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そのダンジョン事故、保険金は出ません。 〜元査定員の俺はログ鑑定で無謀な探索者の嘘を暴く〜  作者: 平八
第一章 支払うべき相手を間違えるな

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第10話 その総合判断に、被害者の傷は含まれていますか?

本庁の会議室は、前回よりも冷えていた。


 空調のせいではない。


 空気の温度が低い。


 出席者の配置も、前回とは少し違っていた。


 正面中央に、装備産業調整室長の久我。


 その隣に、本庁職員が二人。


 さらに、ミカドギア社の高宮慎一と、顧問弁護士の桐谷。


 俺、黒木司。


 御園ミミ。


 真鍋課長。


 机の上には、分厚い資料束。


 本庁側が用意したものだ。


 表紙にはこう書かれていた。


【ミカドギア社製防護ベスト事案に関する総合判断資料】


 総合判断。


 また便利な言葉が来た。


 俺は席に着く前に、端末を起動する。


【会議記録開始】

【案件:ミカドギア社製防護ベスト貫通事故】

【議題:本庁による総合判断説明】

【出席者:本庁装備産業調整室、事故査定課、ミカドギア社関係者】

【外部補強資料:持参済み】


 久我室長は、穏やかに微笑んでいた。


「黒木君。今日も記録から始めるのだね」


「事故査定に関わる会議ですので」


「分かった。構わない」


 構わない。


 そう言う人間ほど、本当は構っている。


 ただ、それを顔に出さないだけだ。


「昨日の照会文書は確認した」


 久我は、ゆっくり資料を開いた。


「君たち事故査定課の熱意は理解している。だが、本件は一企業の製品事故に留まらない。探索者装備の供給、価格、業界全体の信用、そして今後の安全基準見直しにも関わる」


「はい」


「だからこそ、本庁としては、総合的に判断する必要がある」


「総合判断ですね」


「そうだ」


 久我は頷いた。


「現時点で、ミカドギア社に明確な製造責任を認定するのは早計だ。もちろん、被害者救済は進める。しかし、求償候補として企業名を記載し続けることは、業界への影響が大きい」


