第十五話 装備
冒険者学院への出発を目の前にした日、父親に呼ばれたアガルタ。案内された場所には在ったものは。
お~い、ちょっとこっちにおいで」
「なに? どうしたの」
ダガが娘のアガルタを呼んでいます。アルトの入門試験が終わってから数日が過ぎていました。
「もうすぐ出発だから、お前に渡しておきたいものがあってな」
「もしかして、可愛い服とかかな? だったら嬉しい!」
「こんな片田舎で手に入るかよ。んっ、まっ、それはカンネに着いたら考えてやる」
「約束だよ、ああん、素敵な街デビュー。楽しみ」
ダガは、にやけている娘に苦笑いしながら彼女を自室へといざないます。
「うえ、相変わらず汚い部屋。もうちっとは片づけてよね」
「うるさいな、男の部屋ってこんなもんなの、いいからそこの角を持て」
指さされたのはベッド。下には大きめのカーペットが敷かれています。二人で上下を抱えて動かすと、ダガはそのカーペットも捲りました。
「なにこれ……、こんなの知らないよ」
「そりゃそうだ、教えてないしな」
アガルタの目には床下への出入り口と思われる戸が設けられていました。
「地下室? その入り口ってわけ」
「察しが良いな、さあ着いて来い」
戸をずらすと簡素な板張りの階段が見え、ダガから降りてゆくと、その後をしげしげと下を見渡しながらアガルタが続きます。地面を掘ったにしては壁に石積みがされ、湿気も少なくむっとした感じはしません。
ダガがランプに火打石で灯りを付けると、そこは大人一人が立てる高さがあり、広さはダガの寝室丸ごと思われ、壁にはいくつか棚もしつらえた整った地下倉庫。
「よくこんなの作ったものね、親父の部屋より片付いてるし、それにあれは……」
「正面のあれか? そいつは俺が騎士団にいた頃、愛用していた盾だ」
布に包まれてはいましたが、はだけたところから鈍い金属の光を放つ大きな盾が床から壁に立てかけられていました。自分の肩ほどまであるそれに近寄り、布を捲ると表面には装飾が施されています。
「この文様……これはなんなの」
「ニルス王家の紋章さ。特注品でな、コイツの防御力はなかなかだぞ」
「ふ~ん、これが」
さらに周りには重装甲の全身鎧と思われる物や様々な剣や武具と分かる品々が並んでいます。それらもしげしげとそれを見つめるアガルタの頭の中は考え事でいっぱいでした。
―――親父は本当に騎士団の一員だったんだな。でもこんなところに隠してあったなんて……。しかもこれらで、ドラゴンと戦った?
ダガを振り返り父親の顔を見ましたが、穏やかそうにしている表情に気づき、それまでは色々と聞いてみたい事もありましたが、それには触れない質問をしました。
「私に渡したいモノって何?」
「こいつだ」
ダガはひと振りの剣を手に取ります。まかれていた布を剥ぐと現れたのは、見事な鞘に納められたミドルソード。現在アガルタが使用しているものより少し長めです。柄の部分や色々な箇所に装飾も施されており、アガルタの目にもこれはおいそれと手にできる代物ではないぞと感じる逸品です。
「ほらっ」と手渡され手にしてみると重量感とともに自分の手に不思議な感覚を覚えました。
「きれい……、なにこの剣の鞘。すごい深みのある青……それに複雑な縞模様まで」
「そうだな……」
アガルタは剣を包む鞘の特異な仕上がりや、手に伝わるその触感に引き込まれており、その様子をダガはそれ以上を口にせず黙って見守っています。
「渡したいモノってこれ? 貰っていいの」
「ああっ」
「本当に⁉」
「何度も言わせるなよ、そいつはお前のものだ。大切にしろよ」
「やったあ~!」
「道具、特に身にまとう武具は、使用者の一部であり大切に扱えば信頼という形で返してくれるものだ。意志でも宿ったかのようにな」
「うんうん」
手にした新しいひと振りの剣。ダガが以前より娘の為にと用意していた逸品です。名工が丹精込めてこしらえたその刃。抜けばその切れ味は鋭く、敵を穿つことでしょう。
アガルタは嬉々としていましたが、ダガが立てかけてあった長いモノを手に取り、丁寧にくるまれた布を外すその様子を後ろから見ていて思わず声を上げました。
それは剣としてはかなり長めでしたが、放つ雰囲気が異質と感じたからです。
「なに、そのロングソードは……」
「俺の愛用品ってヤツだな」
「……騎士の頃に使っていた?」
ダガは柄をギュッと握り締め、その感触を味わうとアガルタを振り返りこう答えました。
「冒険者の頃からだよ。ま、こいつは特別過ぎて俺にもうまくは扱えないが」
「どういうこと?」
「しいて言えば……魔剣なのさ」
ダガが口にした魔剣の一言。アガルタには上手く理解できない存在でしたが、子どもの頃に読んだおとぎ話には、何度かそんな武器が登場したのを思い出し、特異な効力を発揮して巨大な敵をも打ち砕くモノ。
どうして、そんな途方もない夢物語の剣が目の前に実在しているのか。
私の父親は一体何者なんだと、また考えずにはいられませんでした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
次回、親子対決。お楽しみに。




