第5話 生きている人間を、死んだことにはさせません
非常用搬出口というものは、名前の通り、非常時に使うためのものだ。
通常の探索者は使わない。
使う必要がない。
使った時点で、何かが起きている。
事故。
逃走。
隠蔽。
あるいは、その全部。
新宿第九ダンジョン、非常用搬出口B。
地上へ抜ける細い通路の前で、俺は端末を確認していた。
【非常用搬出口ログ】
【時刻:事故申告から二十二分後】
【装備タグ:SETO-07】
【登録者:瀬戸悠真】
【状態:生体反応あり】
【搬出口開閉:手動解除】
隣では、御園ミミが通信端末の画像を見つめている。
血のような赤い液体。
銀狼の牙のエンブレム。
そして、端末に巻かれた細い包帯。
回復職の応急講習で使われる救助信号。
声を出せない患者が、近くに敵がいる時に使うサイン。
瀬戸悠真が生きていて、自分でこれを残したのなら。
この案件は、死亡保険金請求ではない。
行方不明者の救助案件だ。
「黒木さん」
ミミが小さく言った。
「この結び方、かなり急いでいます」
「分かるんですか」
「はい。端の折り込みが浅いです。でも、形は合っています。たぶん、手が震えていたか、片手しか使えなかったんだと思います」
「負傷している可能性が高いですね」
「はい」
ミミの顔は強張っている。
それでも、逃げる顔ではなかった。
昨日までレオンに怒鳴られて震えていた回復役は、今、死んだことにされたかもしれない探索者の痕跡を追っている。
人間は、役割を取り戻すと顔つきが変わる。
俺は搬出口の先にある監視ログを確認した。
通常カメラは機能していない。
魔力攪乱の影響で、映像は砂嵐に近い。
だが、完全に消えてはいなかった。
画面の端に、人影が一つ。
ふらつきながら、外へ出ている。
肩を押さえている。
右足を引きずっている。
その後ろに、別の人影。
いや、違う。
追っているのではない。
見張っている。
黒いコートの人物が、距離を取って立っている。
顔は見えない。
ただし、腰に銀色の牙を模したチャームが揺れていた。
銀狼の牙のメンバーが、全員つけていたものと同じだ。
「瀬戸氏は一人で逃げたわけではないかもしれません」
「誰かがついていたんですか」
「少なくとも、見張りがいました」
俺は周辺の地上マップを開く。
非常用搬出口Bの先は、再開発前の地下連絡路。
現在は閉鎖されている。
そこから地上へ出ると、古い物流倉庫街につながる。
人通りは少ない。
監視カメラも少ない。
身を隠すには向いている。
もしくは、誰かを隠すには。
俺はタブレットに新しい項目を追加する。
【推定移動経路】
【非常用搬出口B】
【旧地下連絡路】
【新宿東側旧物流倉庫区画】
【瀬戸悠真氏:負傷状態の可能性】
【同行または監視者:銀狼の牙関係者の疑い】
「行きます」
「はい」
「ただし、御園さん」
「はい」
「現場で瀬戸氏を発見した場合、あなたの役割は回復判断です。犯人に近づく必要はありません」
「分かっています」
「本当ですか」
「証拠品には触りません。犯人にも近づきません。怪我人がいたら、黒木さんの指示を待ってから回復します」
「十分です」
ミミは少しだけ口元を緩めた。
「私、少し学習しました」
「良いことです」
「黒木さんも、私に言い方を少し任せることを学習してください」
「検討します」
「それ、しない人の返事です」
「よく分かりましたね」
「三日で慣れました」
通訳役としての成長が早い。
喜ぶべきか、俺の言い方がよほどひどいと受け取るべきか。
おそらく両方だ。
旧物流倉庫区画は、夜でも暗かった。
使われなくなった倉庫が並び、剥がれた看板が風で軋んでいる。
遠くで、ダンジョンから排出される魔力を処理する排気塔が低く唸っていた。
俺は端末をかざす。
《因果鑑定/ログ・リプレイ》