 高宮は静かに座っている。


 表情は丁寧だが、昨日より口数が少ない。


 弁護士の桐谷が代わりに前へ出てくる構えだ。


 久我は続けた。


「よって、本庁としては以下を提案する」


 モニターに表示が出る。


【本庁提案】

一、被害者三名への仮払いは継続

二、事故原因については本庁主導で再調査

三、ミカドギア社への求償候補記載は一時凍結

四、外部資料については真正性確認まで参考扱い

五、公表は業界団体との協議後とする


 綺麗な提案だった。


 誰も見捨てていないように見える。


 誰も責めていないように見える。


 そして、誰の責任も確定させない。


 よくできた書類だ。


「黒木君」


「はい」


「これが大人の落としどころだ」


 俺は久我を見る。


「大人の落としどころ」


「そうだ。現場の怒りだけで動けば、制度は壊れる」


「制度を守るために、責任の所在を一時凍結するということですか」


「言い方は悪いが、そういう側面もある」


 ミミが隣で資料を握りしめた。


 手が、少し震えている。


 だが、顔は上げている。


 俺は端末に項目を追加した。


【本庁表現】

【責任の所在を一時凍結】

【理由:制度・業界への影響】

【査定上の注意:被害者側不利益の可能性】


 久我はそれを見て、薄く笑った。


「君は本当に何でも記録する」


「はい」


「では、これも記録しておきたまえ。本庁は被害者を見捨てるつもりはない」


「記録します」


 俺は入力した。


【本庁発言】

【被害者を見捨てるつもりはない】


 続けて、俺はモニターに別の資料を表示した。


「では、確認します」


「何をかな」


「その総合判断に、被害者の傷は含まれていますか」


 会議室が、静かになった。


 久我の笑顔が止まった。


 ミミが小さく息を呑む。


 真鍋課長は、何も言わずに腕を組んだ。


「黒木君」


 久我の声が、少しだけ低くなった。


「被害者救済は提案に含まれている」


「治療費の仮払いは含まれています」


「それで十分ではないと?」


「治療費だけが、被害者の傷ではありません」


 俺は資料を切り替えた。


 佐伯真人の母親が持参した購入資料。


 折り畳まれた外箱。


 説明書。


 レシート。


 講習動画。


【外部資料:佐伯家提供】

【購入時レシート】

【保証書】

【販促チラシ】

【装着講習動画】

【重要文言:初心者でも簡単装着/縫合部強化/浅層変異種対応】


 俺は講習動画を再生した。


 ミカドギア社の販売員が、笑顔で説明している。


『このモデルは縫い目の防護層が二重になっていますので、浅層の甲殻系モンスター相手なら十分耐えられます』


 映像を止める。


「販売時には、縫合部強化を売りにしています」


 次に、メーカー事故後見解。


【メーカー見解】

【装着不備による防護性能低下】

【使用者側のベルト固定不足の可能性】


「事故後は、使用者側の装着不備を主張しています」


 俺はさらに表示を重ねる。


【ログ鑑定】

【事故前装着確認:適正】

【被害箇所:右脇腹縫合部】

【破損箇所:右脇腹縫合部から背面接合部】

【防護魔力膜:縫合部で途切れ】

【魔力繊維密度:基準値比七二%】


「ログ上、装着不備は確認されていません」


 久我は黙っている。


 高宮が口を開きかけたが、桐谷が軽く手で制した。


 俺は続ける。


「佐伯真人さんの母親は、箱も説明書も捨てていませんでした」


 会議室の空気が、少し変わる。


「息子が家で何度もベルトを締める練習をしていたからです。不器用な子だから、命に関わることはちゃんとやると言っていた。その努力を知っているのは、母親だけだった」


 ミミが、膝の上で手を握りしめる。


「その母親が言いました」


 俺は記録を読み上げる。


『あの子のせいじゃないって、いつか誰かに言いたかったんです』


 誰も、すぐには話さなかった。


 紙袋の中の箱。


 ただの外箱。


 ただの説明書。


 ただのレシート。


 だが、それは母親にとって、息子の努力を守るための唯一の武器だった。


「久我室長」


「……何だね」


「治療費の仮払いは必要です。ですが、それだけでは『自分のせいかもしれない』と思わされた被害者の記録は戻りません」


 俺はモニターの表示を変える。


【販売時説明】

【初心者でも簡単装着】

【縫合部強化】

【浅層変異種対応】


【事故後説明】

【装着不備の可能性】

【使用環境の問題】

【メーカー責任は未確認】


