまた懐かれてるだの、好かれてるだの言っているに違いない。
また弄られるのかと考えると、レンは溜め息が止まらなかった。
シオンが無事に乗り込み、白鯨は市街地エリアの中央へと移動していった。
これで試験準備が完全に終わり、灰崎からアナウンスが流れる。
『では、これから白鯨再評価のための試験を開始する。まずは基本的な確認から始めよう。』
灰崎の指示のもと、市街地エリアに有人機動兵器が投入された。
――MF-01 《ガードナー》
連邦圏統一戦争末期に正式採用された機体。重装甲、高耐久。鈍重だが故障が全くと言っていいほど起こらない。既に連邦軍では次世代機への移行が完了しており、連邦圏を支えた過去の名機となっている。
武装はオーソドックスなライフルと盾を装備されていた。
レンは眉をひそめた。
「いきなり有人機なんですか?」
「本当に戦えないのかどうか。その確認のためだよ。」
―― ピーッ。
ガードナーが白鯨から百メートル離れた位置に到着し、状況開始の合図が鳴る。
そして、合図と同時にあえて白鯨の前に姿を現したガードナー。ライフルを構え、まずは一発発砲する。
その弾丸は白鯨の頭部センサーの横スレスレを通過したが、白鯨は微塵も動かない。
レンはおどろき声を上げる。
「あれは実弾!?」
「白鯨には、本気で戦ってほしいからね」
灰崎がレンの疑問に答え終えるころ。
ガードナーは白鯨に接近していく。その速度は、決して速いわけではない。だが、白鯨は動かなかった。
「やはりか……」
灰崎は小さく呟いた。だが、これは再確認の色が濃いため、言葉とは裏腹に残念そうではなかった。市街地エリアではガードナーが接近しながら射撃を繰り返していた。放たれた模擬弾は全弾白鯨に命中している。それでも白鯨は動かない。
結局、対有人機戦は白鯨が動かないまま。ガードナーの攻撃の寸止めにより終了した。
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