第六話 クエストその壱
昨夜投稿忘れちゃいまいたのでこの時間に。お昼も投稿しますのでよろしくお願いします。
危険な獣がいるかもしれない。村人からの討伐依頼にアガルタ親子は挑みます。
「用意はいいか? 装備と持ち物の再点検をしろ」
「理解ってるよ、もう」
「あのなあ、何事も慣れてきた頃が危ういんだぞ」
ハイハイとばかりに、アガルタは装備以外に背嚢の中身を点検し始めました。父親と共に狩りに出かけるようになって二年ほどです。時には数日かかる場合もあり、準備はとても重要なことでした。
「ねえ、親父。何が出たの?」
「ジーンからは熊じゃないかと聞いた。二つ向こうのカンデ山の渓谷沿いだそうだ。遠くで大きな唸り声を聞いたし、木々に爪痕が残っていたらしい。まだ、村には遠いが近づくと厄介だからな」
「え~、またでかいの。この前の虫みたいな魔獣だって苦労したのに」
「そう言うなよ」
「熊は、実際に見たこともあるけど、意外と大人しいんじゃないの」
「それは、わからないさ。直ぐに逃げてくれれば儲けもの。でも、人を襲った凶暴な個体もいる。それに倒す事となれば素材として報酬も良い。何と言っても熊の胆は高いぞ~」
「親父、銭勘定でニヤけてるよ」
ダガのゆるんだ頬を軽くつねって立ち上がります。
「さて行きますか。これも世のため人の為っと」
アガルタはセミミドルの両刃剣を腰に帯剣し、その柄を強く握り締めました。
村を出て山間を早足で駆ける二人。先頭のダガに付かず離れずアガルタが続きます。目撃情報のあった渓谷を目指し獣道を進みますが、生い茂る草木がその足を阻むこともしばしばで、ダガは大振りなナタで道を開いて行きました。
彼の腰には愛用のミドルソードが揺れ、背負う盾と防具の金具が重なりカチャカチャと音を放つと、木漏れ日の光がそれに映り込んでいます。
森の地面は数日前の雨のせいかじっとりと濡れ、日当たりの悪さや夏の気温で湿度は高く、駆ける二人の額には大粒の汗が滲んでいます。
「暑いね。日陰だっていうのに」
「同じ場所だって、からっとしている時もあればこんな時もある。足元は戦闘時には特に重要だし、剣を振るえる空間もきちんと把握しろよ」
「わかってるって、耳にタコができてるもん」
「それに遮蔽物となるモノの位置の確認を忘れるな。空の様子にも気をはらえ、天候を予測しろよ」
「はいはい」
ちらっと、アガルタは木々の隙間から上空へ一瞬目をやりました。夏雲が広がり、天候の崩れはなさそうです。空高く遥か上空に小さな影をみつけましたが「鳥か」と判断し、すぐに目線を前方へ戻しました。
足には膝丈のロングブーツを履いています。このような自然の中では、毒を持つヘビや害虫に襲われる可能性があり、絡みつくツタや草木で傷を追うリスクを減少させるためです。
一つ山の峰を越え、目指す山間に入ったところで小休止。水筒を取り出し水分と小粒の飴を口に含みました。岩塩や薬草をもとに練り上げたものです。体に対して失われた成分を補給するケアも知識の賜物です。
「この先は、沢が多くて足元がさらに悪くなる。しかも常に湿ってやがるから、頭上からヒルも落ちてくるだろう。食いつかれると厄介だからフードをかぶるようにな」
「これすると、余計に暑いんだよね」
「しょうがないだろ。それと戦闘の際にはいつも通り、俺がタンクとして前にでる。お前は遊撃だ」
「了解」
ダガが前衛で守りと攻めの要、アガルタは後衛で敵の隙を狙う布陣です。
二人は上半身をすっぽりと覆う狩衣のフード部分で、頭部を覆い再び駆け出しました。
木々の合間をぬい、沢の岩場を幾つか超えると、まもなく目的地。ダガは豪快に走破し、アガルタは柔軟さと敏捷性を活かして父を追います。
「変じゃない?」
「わかるか」
「うん、動物たちの気配もないし、なにか嫌な感じ」