「売る時は初心者でも大丈夫。事故が起きたら初心者の装着ミス。これを総合判断で凍結するなら、その判断には被害者の傷が含まれていません」


 桐谷弁護士が静かに言った。


「黒木査定官。感情的な話と法的責任は分けるべきです」


「分けています」


「今のは感情の話では?」


「いいえ」


 俺はレシートを表示した。


「購入記録です」


 説明書を表示した。


「製品説明です」


 講習動画を表示した。


「販売時説明です」


 装着ログを表示した。


「事故前確認です」


 治療記録を表示した。


「被害記録です」


 破損ベストを表示した。


「現物です」


 俺は桐谷を見る。


「感情だけでここまで揃いません」


 桐谷は黙った。


 高宮の手元で、また万年筆が小さく鳴った。


 久我は資料を見つめたまま、ゆっくり口を開いた。


「外部資料は、真正性の確認が必要だ」


「はい」


「レシートや動画が本物だとしても、それが製品不備の直接証拠になるわけではない」


「その通りです」


「では――」


「だから、複数の外部資料を組み合わせます」


 俺はモニターに、昨日作成した外部補強資料の一覧を表示した。


【外部補強資料一覧】

【佐伯家:購入時資料・講習動画】

【瀬戸悠真:中古市場流通記録・事故後回収疑い】

【浅井および初心者探索者コミュニティ:同一ロット不具合証言】

【被害者三名:治療記録・装着ログ・破損部位一致】

【事故査定課外部保全:内部告発資料・メタデータ・担当移管通知】


 続けて、モニターに資料を並べる。


 左上に、佐伯家の購入レシート。


 右上に、装着講習動画。


 中央に、事故品ベストの破損写真。


 その下に、被害者三名の治療記録。


 横に、中古市場のGL3-17A流通記録。


 探索者コミュニティの証言。


 内部告発資料。


 報告書メタデータ。


 散らばっていた欠片が、ひとつの線になっていく。


 モニター上で、資料がひとつずつ結ばれていく。


 佐伯家のレシートから、購入ロットGL3-17Aへ。


 講習動画から、縫合部強化という販売時説明へ。


 破損ベストの写真から、右脇腹縫合部へ。


 治療記録から、三人の傷の位置へ。


 中古市場の記録から、事故後の同一ロット回収疑いへ。


 内部告発資料から、Aライン納期優先の文字へ。


 別々の場所に残っていた資料が、一本の線になっていく。


 線の先にあったのは、ひとつだった。


 GL3-17A。


 右脇腹縫合部。


 装着不備ではなく、構造的な弱点。


【共通点】

【製品:ガーディアン・ライトⅢ】

【ロット:GL3-17A】

【弱点:右脇腹縫合部】

【メーカー説明:装着不備】

【外部資料上の矛盾:販売時の縫合部強化説明】

【事故後行動:中古市場からの回収疑い】

【内部資料:Aライン納期優先/Sライン試験体使用】


「ひとつひとつは、小さな資料です」


 俺は言った。


「レシート。動画。投稿。スクリーンショット。治療記録」


 久我は何も言わない。


「ですが、すべて同じ場所を指しています。GL3-17A、右脇腹縫合部、装着不備ではなく構造的な弱点」


 高宮が静かに言った。


「中古市場の記録は、弊社とは無関係な第三者業者の行動です」


「では、なぜ『メーカー都合で買取停止』と記載されていますか」


「確認が必要です」


「確認してください」


 高宮は黙る。


「また、同じ掲示板から事故後にGL3-17Aが一斉に削除されています。表向きの理由はブランド管理」


 俺は高宮を見る。


「安全検査ではなく、ブランド管理と説明するよう指示されています」


「その資料の真正性は――」


「確認中です」


 俺は遮った。


「ですが、事故後に市場から同一ロットが消えた事実は、業者側記録で確認できます」


 久我が初めて、少しだけ姿勢を変えた。


「業者側記録?」


「はい」


 俺は瀬戸が持ち込んだスクリーンショットに加えて、浅井たちが集めた探索者コミュニティの投稿時刻、業者ページのキャッシュ、購入者側の通知メールを表示した。


「本庁の権限で移動できたのは、庁内資料だけです」


 俺は言った。


「外に残った資料は、移動できませんでした」


 会議室の空気が、一段重くなった。


 桐谷弁護士が資料を見ながら、冷静に言う。


「黒木査定官。仮に製品に何らかの不備があったとしても、企業側の故意や認識まで直ちに示すものではありません」


「その点も確認します」


 俺は安全基準適合報告書のメタデータを表示した。


【提出報告書メタデータ】

【作成日時:事故後翌日 23:48】

