アホが見る豚のケツ、でしょうか?
言い争いしている双子はバルコニーにそのまま置いてきた。
会場に戻ると龍帝国の皇太子シドに付きまとわれたので、こっそり脇腹に拳の制裁をお見舞いしてやった。
その後のルアティナの即位パーティーは順調に進んだ。
即位パーティーが終わった後、ルアティナは地下牢に訪れていた。
地下牢には罪を犯した者や魔王に歯向かった者が収拾される。大抵は罪を犯した者達なのだが、稀に魔王に歯向かう馬鹿な者もいる。
ルアティナの目の前の牢にいる男もその一人だ。
「随分の変わりようね」
「・・・女神?」
「私を覚えてないの?」
「女神だろう?」
男とルアティナの話が噛み合っていない。この男はザイラス王国の元王子アホォルだ。隣の牢にいるメス豚もとい
自称ヒロインに騙されルアティナにケンカを売ったお馬鹿さんである。
前に見たときはふくよかな体型だったが今は見間違えるほどスリムになっている。
顔周りもすっきりして元々の顔立ちに戻っていた。魔族に比べると劣るが、
人間からして見ればまあまあ端麗な顔だ。ルアティナを散々に振った男は何故かルアティナに恋をするかのような
目をしている。
「ルアティナは女神だったんだな」
「・・・ごめんなさい。わかる言葉で話してくださる?」
「今の今まで俺はあんな豚に騙され女神を蔑ろにしてたなんて」
「・・・・」
騙されるもなにもその豚のケツを追いかけ回していたのはどこの誰だ。これが世にも言うアホが見る豚のケツだろうか。
馬鹿だとは思っていたがここまで馬鹿とは救いようがない。と言うか女神とは何だ。
「ルアティナは俺を迎えに来てくれたんだろう?」
「・・・」
「俺のことが忘れられずに、こんなところまで」
「今さら何を言うかと思えば」
ーーどの口が言うんだか。
干からびていた男は今や水を得た魚のごとく輝いている。対してルアティナは黒く淀んだ双眸で押さえきれない魔力が溢れだしている。
口元に歪んだ笑みを浮かべて牢越しにいるアホォルのの顔を掴んだ。ルアティナの端麗な顔を近付けられたアホォルは顔を赤くしたがすぐ青ざめる。
ルアティナの表情が、見たことのないような歪んだ笑顔だったからだ。
「私をなんだと思っているのかしら?魔族だから傷つかない?魔族だから何をしても許される?」
「ル、ルア」
「汚らわしい、誰が呼ぶのを許した。幼い頃、貴方が私に言った言葉よ」
魔族だからと馬鹿にされても耐えてきた。どんなことを言われてもこの国のために母のために耐えてきたのにそれをすべて無駄にされた。ルアティナがザイラス王国で過ごした八年は一体何だったんだろうか。
「俺は、」
「そのままここにいるといいわ。貴方が愛してると言った女と一緒に」
「ま、待ってくれ!!ルアティナ!」
今どうしているのか確認しにきたルアティナは無駄足だったこと気付いた。
女の方はルアティナを見たときに激しく震えていたがアホォルは意味がわからない言葉を口走っていた。
ルアティナがまだ情があると勘違いして馬鹿な発言しかしない男に心底呆れる。このままここにいればいいのだ、愛した女と共に永遠に。所詮、アホはアホでしかない。
ーー殺さないなんて甘いかしら。
女王として即位したルアティナはこれまで以上に考えて生活しなければならないため、私情で何かを起こすのは避けたかった。
殺したいと騒ぐ魔族の血を、ザイラス王国で鍛えた鋼の精神で耐えた。それに母から受け継いだ聖女としての力にも邪魔される。誰かの血を流したくないと。
ルアティナは明日から女王としてザイラス王国で暮らしていくことになっている。
女王としての初仕事が控えているルアティナは悶々と一人闘っていた