「これは、ちょっとあれかもな……」
普段なら小動物を見かける豊かな山間ですが、現在それらが全く無いのです。
『歩け』とダガがハンドアクションを起こしました。二人のハンドサインの種類が多いのですが、必要とあらば単語一つ一つを示す事も可能で高度な会話も行えます。
まだ獲物と遭遇はしていませんが、音を立てこちらの居所を知らせるのは愚の骨頂。走破の速度を歩みへと変えたようです。フードの上にヒルが、ポトッポトッと落ちてきて手でさっと払い除けてかぶり直しました。首筋には汗が流れています。
ザーザーと流れる水音や、木々の葉が風に揺れる風景に心動かすこと無く、耳と目を研ぎ澄まし、渓谷の木々を隠れみのとして、深く分け入ると唐突にダガが手を上げました。
―――止まれか……。んっ。臭い……。これは血の臭いだ。
小さい頃から狩った獲物の処理を、泣きながら手伝っていたアガルタは、それを嗅ぎ分けられるのです。鼻につくすえた内臓の臭い、流れ出た血の臭いを。
渓谷の下流より登ってきているので、風は山上から吹降りてきます。風に乗ってもたらされたそれは生き物の血。どこか生臭さがあり、新鮮では無いこともわかりました。
ダガの手が頭上に伸ばす合図とともに、アガルタは手近の木に登り始めます。普段の山遊びで培っている彼女は、枝を利用して大きな木へ乗り移りながら幹のてっぺんをやすやすと目指すのです。その間、ダガは茂みに潜み、周囲の様子を伺っていました。
高い所に陣取ったアガルタは目を凝らします。彼女は視力がとても良く、夜目も効くことで斥候としても役立ち、デュオの相方として父親を補助するのです。
―――ん~どこだ。どこだ、……見つけた。えっ!? 本当に?
ゴクリと喉を鳴らすと、スルスルとダガの下へ降りて行き、脇に擦り寄りました。
「見つけたよ、沢沿いに登って四百メートぐらいの大きな岩のあたりに。ちょっと信じられないけど、大きな熊が倒れているだけで、周囲には何もいないようだし」
「熊か? 本当か」
「見間違うわけないじゃん」
「他には?」
「見たところ首がひん曲がって、腹わたが引きずり出されていたよ。見るからに嫌な感じ……」
生育の良い大型の熊が、倒されているとなれば、それ以上の存在が近くに居る。傍に行き、見聞すれば詳しい事が判る可能性はありますが、迂闊に目立つ事を避けなければならない状況となり、クエストの困難さを肌で感じるのでした。
「親父、どうすんのさ」
「あの死体は、罠の可能性すらある。殺した奴が狡猾ならそうするだろう」
「もしかして魔獣とか?」
「判らんが、餌として目立つ所に置きっぱなしが妥当な線だろう。しかし、正体やその理由がわからないのは困ったな」
魔獣らは、他の獣達と比べ知能が高い事が知られています。うっかり気づかずに近づくと潜んでいる魔獣に襲われ防戦もままならず、パーティが全滅することもあり得るのです。
「このままじゃ、埒が明かないし日も暮れてしまうよ」
「敵の姿が見えない。打って出るのは標的にされる可能性が高いな」
「もお、帰りたい気分かも」
「無駄口はいらん。大局を見あやまるなよ」
「勿論わかってる。このままにはしておけない……っよね」
「そうだ、かなり強力な個体と考えておいた方が良いだろう。もし、それが村に侵入でもしたらだ」
村人に甚大な危害が加えられる事になるだろうと二人は推測していました。
「親父、私はやるよ」
「ああっ」
親子の意気は、ばっちりです。
メート(距離単位)=メートルと同じ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
アガルタが木に登り偵察するイラストはどうだったですか?
小説とは直接関係ありませんけど、楽しめてもらえれば嬉しいですね。




