第十六話 親子対決
新しい剣を貰ったアガルタに、ダガは提案をします。
アガルタが自分を怪訝そうにのぞき込んだり、貰った剣を構えたりと落ち着かない様子だなと感じたダガは提案をしました。
「どうだ、そろそろ陽も落ちた頃だろう。外に出て試してみるか?」
「もちろんだよ、この剣を振ってみたい。……それと、お願いがあるの」
「なんだ、改まって。言ってみろ」
もじもじしながらアガルタは願いを口にします。
「構えて欲しいんだ、親父の騎士時代の姿が見たいの。できれば全装備で」
「……こんな機会もそうはないか。いいだろう、見せてやろう」
ダガはそう言うと、黙って先ほどの盾や魔剣、体に取り付ける鎧やマントにそれらを固定する革製のベルト類を持ち、階段を登ると居間で椅子に座り装備を装着します。その間にアガルタは庭に出て篝火を起こし、自らも準備を整えました。
「ほんとになんだこれ、帯剣して触れているだけで安心感まであるなんて」
「いい道具ってのはな、そういうことなんだよ」家から出てきたダガが答えました。
その姿は全身鎧にマントを纏い、右腰にショートソード、左腕には大きな盾。右肩に例の魔剣を背負っていました。白いマントの中央には王家の紋章が刺繍され、騎士団の正規兵の装備だと判ります。ところどころが裂けたり変色しており、実践に用いられた事を物語っています。
「本当に騎士だったんだね」
「少しは見直したか?」
ヘルムを開いたままでしたから、ダガの表情を見る事が出来ました。
「もしかして、少しニヤついてるの? 親父にしては珍しいこともあるもんだね」
「うるさいぞお前は、では構えてみるかな」
アガルタの指摘にヘルムの面具を閉じ、重心を下げ盾を前方に構えました。
―――やばっ、視線が消えて表情も不明だとこんなに違うなんて。しかも威圧感が半端ない!
「どうした?」
「驚いたよ。全身鎧の構えがこんなに凄いなんて」
「あたりまえだろう、これは身を守るだけじゃなく、敵を殺すための道具だからな」
「そうよね」
「いいか、村を出れば敵が獣とは限らない。人間も敵となる事を忘れるな」
「そうだね。なるべくなら、そうならないと良いんだけど」
アガルタはゴクリと喉を鳴らすと、確かにそうかもしれないなと父親の言葉を噛みしめました。私は人に向けて刃を振る事ができるのだろうかと。
ヘルムの下から漏れ出る声はドスが効き、不気味さまで感じます。何を考えているのか判らない相手はこんなにも違うのかとアガルタは思い知りました。
「では、かかってこいアガ。少し稽古を付けてやろう」
「うん……」
ダガに相対するアガルタ。普段も同様に対戦形式は取り入れていますが、今夜は稽古を離れての対人戦でした。
―――隙が無い。どうしろというんだ。盾に身をかがめられて、露出部分がほとんど無いじゃないか。こんなに凄かったんだ親父は。
―――自分が親父より勝るのは早さだから一気に駆け寄って……いや駄目だ。その後どうする? あの盾をどう処理するんだよ、もう!
―――でも、なにか感じる。心の奥底がワクワクするんだ。身震いしていても多分楽しいんだな私は。
じりじりと正眼の構えで距離を詰めるアガルタでした。必死に攻略法を考え、ダガは娘がどう対処してくるのか思いを巡らします。
「どうした来ないのか」そう言うと腰のショートソードを右手で引き抜き、後方に構えました。
「更にヤバそうだね、突っ込めばどこからそれが突き出てくることやら判らない」
「これが、実践だぞ。相手に読ませない事も戦略の一つだからな」
「じゃあ、こちらから行くぞ!」
ダガはそう言い放つと、一気に前進。前方に構えた盾で守りながらも圧倒する勢いです。
―――右だ、盾を構えた左半身から剣の攻めはない!
距離を詰められたアガルタは、体を右方向へ瞬時に移動。ダガの持つ盾を利用して、その視界から逃れようとしました。
―――ぬっ! そうきたか。死角への判断は良いが、予定通りだ!
百戦錬磨の騎士であるダガは、当初より娘の行動を読んでいます。盾を主体にした戦術では、敵の剣をいなし打ち込まれたその後の僅かな隙に返す刀を打ち込むことが本道。さらにダガが装備する盾は巨大で通常の二倍はあるため、鉄壁の守りを発揮するのです。
体を左方向へと回転させ、アガルタを追い攻撃を防ぐ算段です。それを横目に確認したアガルタは更に態勢を低くし全力で視界から逃れようとします。
―――早いな、小柄な体が更に利を得ているのか。
元来、盾は守りの戦法。自ら攻撃に出るには、重装備のため機敏に動けない不利があります。もちろんそれを承知でアガルタに詰め寄った訳ですが、暗がりを素早く動く彼女を追いきれない。
―――ちっ!
