第9話 墓場食堂
毎週金曜日の日中に投稿できるように頑張りたいと思います。
昼休憩。
第九管理区地下都市――中央大食堂
レンは入口前で立ち止まり、思わず声が漏れた。
「でっかいな……」
そこは食堂というよりも、もはや広場であった。吹き抜け空間の巨大食堂。大量の長机が並び、軍服姿の軍人、作業服姿の整備兵、白衣などの研究員たちが行き来していた。所々に設置されている大型モニターには各管理区の稼働状況や要所要所の監視カメラ映像が映っている。吹き抜けの先に天井は無く、運搬用ドローンが飛んでいるのが見えた。
そして何よりも、地下施設とは思えないほどに人で溢れていた。
「なんか、規模は馬鹿げてますが。思ったよりも普通ですね。」
レンは素直にそう言った。
もっと暗くて静かで、全員目が死んでいるようなそんな施設を想像していた。
しかし実際は違う。笑い声があり、賑やかで人も多い、思っていたよりも人間臭い空間であった。
「普通じゃない」
隣にいるシオンが言った。
「慣れただけ」
「それ、怖いんですけど」
「まぁ、いいことじゃねぇか!!」
豪快に笑う城崎について行くレン。
食堂には、入口を入って遠くない位置にバイキング形式で食事が用意されていた。建物としての入り口は三箇所あり、大量の人数を分散させるためにそれぞれの入り口付近に前述のバイキングが三箇所ずつ用意されている。
食事をよそい、みんなについて席まで移動する。その途中、レンはあるものに気がついた。食堂のうちの一角、そこだけやたら頑丈そうな防弾ガラスが設置されている。その向こうでは真っ黒に軽い銀の装飾がされた軍服を着た集団が食事をしていた。全員、黙って食事をしている。見ているだけで空気が重くなりそうだった。
「なんですか、あれ」
城崎が視線を向ける。
「あぁ、第一の連中だな」
「第一?」
「第一種、暴走型兵器管理部」
レンの疑問にシオンが答える。そしてレンは思い出した、初めてきた時に見た黒い巨大な機影。
精神が壊れるとか言われたあれだ。
「危険度が高ぇからな、あいつらも大変なんだ」
城崎は席へ座りながらそう言った。レンも腰を掛け、「いただきます」と手を合わせた時。
シオンはすでに無言でカレーを食べていた。早い、カレーは既に半分ほど消えている。
「シオンさん、食べるの早いですね。というか、カレーなんてありましたっけ?」
「これは特別。わたしは普通。」
城崎は山盛りの白米を手に持ち笑いながら教えてくれた。
「シオンはカレーしか食わねえ。食うのが早えのは、まぁいつものことだ!」
「班長は量がすごいですね」
「若いうちは食っとけ!!」
「はぁ……」
レンがシオンと城崎に圧倒されているその時、近くを通った一団から声が聞こえた。
「……第三の奴らかよ」
レンが視線を向ける、食事を終えた数人の軍人がこちらを見ていた。黒に銀の刺繍。先ほど話に出た、第一種失敗兵器管理部の軍人だ。そのうちの一人が鼻で笑う。
「思想逸脱型、ねぇ」
「戦場で戦えない兵器なんて、ただの鉄屑だろ」
静かに空気が止まった。レンは何を言われたのか理解できずに食事の手が止まる。
だが、城崎もシオンも食事の手を止めてない。第三は誰も気にしていなかった。
「えっ、と……」
レンが困惑していると、城崎が言った。
「気にすんな。」
「……でも」
「昔からあぁなんだ」
城崎は顎で指しながら話を続ける。
「第一は危険な兵器を相手にしている。うちは変わりもんの相手をしている。そりゃ、考え方も違うさ」
レンは黙ってしまう。その時だった。
「変わり者なのは否定しませんけど」
柔らかい声が響いた。東雲がいつの間にか食事を持って近くに立っていた。その顔はとても穏やかな笑顔である。
「ただ、うちの子たちを悪く言われるのは、あまり好きじゃないですね。」
その場の空気が静まり返る。第一の隊員たちは固まり、東雲は笑顔のままだ。
その数秒後
「……し、失礼しました」
第一の隊員たちは視線を逸らし、食堂をあとにした。レンがポカンとしていると城崎は小声で話しかけてきた。
「新人、東雲さんだけは怒らせたらいかんぞ」
――コクコク
レンは黙って頷いた。チラッと東雲を見るが、穏やかで優しそうないつもの東雲である。
だが、絶対に怒らせてはいけないと本能的に理解したレンであった。
イレギュラーはあったものの、盛り上がりつつ食事を終えようかと思っていたその時。
――ズン。
食堂全体が揺れた。レンは飛び上がり、動揺する。
「うわっ!?」
吊るされた照明が微かに揺れている。しかし、周囲は誰も特に反応していなかった。皆、着々と食事の片付けを進めている。
「……。」
レンだけが周囲を見回していた。それを見てシオンが淡々と言う。
「第二種、たまにある」
「たまに、で済ませていい揺れでした?」
城崎は食後のお茶を啜りながら、淡々と答えた。
「今日は小さい方だな、先月はもっとデカかった」
「小さいんですか!?」
周囲で笑い声が起こり、レンは頭を抱えた。でも、レンも笑ってしまう。
なんだか悔しいが、この場に馴染んできていることをレンは実感していた。来たばかりの頃は怖かった。全て知らないものばかりで、騒がしくて変な人ばかり。
だが、今では居心地が良いと思いはじめていた。
『…………』
レンは第三管理区の方を見る。嬉しそうな、穏やかな感覚が伝わってくる。それは先ほど別れた白鯨からのものであった。
「……白鯨?」
シオンはレンに聞いた。
「はい、なんだか嬉しそうでした」
レンの回答を受け、シオンは心なしか嬉しそうに食堂を後にする。遅れないようにレンも食事を片付けて皆んなの後をついて行く。
レンの第三管理区での生活が本格的に始まるのはこれからなのであった。
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