地面に残る魔力痕跡を拾う。
瀬戸悠真の装備タグ。
微弱な血液反応。
そして、包帯に残った回復魔力の痕跡。
ミミが言った通り、彼は負傷している。
【痕跡追跡】
【対象:瀬戸悠真】
【状態推定:負傷/歩行困難】
【移動速度:低下】
【同行者痕跡:一名】
【魔力特徴:銀狼の牙メンバー登録データと一部一致】
同行者は、銀狼の牙。
水上か、北原か、乾か。
現時点では断定できない。
痕跡は、一番奥の倉庫へ続いていた。
シャッターは閉じている。
だが、横の通用口の鍵が新しい。
最近取り替えられている。
俺は庁の緊急照会で、倉庫の利用登録を確認した。
名義は、廃業した運送会社。
だが、直近一週間で、短期保管契約が結ばれている。
契約者名。
水上怜司。
俺は胃薬の瓶を取り出しかけ、やめた。
現場で胃薬を飲んでいる場合ではない。
「黒木さん」
ミミが声を潜める。
「中から、微かに魔力の乱れがあります」
「負傷者ですか」
「たぶん。かなり弱いです」
「声は」
「聞こえません。でも、治癒魔法を受けていない怪我人の魔力に近いです」
瀬戸悠真がいる可能性が高い。
俺は庁へ位置情報を送る。
応援要請。
警備班到着まで、推定八分。
八分。
負傷者がいるなら、長い。
犯人が戻るなら、短い。
俺は通用口の前に立った。
「御園さん。後ろへ」
「はい」
俺は扉に端末をかざす。
【緊急事故査定権限】
【対象施設:死亡保険金請求関連証拠保全】
【開錠申請】
【承認】
電子錠が小さく鳴った。
扉を開ける。
中は、埃と湿気の匂いがした。
奥に、かすかなうめき声。
ミミが一歩前に出そうになる。
俺は手で制した。
「待ってください」
床を見る。
簡易魔法罠。
侵入者を感知すると、音が鳴るタイプだ。
雑だが、負傷者を動かせないようにするには十分。
「罠があります」
「瀬戸さんの近くですか」
「入口です」
俺は端末で解除する。
【簡易警報術式】
【解除】
警報は鳴らなかった。
倉庫の奥へ進む。
そこに、男が倒れていた。
二十代半ば。
左肩に深い傷。
右足に固定具。
口には布が噛まされ、両手は緩く縛られている。
死んだと申告された男。
瀬戸悠真だった。
ミミが息を呑む。
「生きてる……!」
「御園さん、状態確認」
「はい!」
ミミは瀬戸に駆け寄る。
今度は、証拠品に触るなとは言わなかった。
人命が優先だ。
ただし、彼女は手袋をつけ、傷口以外には触れないようにしている。
学習している。
「意識はあります。脱水、出血、魔力低下。肩の傷は深いですが、命に関わる出血は止まっています。足は……折れてはいません。捻挫と打撲です」
「話せますか」
ミミが口の布を慎重に外す。
瀬戸はかすれた声で息をした。
「……たす、け……」
「大丈夫です。ダンジョン庁です」
ミミが柔らかく言う。
「もう大丈夫です。ゆっくり息をしてください」
瀬戸の目が、俺を見る。
「ほ、保険……金……」
「その話は後です」
俺は言った。
「まず、生きていることを確認します」
瀬戸の目から涙がこぼれた。
「俺……死んだことに、されて……」
「誰に」
瀬戸は震える唇で答えた。
「水上さん……」
ミミの表情が強張る。
俺は録音を開始した。
「話せる範囲で構いません。何がありましたか」
「借金が……あって……俺、パーティに迷惑かけてて……水上さんが、言ったんです」
「何を」
「死亡保険金を使えば、借金も返せる。俺も一部もらって、遠くでやり直せるって……」
予想通りではある。
だが、胸糞は悪い。
「受取人を水上氏に変更したのは」
「言われて……やりました。手続きも、全部、水上さんが……」
「あなたは死亡偽装に同意したんですね」
瀬戸は目を閉じた。
「はい……でも、最初は……本当に、死ぬふりだけだって。金が入ったら、分けてくれるって」
「実際は」
