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20、次の殺し


 神の下僕

 神の手足

 神の武具

 神の騎士


 様々な呼び名で知られる集団。

 何よりも神を想い、神を愛し、全てを神へ捧げた者たち。

 あらゆる異端を狩り続ける無敵の神聖術の使い手たちを、人々は『異端審問官』と呼んだ。



 ※※※※※※※※※



 クララ視点



『お疲れ様、クララ。君の勇姿はしかと見守っていたよ』



 何度も何度も見てきた。

 神は何処にでも居て、何処にも居ない。

 だから、こうして一方的に声を届ける事も容易いのだろう。

 なぜなら、何処にでも居るのだから。

 そして、姿が見えないのは何処にも居ないから。

 

 腹立たしい事この上ない。

 上からものを言う、なんてレベルじゃない。あの神は、こういう所が気に喰わないんだ。

 基本的に、コイツはすべての存在を見下している。

 あまりにも視点が高すぎる。

 だから、あまり好きではない。



『酷いね。僕は君たちを愛しているのに』



 …………



「そういう所が気に喰わないんだ」


『おやおや。別に心の中で言葉を並べてくれるだけで良いのに。祈りは僕に言葉を届けられる君は会話が好きだよねぇ』


「心を読まれるのが嫌いなだけ」



 七年も関わり合ったというのに、どうして学ばないのだろうか?

 思わず眉間にシワが寄ってしまう。

 プライバシーの侵害とか、そういうのが気持ち悪いって思われるとは思わないらしい。

 


『ごめんね? 七年ぽっちの短い付き合いなんだ。少しは許してくれよ』


「はあ……」



 本当に、七年前はこんな事になるとは思わなかった。

 この神の口車に乗って手下になって、七年も雑用を押し付けられる事になるとは。

 本当にくだらない。

 よくもまあ、これだけ人間に何十万年も入れ込めるものだ。

 その神の作業の中に、ボクがする雑用が含まれてる。

 


『ま、機嫌を直してくれよ。君の愛しのお姫様は死なせないと約束しよう。君は色々と頑張ってきたんだ。そこを汲んで、君の願いはちゃんと叶えるさ』


「! 言ったな?」


『勿論だとも。君が僕に協力する限り、約束は守るさ。だから、君が僕に協力してくれる理由を奪うことはしないよ』   



 神が言う約束の言葉に、つい反応して聞き返してしまう。

 だが、これは大きな成果だ。

 確かに軽い調子であるし、胡散臭いが、神は約束を絶対に守る。

 ()()()()()()なのだ。

 口約束とはいえ、人間のそれとはまったく本質が違う。

 

 宙を睨むが、何かが返ってくるような事はない。

 ただ、ボクが一人の時間が過ぎるだけだ。

 会話をしている感覚がしないから、本当に神との対話は好きではない。

 


『じゃ、君にはお姫様のためにメイド服でも着てもらおうかな?』


「…………」



 この茶化してくる感じも嫌いだ。

 仲のいい友人なら笑えたかもしれないが、相手が『親愛』などという概念の存在しない神だ。

 しかも、この神がしてきた事を考えれば煽っているようにしか思えない。

 弱みにつけ込んで脅されているのか、これは?

 アイリスの命は自分次第っていう意思表示か?


 自然と顔が強張る。

 すると、あいも変わらず軽快な口調で神は言う。

 


『冗談だよ。君のあの姿はもう十分見たからね』


「不快」


『ごめんって。それより、新しい神敵だ。詳細は近くの教会から通して、僕の送ったイメージを見てね。期待しているよ、異端審問官(僕の下僕)



 それ以降、神が何かを言ってくる事はない。

 ボクを見るための『目』を、他に移したのだろう。

 信徒か、枢機卿か、教王か。それともなければ、他の異端審問官か、もしくは異端そのものか。

 神は、指示を飛ばす事しかしようとしないろくでなしだ。

 きっと今も、ウキウキして人間が苦しんで頑張る様を見ているに違いない。

 本当に腹が立つ。  


 異端審問官。

 天におわす神に最も近い戦闘集団。

 神の手足としてその敵を殲滅するために集結した、信仰心の高い、現在六人の実力者から成る()である。

 大仰に神の手足だの、神の騎士だのと呼ばれているが、その仕事は主に殺しだ。神の邪魔をする敵を殺す。神に仇をなす可能性があるのなら、魔物も人間も、子供も老人も関係なく。

 つまりは、神専属の殺し屋。

 何も大したことはないし、これが凄いのなら褒めた奴の頭がおかしい。

 そんな最悪な集団に、数年前ボクとアレンは異端審問官に入隊した。



「腹が立つ」



 神の言葉は、容易にボクを神の足元まで運んだ。

 ムカつく事に、あの神は祈りを捧げ、力を与えた人間の事は全て把握しているのだ。ボクが何を求め、何を望むのかを抑えられている。

 だから、あの口車に乗るしかなかった。

 そうして、あれよあれよとここまで堕ちた。

 

 

「腹が立つ、ムカつく」



 聖国に行ったボクと、ボクに付いて来たアレンは、神の下僕に鍛えられた。その結果として、まあまあ使える技と神へのありがたいらしい信仰を教わる事になる。

 ムカつくのは、それで強くなれた事だ。

 技はそれなりに参考になり、より効率を求められた。信仰心は変わらず一切ないが、色々考えのヒントとなる情報は得られた。

 だが、忘れてはいない。アレンにもよく言っているが、胸に刻んでおかないといけない。

 ボクらは強くなったが、それと同時に人殺しになったのだ。



「イライラする」



 元より、覚悟はあった。いや、神聖術を使えるようになってから、ずっと確信していた。

 前提からして、間違いはなかった。

 ボクは何をしたとしてもアイリスを守りたいし、アイリスは力を持っているのだ。

 予知に近い予想が頭を支配する。

 

 いつか自分は人を殺すだろうという未来予測だ。

 

 別に、ボク自身は人を殺す事をどうとも思わない。

 老若男女、誰を殺しても平気でいられる自信がある。

 前世の倫理観の知識は持っているし、シスターからはそんな物騒な事は教わってない。

 だが、出来ないなんて事はないだろう。

 実際に、これまでやってこれた。

 アイリスのためなら、どんな泥でも被ることが出来ると思っていたから。

 

 

「……はあ。仕事、か」



 異端は殺す。老人でも女でも子ども、赤ん坊でも関係ない。それがボクの仕事だから。


 次は何人、殺すのだろうか?


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