二人目のヒロインは悪役令嬢を落としたい
困惑している彼女はやはり綺麗だった。
艶やかな黒髪にルビーが埋め込まれたかのような双眸、そして内側から溢れ出す膨大な魔力。強者から当てられる
肌をさす魔力にレイチェルはゾクゾクした。
何もかもが完全な美を放つ、現魔王の
息女ルアティナは魔国ではもちろん大陸でその名を知らぬものはいない。
人を、魔族さえも超越した美しさは一度見たら忘れることはないだろう。
魔国レードナディルの筆頭公爵家であるバーデラ家にレイチェルは生を受けた。
バーデラ家長女と言われているが、レイチェルは実は正真正銘の男である。
魔国では双子の男同士、又は女同士は
忌み子と言われている。そのため双子が生まれた場合どちらかを別の異性に
置き換えるのだ。
レイチェルは兄であるレンドルよりも
男にしては可憐で小柄だったせいで女として生きることになった。
着たくもないドレスを着せられ、やりたくもない女としての学習をやらされ
散々な幼少期を過ごした。
一時期は精神的に病んで己の運命を悔やんだときもあったが、それを乗り越えることができたのは一人の女性のおかげだった。
レイチェルが彼女に初めて出会ったのは魔国の王宮に訪れたときだった。
双子の兄が王宮に上がることになって
魔王に挨拶をすることになったからだ。どちらとも八歳だったがレイチェルよりもレンドルのほうがずっと思考も、体格も大人だった。兄に手を引かれ王宮を歩いていたレイチェルは前方から来る少女に気がついた。
その少女を目にした時、レイチェルは一瞬呼吸を忘れた。
レイチェルとあまり年の変わらないはずの少女は大人びていて、魔王しか持ち得ない漆黒の髪を持っていた。
兄が少女に気がつくと、迷いのない動作で頭を垂れる。
そんな兄に手を思いきり引かれ慌ててレイチェルも頭を垂れた。
頭を垂れた二人に美しい漆黒の少女は
穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「久しいわねレンドル」
「ルアティナ王女殿下もご機嫌麗しゅうございます」
「堅苦しいのはいいわ、あら隣にいるのはレンドルの弟さんかしら?」
「弟ではなく妹です」
「・・・そうね。じゃあ、またね」
レンドルの言葉を理解したのか少女はレイチェルに憐れんだ視線を向けた。
憐れむというよりも悲しそうな表情をレイチェルに向け少女、ルアティナはそのまま踵を返しいなくなった。
ルアティナの真っ赤な双眸を見たときレイチェルの頭の中に不思議な映像が流れる。走馬灯のように流れる映像は
どこか見たことのあるものだ。突然の激しい頭痛に襲われてレイチェルは気を失った。
目が覚めたら自室のベットの上だった。目が覚めたレイチェルは前世の記憶を思い出していた。この世界が乙女ゲームの世界でありレイチェルがヒロイン、あの漆黒の少女が悪役令嬢であることに気がついた。
そもそもレイチェルは女ではなく男だ。前世も男でその乙女ゲームをしていたのは妹だった。
ーー男がヒロインとかあり得ない。気持ち悪っ!
目が覚めたレイチェルが思ったことはそれだった。生まれてこのかた運命を恨んだことはあるが神を恨んだことはない。だが、いらない記憶を授けた神にレイチェルは猛烈に恨んだ。
一番あり得ないのは悪役令嬢がルアティナであることだ。魔王の娘を断罪とか出来るわけがない。
自分が攻略者だったらレイチェルよりもルアティナを選んでいる。あんな美しい人を差し置いて他のやつらと恋愛とか人生の八割を損してるじゃないか。
他の乙女ゲームでもルアティナは悪役令嬢だった。どれだけ運営は魔王を怒らせたいんだろうか。
ちなみにレイチェルの前世である男はかなりのイケメンだった。今となってはもう昔の話で、今はただの女装男子だ。
男がヒロインにはなれないから乙女ゲームとかそんなのは放棄することにレイチェルは決めた。
前世の男が好きなのはヒロインではなく悪役令嬢だ。可憐な女より妖艶な女のほうが美しい。
なんと言うかあのお姉様な感じが堪らなく感じる。
今の今まで運命を恨んでいたが、美しいルアティナと同じ世界に生まれて良かったと思う。運命を恨んでる暇があったら美しいルアティナを見つめていたい。
ーーこうなったらルアティナをヒロインとして攻略してやる!他の攻略者に渡してたまるか!
こうして、二人目のヒロインは悪役令嬢であるルアティナをロックオンした。