「逃げたあと、倉庫に連れてこられて……水上さんが、言ったんです。しばらくここで黙ってろって。金が入るまで外に出るなって」
「それだけですか」
瀬戸は震えた。
「昨日、聞こえたんです。北原さんが、水上さんに……『こいつ、あとで邪魔になるんじゃないか』って」
ミミが息を止める。
「だから、助けを求めたんですね」
瀬戸は小さく頷いた。
「昔、回復職の講習で……声を出せない時のサインを習って……端末に包帯を巻いて、写真を撮らせた時に、こっそり……」
「送信したのはあなたですか」
「いいえ。水上さんたちが、脅し用の写真を撮って……その時、端末を床に落として。俺、送信先だけ、前に問い合わせたダンジョン庁の事故相談窓口にしておいて……」
なるほど。
死んだことにされた男は、自分を探してくれる相手に、脅迫画像を使って救助信号を送った。
ミミが気づかなければ、見逃していた可能性がある。
俺はミミを見る。
「御園さん」
「はい」
「あなたの判断で、瀬戸氏は見つかりました」
ミミの目が揺れる。
「……よかった」
その時、倉庫の外で車の音がした。
複数。
俺は録音端末をしまい、瀬戸の前に立つ。
「御園さん。瀬戸氏のそばに」
「はい」
倉庫の扉が乱暴に開いた。
入ってきたのは、水上怜司。
その後ろに、北原。
乾はいない。
水上は俺たちを見た瞬間、表情を失った。
「……黒木さん。なぜここに?」
「非常用搬出口ログを追いました」
「これは、我々の倉庫です」
「死亡保険金請求に関わる生存者が監禁されていた可能性があります」
「監禁?」
水上は笑った。
乾いた笑いだった。
「瀬戸は自分の意思でここにいる。そうだろう、瀬戸?」
瀬戸が震える。
ミミが彼の前に出る。
「瀬戸さんは負傷しています。これ以上近づかないでください」
「君は関係ないだろう。元・聖女さん」
ミミの肩が一瞬震えた。
だが、下がらなかった。
「関係あります。私は今、事故査定課の補助員です」
水上の目が細くなる。
「レオンの次は、ダンジョン庁の犬か」
「水上氏」
俺は割って入る。
「その発言も記録します」
「記録、記録、記録。役人はそればかりだな」
「今回のような案件では、記録が人を生かします」
俺は端末を開いた。
「確認します。水上氏。あなたは瀬戸氏が死亡したとして、死亡保険金五千万円を請求しました」
「瀬戸は死んだ。目の前にいるのは……」
「言い訳は慎重に。本人確認ログがあります」
【本人確認】
【対象:瀬戸悠真】
【生体反応:あり】
【魔力波形一致率:九六%】
【登録装備タグ一致】
【判定:本人の可能性 極めて高】
水上の表情が強張る。
北原が後ずさった。
「次に、事故現場の偽装です」
【現場痕跡再解析】
【血痕:保存血の散布疑い】
【爪痕:人工的反復痕】
【衣類損傷:刃物による切断】
【魔力攪乱剤:使用痕あり】
【判定:事故現場偽装】
「さらに、受取人変更」
【保険金受取人変更】
【事故三日前】
【旧受取人:瀬戸悠真の母】
【新受取人:水上怜司】
【変更理由:パーティ運営資金】
【判定:死亡偽装計画との関連疑い】
水上が低い声で言う。
「瀬戸が自分で望んだんだ」
「死亡偽装に関与した点について、瀬戸氏にも責任はあります」
瀬戸が目を伏せる。
「ですが」
俺は水上を見た。
「死んだことにした人間を監禁し、保険金受領まで隠す行為は、別の話です」
「監禁などしていない!」
「両手の拘束痕、口の布、外から施錠された倉庫、簡易警報術式。説明しますか」
水上は黙った。
北原が震える声で言った。
「俺は……言ったんだ。やめようって。こんなのまずいって」
「北原!」
水上が怒鳴る。
北原はびくりとするが、もう止まらなかった。
「最初は、瀬戸も同意してた! でも、途中で怖くなって、やめたいって言ったんだ! 水上が……水上が、金が入るまで黙らせておけって」