【記載上の試験実施日:事故前二週間】

【編集者:法務渉外部共有端末】

【最終更新者:TAKAMIYA.S】


 高宮の表情が、今度こそ明確に変わった。


 笑顔が消える。


「このデータは、どこから」


「ミカドギア社提出資料のメタデータです」


「提出資料を勝手に解析したのですか」


「事故査定資料ですので」


 高宮の手元で、万年筆が鳴った。


 かちり。


 今までで、一番大きい音だった。


 彼の指が、黒い軸を強く握りしめている。


 爪の先が白くなるほどに。


 顔にはまだ笑顔が残っていた。


 だが、手元はもう、笑っていなかった。


 桐谷が言う。


「メタデータは、文書変換時に更新される場合があります」


「あります」


「では――」


「ただし、編集者が法務渉外部共有端末、最終更新者が高宮氏になっています」


 俺は高宮を見る。


「事故前二週間に実施済みの試験報告書を、事故後翌日に高宮氏が更新した理由を確認します」


 高宮はしばらく沈黙した。


 久我が静かに言う。


「高宮さん」


「……社内の体裁を整えただけです」


 声が、わずかに硬い。


「体裁」


「提出用に、古い報告書を整理した。それだけです」


「数値も整理しましたか」


「していません」


「では、事故品Aと試験体Sの密度差は、なぜ報告書にありませんか」


「試験体が代表サンプルだからです」


「代表サンプルが一般販売品を代表していない疑いがあります」


「それは技術部の範囲です」


 榎本主任は、今回この場にいない。


 高宮は責任の位置をずらそうとしている。


 よくある動きだ。


「では、技術部の生データを確認します」


 俺は内部告発資料を表示した。


【製造ライン生データ】

【GL3-17A】

【第二量産ライン】

【縫合部魔力繊維密度:基準値未達】

【注記:再検査推奨】

【承認コメント:納期優先。浅層用につき出荷可】

【法務渉外部確認:高宮】


 高宮は目を細めた。


「それは出所不明資料です」


「はい」


「正式な証拠ではありません」


「だから正式資料の提出を求めています」


「内部資料には機密が――」


「人の脇腹を貫いた装備の安全性より優先される機密ですか」


 高宮は黙った。


 久我が口を開く。


「黒木君、同じ言葉を何度も使うな」


「同じ逃げ方をされているので」


 真鍋課長が、隣で小さく咳払いした。


 止めるためではない。


 笑いかけたのをごまかすためだった。


 久我は、しばらく資料を見ていた。


 そして、ゆっくり言った。


「仮に、ミカドギア社側に調査すべき点があるとしても、本庁としては業界全体への影響を考えなければならない」


 戻ってきた。


 総合判断。


 大局。


 業界。


「安価な装備の供給が止まれば、新人探索者は装備を買えなくなる。結果として、より危険な状況に置かれる」


「安全基準を満たしていない装備が安く流通することも危険です」


「それは極論だ」


「三人が重傷です」


「全体から見れば、三件だ」


 会議室が、凍った。


 ミミの顔色が変わる。


 真鍋課長が、久我を見た。


 高宮ですら、一瞬だけ視線を逸らした。


 久我は、自分の言葉の重さに気づいたのだろう。


 すぐに言い直す。


「もちろん、軽視しているわけではない。だが、行政判断としては――」


「記録します」


 俺は端末に入力した。


【本庁発言】

【被害者三名の重傷について「全体から見れば、三件」と表現】

【直後に軽視否定】

【査定上の注意:被害規模の矮小化の可能性】


 久我の目が、初めて冷たくなった。


「黒木君」


「はい」


「その記録は、組織内の信頼関係を損なう」


「被害者三名の信頼は、すでに損なわれています」


「君は、自分が正しいと信じて疑わないタイプか」


「いいえ」


 俺は答えた。


「だから記録します」


 久我が黙る。


「俺の判断も、あなたの発言も、企業の説明も、被害者の資料も。正しいかどうかは、後から検証できる形にします」


 俺はモニターを見る。


 レシート。


 講習動画。


 治療記録。


 中古市場。


 内部告発。


 メタデータ。


「正義は語りません。記録が語ります」


 ミミが小さく息を吸った。


 久我は、しばらく俺を見ていた。


「……本庁としては、追加調査を認める」


 高宮が顔を上げた。


「久我室長」


「ただし、公表はまだだ」


 久我は続ける。


「ミカドギア社には、正式に製造ライン別生データ、出荷記録、市場回収の有無、事故後の報告書編集履歴を提出させる」