盾の死角に潜んだアガルタは、ダガのひねった姿勢を更に崩すことを狙っていました。
―――盾そのものは破壊できないし、でもその防御を無効化しなければ勝ち目はない。更にフルメイル相手じゃ、刃も安々とは届かない。ならば姿勢を崩し、それを契機に突破をするしかない!
片手を地に着いたアガルタはダガの死角から頭を下げると、大きく弧を描くように足でを盾を蹴り上げました。本来なら敵の頭部を狙う必殺の一撃ですが露わになっていない今は、あくまで姿勢をくず為にです。
―――くっ!
鈍い音と共に蹴りを盾に受けましたが、ダガは一切ひるみません。小癪な事をと思うのですが、真っ向から迫ってきたその行動を内心喜んでいます。
蹴りを放つと同時に、アクロバティックに体を回転させアガルタは距離を取りました。
父親の微動だにしない様子を観察し、肩をすくめました。
「やっぱり、この程度じゃ無理。足を払おうかとも思ったけどそれも怖くてさ」
「当然だな、重装備のフルメイルには安々とは通じないぞ」
「どうすれば良いのよ? まったく」
「そうだな、重量物でぶった叩くか、ひたすらランスで突きまくるか。背後に回り鎧の隙間から剣を差し込むかかな」
「親父相手に? 背後を取るなんて難しすぎるよ」
「当たり前だろ、今はまだ無理だ。でもいずれはな」
父親の言葉に深い息をし、一連の動作を頭で反復しながら彼女は静かに口にしました。
「でもいい経験になったよ。一流の騎士様と対峙できたことは忘れないから」
「今のお前は俺よりも弱い、もっと精進するんだ。それと、これから村を出るが、今夜のよう目の前には今までとは違う敵が現れる事になる」
「う、うん」
「そうだ、獣や魔獣どもではない人族だ。何らかの理由で敵意を抱き、こちらを襲ってくる事もあるだろう。万が一の際には戦闘で相手を斬らねばならない。できるか?」
「どうしても、そうしなきゃならない時は……」
「お前なら、その辺の悪党たちや多少の腕利きでも圧倒できるはずだ。ただな、人間を殺し命を奪う事について、お前はまだなにも理解できていないし、斬り捨てた相手が血に染まり阿鼻叫喚の嗚咽の姿をまだ目にも耳にもしてもいない」
「それは……」ダガの鋭い眼光にアガルタはゴクリと喉を鳴らしました。
「例え話として聞け。お前の知り合いが襲ってきたらどうする? 制圧して止めをさそうとした時に命乞いをしてきたらどうする? 躊躇し許しを与えて禍根を残せば、再び襲ってくるかもしれないぞ」
アガルタを追い詰めるようにダガは問います。
「わ、わかんないよ。そんなのその時にならないと!」
「いいか、この世界は弱者に優しくない。生き延びたものが勝者であり、正義を語り、世の中を動かし、歴史を紡いできた。この王国にも法はあるが国の権力で全てが上手くいく事も無いし、死ねばそこで終わりだ」
「……じゃあ、その時は何をどうすればいいのよ」
「その答えは見分を広め、知識を増やし、正義とは言わないが何が正しい事なのか自分で探せ。村の外に広がるこの広い世界でな」
「その為に私を学院へやるの?」
「ああっ、その第一歩だ」
父親の真剣な言葉に、ずっと思っていた事を口にしました。
「聞いてみたかったんだけど、親父は私にどうなって欲しいの? 剣士としてこれからもやっていけとかなの?」
「いや、それは……。お前の人生だ、お前の好きにすればいい。剣を握り続けるも良し、置いても構わない。ただな、ここまで精進し少なからず村の為にもなってきた。努力してきた自分を誇っても良いんだぞアガ。後輩もできた事だしな」
「アルトのことね。あいつもこれから鍛えられるのね」
「まあ、なんとかなるだろう。あのやる気は本物だと思うしな」
「ふ~ん、前途多難なことだけど」
クスクスと笑うとダガの顔も緩みました。
「じゃあ、もう一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「その背中のロングソード。なんなのそれは? 魔剣と言ったよね」
「話そうかコイツについてを」
そう言うと肩の剣に目を向けダガは語り始めました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回、魔剣。