「黙れ!」
水上が北原へ掴みかかろうとする。
その瞬間、倉庫の外から警備班が入ってきた。
ダンジョン庁警備部。
俺が送った応援要請が到着したらしい。
「全員、その場を動かないでください」
水上は舌打ちした。
「黒木……!」
「黒木で結構です」
俺は端末を操作する。
【査定結果:暫定】
【瀬戸悠真氏:死亡認定不可/生存確認】
【死亡保険金:支払い停止】
【銀狼の牙:保険金詐欺未遂疑い】
【水上怜司:主導的関与疑い】
【北原:共犯または従属的関与の疑い】
【乾:証言確認対象】
【瀬戸悠真:死亡偽装関与/ただし監禁・脅迫被害の可能性あり】
【優先処理:瀬戸悠真氏の保護・医療支援】
水上が叫ぶ。
「ふざけるな! 瀬戸だって同意していた! 全員で決めたことだ!」
「同意があったとしても、死亡保険金請求は通りません」
「俺たちは金が必要だったんだ!」
「金が必要なら、生きている人間を死んだことにしていい理由になると?」
水上は言葉に詰まる。
「五千万だぞ……! それだけあれば、パーティを立て直せた。瀬戸の借金だって返せた!」
「返済方法として、死亡保険金詐欺は不適切です」
「綺麗事を言うな!」
「綺麗事ではありません」
俺は言った。
「制度の話です」
水上の目が血走る。
「制度が助けてくれないから、こうなったんだろうが!」
「制度を使う前に、死亡偽装を選んだのはあなたたちです」
水上は警備班に囲まれながらも、なお叫んでいた。
「俺がいないと、このパーティは終わるんだぞ! 北原も、乾も、瀬戸も、俺が仕事を取ってきたから食えていたんだ!」
水上は瀬戸を指差す。
「こいつの借金だって、俺が何とかしてやろうとした! 俺は仲間のために――」
「仲間のために、生きている人間を死んだことにしたんですか」
水上の声が止まった。
「仲間のために、受取人を自分へ変更させたんですか」
「それは……」
「仲間のために、負傷した本人を倉庫に隠した」
「違う!」
「違いません。ログと現場がそう言っています」
俺は端末を閉じた。
「仲間という言葉は、責任逃れの領収書にはなりません」
水上は、今度こそ何も言えなくなった。
俺は瀬戸を見る。
「瀬戸氏には、債務整理と生活再建支援の窓口を案内します。探索者災害共済の別制度も確認します」
瀬戸の目が揺れた。
「俺……まだ、やり直せるんですか」
「俺が決めることではありません」
俺は少し間を置いて言った。
「ですが、生きているなら、死んだことにするより選択肢はあります」
瀬戸は泣いた。
声を出さずに、ただ涙を流した。
ミミがそっと治癒魔法をかける。
その手は震えていなかった。
水上たちは、警備部に引き渡された。
瀬戸悠真は医療班へ搬送。
倉庫は証拠保全。
死亡保険金の支払いは当然、保留ではなく停止。
銀狼の牙の申請は、保険金詐欺未遂として処理されることになる。
庁舎へ戻る車の中で、ミミはしばらく無言だった。
窓の外の夜景を見ながら、ぽつりと言う。
「瀬戸さん、悪いことをしましたよね」
「はい」
「でも、死んでなくてよかったって、思ってしまいました」
「それでいいと思います」
ミミがこちらを見る。
「黒木さんも、そう思いますか」
「はい」
俺は答えた。
「保険金詐欺は許されません。死亡偽装も処分対象です」
「はい」
「それでも、生きている人間を死んだことにはさせません」
ミミは静かに頷いた。
「黒木さん」
「何ですか」
「今日のそれは、言い方ひどくなかったです」
「そうですか」
「はい。少しだけ、優しかったです」
「査定官としては問題ですね」
「問題じゃないと思います」
俺は返答に困った。
優しいと言われるのは、やはり苦手だ。
正しいと言われる方が、まだ処理しやすい。
だが、今回の件については、認めるべき事実がある。