 桐谷が口を挟む。


「それは、弊社としても検討が――」


「検討ではない」


 久我の声が、初めてはっきり硬くなった。


「本庁照会だ」


 高宮の表情が固まる。


 久我は俺を見る。


「ただし、黒木君」


「はい」


「君の事故査定課は、正式には補助のままだ。主担当は本庁で変わらない」


「記録します」


「好きにしたまえ」


 俺は入力した。


【本庁判断】

【追加調査:認可】

【ミカドギア社への正式照会:製造ライン別生データ、出荷記録、市場回収、報告書編集履歴】

【事故査定課:補助扱い継続】

【査定継続余地:あり】


 これで勝ちではない。


 ただ、止まっていた調査が少し動いた。


 それだけだ。


 だが、被害者三人の傷は、総合判断の欄外から、ようやく資料の中央へ戻ってきた。


 会議が終わった後。


 廊下に出ると、ミミが大きく息を吐いた。


「……怖かったです」


「はい」


「でも、佐伯さんのお母さんの資料、出せてよかったです」


「はい」


「あの箱、ただの箱じゃなかったですね」


「はい」


「レシート一枚でも、誰かの無実を守れるんですね」


 俺は少しだけ考えた。


「レシート一枚でも、査定資料になります」


「黒木さんらしい言い方です」


「褒めていますか」


「はい」


 そう言われると、処理に困る。


 真鍋課長が後ろから歩いてくる。


「お前ら、そこで和むな。本番はここからだぞ」


「追加調査は通りました」


「通っただけだ。久我室長は本庁の面子を守る方向に切り替えた。ミカドギアを切るか、庁内の誰かを切るか、まだ分からん」


「はい」


「そして、お前は確実に嫌われた」


「それは査定項目にありません」


「あるんだよ、組織では」


「不適切な項目です」


「そういうところだ」


 課長はため息をついた。


 だが、その顔は昨日より少しだけ軽かった。


 その時だった。


 廊下の端から、若い本庁職員が近づいてきた。


 会議室で、久我の隣に座っていた職員の一人だ。


 彼は周囲を確認し、小さく頭を下げた。


「黒木査定官」


「はい」


「少しだけ、お時間よろしいでしょうか」


 真鍋課長が眉をひそめる。


「君は、装備産業調整室の……」


「相沢です」


 相沢と名乗った若い職員は、緊張した顔をしていた。


 手には、小さな記録媒体。


 旧式の魔力保存チップだ。


「本庁にも、消される前の記録を見た者がいます」


 ミミが息を呑む。


 俺は相沢を見る。


「何の記録ですか」


 相沢の手は震えていた。


 魔力保存チップを差し出す指先が、何度も止まりかける。


 それでも、彼は引っ込めなかった。


 この小さなチップを渡せば、自分の名前も、部署も、将来も無傷では済まない。


 それを分かっている手だった。


「ミカドギア社から、本庁装備産業調整室へ送られた事前相談記録です」


「事前相談」


「事故が起きる前です」


 真鍋課長の顔が変わった。


 俺は端末を起動する。


「内容は」


 相沢は、苦しそうに言った。


「GL3-17Aの縫合部密度不足について、ミカドギア社が本庁に相談しています」


 廊下の空気が止まった。


「本庁は、知っていた可能性があります」


 俺は記録媒体を見た。


 企業の嘘は、書類が綺麗だ。


 組織の嘘は、上から降ってくる。


 そして、消されたはずの記録は。


 別の誰かの手元に残っていた。


「相沢氏」


「はい」


「その記録、正式に預かります」


 相沢は小さく頷いた。


「お願いします。俺も……これ以上、知らなかったことにはできません」


 その声は、会議室で聞いたどの丁寧な言葉よりも、ずっと重かった。


 俺は保存チップを受け取った。


 胃が痛い。


 だが、今度の痛みは、少しだけ違った。


 請求書の宛先が、また一つ増えた音がした。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


第10話は、本庁での直接対決回でした。

「総合判断」という大きな言葉に、被害者の傷、レシート、講習動画、母親の想いをぶつける回でもあります。


ひとまず追加調査は動き出しました。

しかし、最後に本庁の若手職員・相沢が持ってきたのは、事故前の事前相談記録。


ミカドギアだけでなく、本庁はどこまで知っていたのか。

次回、さらに踏み込んでいきます。


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