脳内ショートを起こしました
嬉しそうに胸元に顔をすり寄せるレイチェルに対しルアティナは真顔で考え込んでいた。
頬を赤く染め上げたレイチェルはまるで恋する乙女のような顔つきをしている。
脳内を覗こうかと思ったが見たら見たらで後悔しそうだからやめておこう。
と言うか女にしては力が強すぎだと思う。なんか体がミシミシいってるんだが、大丈夫だろうか。
ーー落ち着いてもらいましょう!
「レイチェル貴方の気持ちはわかったわ、とりあえず離して下さる?」
「・・・ですわ」
「え?」
「いやですわ、お姉様!」
「えぇ!?」
淑女にあるまじき大声を上げてしまったが許して欲しい。人気のないバルコニーだから多少声を上げても大丈夫だが、ルアティナの体は大丈夫ではない。そもそもここのバルコニーは男女の、所謂いちゃいちゃ場だ。
間違っても女同士のいちゃいちゃをする場所ではない、筈だ。
だが、改めて見るとゲームとやらのヒロインは可愛らしい。自称ヒロインもといミリーはアバズレで見た目もそこまで良くないと思っていたがレイチェルは見た目は美少女で剣の腕もたつ。
魔族特有の赤目と白い肌、珍しい空色の髪は撫でたくなるくらいさらさらしている。十人中十人が見ても可愛いというだろう。
先ほどの話からすると乙女ゲームの主人公は男を落として恋愛をするだとか。そう、男だ。
それなのに、レイチェルが決めた相手がルアティナだと聞いた気がする。ルアティナは男ではなく女だ。
ルアティナはそこらの馬鹿よりも断然強いし顔は中性的で整っているが、ルアティナの体は女性的魅力に道溢れているから男には見えない。頑張ればサラシを巻いて男装はできるとは思うけど。
「お姉様、大好きです!」
「そ、そうなのね、ありがとう」
「はい!」
ーーそうじゃなくて離れて欲しいの。
ルアティナは無言の圧力をかけるが、レイチェルには無効だった。ルアティナが力を込めて巻き付いている腕を離そうとしてもびくともしない。
本当に女なのか疑わしい筋力だ。
こんな時にいつも隣にいるジャスパー
は遅れてくる。ルアティナが地面に沈めたせいだが、それは置いておこう。
はじめての女からの告白にルアティナの脳内はショートを起こし始める。
どうするかとルアティナがもんもんと考え込んでいた時に鋭い声がバルコニーに響いた。
「レイチェル、なんやってるんだ!」
「あら、馬鹿レン、じゃなくてお兄さまどうかした?」
「このじゃじゃ馬がっ」
「なーんのことでしょう?」
突然現れた男がレイチェルを厳しい声で諭した。男の声で思わずパッと離れたレイチェルを睨む男は見覚えがある。レイチェルの双子の兄であるレンドル、ルアティナの護衛騎士だ。
レンドルはルアティナと共に会場に入ったが途中席を外した。
席を外していたレンドルはルアティナが会場にいないことに気付いて来てくれたのだ。レイチェルに似た空色の髪を持つレンドルは顔も女みたいに可愛らしい。だが、その可愛らしい顔を裏切る非情な一面を持っている。ザイラス王国のお馬鹿王子を処罰しているのはレンドルだ。永遠の痛みと苦しみを魔法で与え続けながら物理的に痛め付け死ぬ一歩手前になったら回復薬を与えてまた痛みと苦しみを与えるというループを今もしているらしい。
宰相バアル同様怒らしてはいけないトップスリーに入っている。
「ルアティナ様、なにもされてませんか?こいつに」
「えぇ、大丈夫よ」
「馬鹿レンの癖に」
「なんか言った?」
「なによ、殺る気?」
ルアティナにはこれでもかと言うぐらい甘々しい声で話していたのにレンドルに対してはドスがきいた声で返している。それはレンドルも同様だ。似たような言い合いをしている瓜二つの双子にルアティナは思った。
「お二人は仲良しなのね」
「「どこが?!」」
ルアティナの言葉に双子は言い返すタイミングまで揃っていた。
揃ったことに気づいた二人はお互い顔フンッとそらした。
ーーまた、見事に揃っているわ。
ちなみに怒らせてはいけない一位はバアル、二位はこれから登場します。三位はレンドルです。
ルアティナが切れたことはまだありません!




