第四話 「S級戦闘権限」
横浜港第七号埠頭。
午後十時十一分。
警察無線が怒号で埋まっていた。
『避難区域拡大!』
『港湾管理局は直ちに封鎖!』
『海上保安庁、周辺海域を全面規制!』
赤色灯が霧を染める。
だが。
コンテナ群中央だけは異様な静寂に包まれていた。
爆弾。
その存在が空気を変えていた。
「識別は?」
蓮司が問う。
アヤが膝をつき、ケース内部を確認する。
「軍用規格です」
「種類」
「指向性爆薬型……複数接続」
アヤの声が僅かに低くなる。
「港湾物流システムを狙っています」
蓮司は即座に理解した。
横浜港は日本最大級の物流拠点。
ここが機能停止すれば。
国内流通。
金融。
輸出入。
燃料供給。
全てに影響が出る。
つまりこれは。
ただの爆弾事件ではない。
国家経済攻撃。
「社長」
後方班員が通信を飛ばす。
「外周突破部隊接近」
「数は?」
「二十以上」
蓮司は静かに目を閉じた。
ヘルハウンドは最初から、この状況を想定していた。
突入したヴァルハラを港ごと潰す気だ。
『警察庁警備局より通達』
『警備計画書第七号をS級国家危機案件へ指定』
『ヴァルハラへ交戦権限を一時拡大』
通信が流れる。
その瞬間。
隊員たちが無言で視線を上げた。
S級戦闘権限。
それは国家認定PMCにのみ与えられる、極めて限定的な武装行動許可。
通常警備ではない。
国家安全保障級。
事実上の準軍事行動。
だが当然。
代償もある。
作戦終了後。
全行動。
全発砲。
全命令。
全映像。
全通信。
全てが国家監査対象となる。
PMCは自由ではない。
国家の鎖に繋がれた武力。
だからこそ存在を許される。
「蓮司」
アヤが小さく言った。
「やる?」
蓮司は短く答える。
「当然だ」
彼は通信回線を全体へ接続する。
「ヴァルハラ全隊へ」
「これよりS級戦闘権限下へ移行する」
「対象は無登録PMCヘルハウンド」
「国家重要港湾破壊工作阻止を最優先とする」
全員が静かに応答する。
『了解』
『了解』
『了解』
迷いはない。
彼らは訓練された戦術員。
国家認定PMCヴァルハラ。
その時。
遠方からエンジン音。
黒いSUVが埠頭へ突入してくる。
ヘッドライト点灯。
ドアが開く。
武装員たちが次々と降車。
自動小銃。
重装備。
完全武装。
「来たか」
蓮司は静かに拳銃を構える。
敵の一人が叫ぶ。
「ヴァルハラだ!」
「殺せ!」
銃声。
一斉射撃。
コンテナへ火花が散る。
「散開!」
蓮司の声。
隊員たちが瞬時に動く。
その動きは軍隊より速く。
警察SATより柔軟だった。
企業だからだ。
国家組織ではない。
だからこそ。
現場判断が異常に速い。
「左制圧!」
「右援護!」
「前進!」
アヤがコンテナ上へ跳ぶ。
発砲。
二名制圧。
同時に蓮司が前進。
敵車両へ集中射撃。
SUVが横転する。
爆発。
炎が夜を照らした。
その赤い光の中。
蓮司は敵を見る。
無登録PMC。
国家監査を拒否した武装集団。
野放しの武力。
だから危険なのだ。
「……やはり違うな」
蓮司は呟く。
「武力には鎖が必要だ」
その瞬間。
無線が割り込む。
『こちら防衛省統合監査室!』
『ヴァルハラへ直通命令!』
蓮司の表情が変わる。
防衛省直属回線。
それは。
国家そのものが介入した証だった。




