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第7話 新たなる王の誕生。

ついに今日、答えが出る。


あの小学生が何者か───


一般的に、公衆浴場で保護者同伴が推奨されているのは、未就学児(6歳以下)までだ。


そのため、小学生が一人で利用することは可能だが、見かけることは、ほとんどない。


だからこそ、“彼”の存在は際立っていた。


他の利用者たちは、どこかに父親がいるんだろうくらいに思っている節があるが、僕は、彼が一人で来ていることを知っている。


ずっと、彼に注目していたからだ。


なぜか。


彼の所作が、王とまったく同じなのだ。


身長150cmにも満たないであろう彼が、腰を90度に曲げる必要なんてないのに、きちんと折り曲げて、サ室のテレビ前を通過する。


水風呂なんて、膝を曲げずとも半身が浸かっているのに、脱糞スタイルでゆっくりと沈んでいく。


すべてが、王の生き写しのようであり、王をそのまま小さくしたかのような存在で、否が応でも僕の目を奪う存在だった。


サウナにおいて小学生は“素人”。みんなで見守るべき存在だ。だが彼のサウマナランクは“熟練”をすでに超え、“玄人”に到達していた。


6-3-3制というのは良く出来たもので、6年間の小学校生活を終えると、子どもたちは急に大人になる。


しかしよく注視してみると、中学1年生になった途端大人になるのではなく、6年生のときにその兆候は現れ始めている。女子は身長がグンと伸び、男子は声が低くなる。


あの子はまさにそんな端境期にいる。おそらくは、小学6年生。


僕にとって一番の問題は、彼が何年生かということではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という点だった。


王のサウナマナーは一見やりすぎに見えて、どれも理に適っている。そのため、サ室や銭湯全体の平和を考えた結果、偶然、王と同じスタイルに行き着いたということは考えられるが───


怖いのは、彼が、王を手本としていた場合だ。


それはつまり、王を、王として認識していることになる。


その場合彼は、小学生にして“玄人”であり、“守護者”でもあるということになる。


そんなことが、果たしてあり得るのだろうか。


長きに渡る僕の疑問は、ついに今日、明らかになる。


いつものように、脱糞スタイルで水風呂に着水していく彼を眺めているときだった。


奥から王が入場してきたのだ。


彼が王と同席しているところを見るのは、初めてのこと。


もしあの子が、王を王として見ているなら、必ずや羨望の眼差しで王を見るはず。


今はまだ王の入場に気づいていないようだが───


僕は、彼の動向を注視し続けた。


サ室、水風呂、ととのい椅子、露天風呂、内風呂、洗い場、彼はとうとう一度も、王に目を向けなかった。


天然───


サウナマナーを意識することで、自然と王の所作に似通った。


小学生にして一人で公衆浴場を利用しにくるような子だ。親の教育が行き届いているに違いない。


しかし、行き届いた教育があるなら、一人で公衆浴場に向かわせるだろうか。ここはヤクザも出入りするような場所なのに。


放任主義───


あれしろこれしろと、指図せずとも子は勝手に育つもの。


しっかりした親の子は駄目になり、いい加減な親の子ほどしっかりする───そんな話を聞いたことがある。


確かに、過保護より放任の方が逞しく育つのかもしれない。


しかしそれなら、友達と来るときがあってもいいような気もするが、彼はいつも一人。まさか出口で彼女と合流してるというわけでもないだろう。


あるいは───


日本の離婚率は1970年の9.3%から、2020年に36.8%にまで上昇している、という記事を先日見たばかりだった僕は、あらぬ妄想を膨らませた。


子どもは勝手に育つと言っても、それは多くの大人が見守っているからだ。


僕が背負った“守護者”という称号。それは今、真の意味を帯びようとしている。


ここはヤクザも蠢く公衆浴場。危険はどこに潜んでいるか分からない。だからこそ、僕がいる時だけでも、彼を護る。


僕は守護者として、もう一段階上がった気がした。


彼はととのい椅子から立ち上がり、洗い場へ行って身体を流し始めた。


「そろそろ出るのかな」と思いながら行方を追うと、入口へ向かって歩き始めた彼は、ちょうどサ室から出てきた王とすれ違った。


もちろん王には目もくれず、そのまま入口へ向かっていく。


王もまた、表情を変えぬまま、水風呂へと進んでいった。


このあと僕は、衝撃のシーンを目の当たりにする。


水浴びをし、いつもの脱糞スタイルでゆっくりと着水していく王の背中に、彼は小さく、一礼をしたのだ───!


よく見ていないと気づかないほどの、それは、本当に小さな一礼だった。


僕は、彼を“王子”と呼ぶことにした。

次回「王、パンツを蹴る。」

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