「……ただ」
「ただ?」
「計算外の証拠を拾ってきた補助員の功績を認めないのは、査定ミスです」
ミミが目を瞬かせた。
「それ、私のことですか?」
「他に該当者はいません」
「黒木さん、本当に褒め方が遠回りですね」
「事実確認です」
「はい。ありがとうございます」
その声は、配信用の聖女の声ではなかった。
一人の回復役の声だった。
車が庁舎前に着く。
端末に、新しい通知が入った。
【査定処理更新】
【死亡保険金請求:停止】
【瀬戸悠真氏:医療支援・生活再建相談へ接続】
【銀狼の牙:保険金詐欺未遂として調査移行】
【救助信号発見者:御園ミミ】
ミミがその表示を見て、小さく息を呑んだ。
「私の名前……」
「記録されます」
「私、役に立てたんですね」
「はい」
俺は頷いた。
「今回、瀬戸氏を見つけたのはあなたです」
ミミは目を伏せた。
「……よかった」
翌日。
銀狼の牙の保険金詐欺未遂は、探索者界隈で大きな話題になった。
死んだはずの探索者が生きていた。
受取人は事故三日前にリーダーへ変更。
現場には偽装痕。
本人は監禁状態で発見。
当然、SNSも荒れた。
『また黒木か』
『死体なし死亡届、怖すぎ』
『ミミちゃんが救助サイン見つけたのすごい』
『銀狼の牙、完全アウトでは?』
『保険金詐欺で五千万はえぐい』
『生きてる人間を死んだことにはさせません、かっこよすぎ』
俺はコメント欄を見て、そっと閉じた。
褒められても胃が痛い。
炎上しても胃が痛い。
つまり、どちらにしても胃が痛い。
ミミが隣で書類を整理している。
彼女は少しだけ慣れてきたようで、証拠品ファイルに付箋を貼る手つきが丁寧だった。
「黒木さん」
「何ですか」
「次の案件です」
ミミが一枚の報告書を差し出す。
そこには、装備メーカーの名前が書かれていた。
探索者用防護ベスト。
安全基準適合品。
複数の新人探索者が、同じ箇所を貫かれて重傷。
メーカー側の説明。
『使用者の装着ミス』
俺は報告書を読み、胃薬の瓶に手を伸ばした。
「黒木さん?」
「次は企業案件です」
「企業案件だと、胃薬が増えるんですか?」
「個人より書類が厚くなります」
「なるほど……」
俺は報告書を閉じた。
個人の嘘は、声が大きい。
パーティの嘘は、口裏が揃う。
そして企業の嘘は、書類が揃いすぎる。
大企業ほど、隠蔽のコストを惜しまない。
綺麗な報告書。
整った検査結果。
責任の所在を曖昧にするための、よく磨かれた言葉。
そういうものが出てきた時ほど、俺の胃は重くなる。
保険金詐欺の次は、安全基準を満たしているはずの装備事故。
企業は言うだろう。
現場での使い方が悪かった。
探索者の自己責任だ。
こちらに過失はない。
いつものことだ。
だが、装備が本当に安全基準を満たしているなら、ログと現物に出る。
満たしていないなら。
請求書の宛先は、探索者ではない。
「行きましょう」
「はい」
ミミが立ち上がる。
俺は報告書の表紙に、赤ペンで一行書き込んだ。
『その装備、本当に安全基準を通っていますか?』
支払うべき相手を、間違えるな。
それが査定の第一原則だ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
第5話は、瀬戸悠真の救出と、銀狼の牙の死亡偽装・保険金詐欺未遂の回でした。
悪事は見逃せませんが、生きている人間を死んだことにはさせない。
今回は、黒木とミミの役割分担が少し形になった回でもあります。
次回は、装備メーカーの安全基準をめぐる企業案件に入ります。
個人の嘘は声が大きく、企業の嘘は書類が綺麗です。
探索者の装着ミスなのか、それとも企業側の安全偽装なのか。
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