第十一話 入門試験
家に帰ってきた父と幼馴染。剣士の修行入りについて一つの課題が。
「あ~、そうか、お前が冒険者学院の件を話したのか」
「そうだよ、レリースが私の事を心配てくれてさ」
「僕から見ても二人は仲が良い姉妹みたいなもんだからね。あはは」
「てへっ、恥ずかしい」
女子会の顛末を聞き、苦笑するダガとアルトでした。
それからアガルタは部屋で身を整え、レリースが料理の腕を振るいます。簡単ながらも心のこもった品に舌鼓をうち、和気あいあいと食事を済ませるとダガが口を開きました。
「アルト君、先ほどご両親の承諾は貰った。でも、それだけでは駄目な事も話したよね?」
「はい、覚えています。僕に適正があるかどうかという事でした」
「んっ、そうだ。剣士を目指すとして、ある程度以上の筋力や持久力、俊敏さや判断力、それらの素質がないと鍛える事にも耐えられないってことだ」
もぐもぐと食事を摂っていたアガルタが、手を止めてチラッと二人を見ました。
「へー、厳しいのね」
「当り前だろう、彼の意志は固そうだから、素養を見極めもせずに訓練して結果が伴わないと、色々と無駄になってしまうだろう。それは避けたいのさ」
「アルトならきっと頑張れると思うわ」レリースだけは興奮気味です。
「そんな訳で、これからアルト君の弟子入り試験を行う」
「「「えっえ⁉」」」
「なに、彼の色んな素養を垣間見るのに、手っ取り早い方法を思いついてな」
ダガの話にう~んと、口を尖らせたアガルタが問いかけます
「剣を振らせたりはしないの?」
「それは、基礎訓練が終わってからだよ。お前にも直ぐには握らせなかったろう。うっかり手を滑らせて、自分を傷つけでもされてはご両親にも申し訳ないからな」
「娘には鬼なのにさ、他人には優しいのね」
「まあそう言うなよ、ははは」
親子の会話を傍で神妙な面持ちで聞くアルトとレリース。剣士になるとは漠然としたことでしたが、大変なんだと改めて感じているようです。
「そこで、お前に手伝ってもらいたい、なにせ兄弟子いや姉弟子? という関係になるんだからな、アガの胸を貸してやれよ」
「え~、胸なんて言わないでよ、なんか嫌だな私。アルトもそうじゃない?」
父親の提案に両手で胸を押さえたアガルタでしたが、アルトの頭に先ほどの女子二人が絡んでいた様子が浮かんでいました。
―――胸って……、テーブルにぽよんと今まで見た事のない大きなのが乗っかていたような……。
それをぼんやりと思い出したことで、頬を紅潮させながらも答えます。
「頼むよアガ、いやアガルタさん!」
「いやいや、そういうの止めてくれる。顔が赤いよ、もう変だってば」
突如、幼馴染の間柄に色んな変化が訪れると、そこには戸惑いが溢れています。食休みも終わり、ダガの声掛けで全員が庭に出ると短めのロープを取り出しました。
「じゃあ、始めるかな」
「ダガさん、それで一体何をするのですか?」
「私は悪い予感しかしないけどね」
皆、ダガの様子に不安そうでしたが、ニヤッと笑いこう答えます。
「なに簡単な事だよ。鬼ごっこだ」
三人の幼馴染は、色んな反応をみせています。
「なにそれ。嫌なんですけど私」とアガルタ。
「なんでもやりますよ」とアルト。
「何だかわからないけど頑張って」とレリース。
「では、鬼役のアガルタこっちにおいで」
「やっぱり、そうなるか。めんどくさいな、もう!」
「はいはい、文句はいいから手を出せ、いや片方じゃなくて両手」
面倒だと口を滑らせたのは、何度か訓練で縛られた経験があったからです。争いの上では、様々な理不尽な事が起こる。でもそれを跳ね除けていかねばならないからだと。
渋々、両手を差し出すとダガは娘の手首を慣れた手つきで縛りあげました。結び目からはロープが垂れ下がっています。
「これで良しと。さて、ルールは簡単。鬼役のアガが逃げてアルト君が捕まえる。でも体を掴んだり触れるのは無しだ。代わりにアガの手を縛ったロープをつかめば弟子入りを認めよう」
「僕がロープをとればいいんですね。それだったらできるかも」
「おおっ、勝算はあるのかな。でもそう簡単にはいかないだろう、なにせアガは鍛え上げているからね。そうだなハンデとして俺がちょっとだけ、アルト君に助言するとしようか。構わないよな?」
「ふん、好きにすれば」
「じゃあ、アルト君こっちに来い」
こそこそとダガはアルトに耳打ちしています。次第となぜか頬を染めて真剣な面持ちで聞いているそのやり取りを、アガルタはげっそりしながら見ていましたが。
―――アルトさ、まだわかってないようね。小さい頃は確かになんでも負けて泣かされてばかりだったけど、今の私なら両手を縛られているとはいえ、そう安々とは行かないって事にね。
急に決まった鬼ごっこ。幼馴染に軽く見られているのが判った彼女に火が付いたようです。
ふつふつとこみ上げてくるものを感じながら、アルトを睨んで不敵な笑みを浮かべていました。
「さあ始めるか。もう一度言うぞ、アルト君はアガの体には触れては駄目。そしてお前は自由な足を使ってかわすこと。ロープを掴まれたらお前の負けだ。いいか?」
「はいはい」
「やってやる、ぜったい弟子入りするぞ」
「いつの間にか、試験が勝負になっているような」
快晴の夏空に大きな雲が浮かぶ中、向かい合い日差しを浴びて大粒の汗がにじむ二人。少し離れた木陰でダガとレリースが見守る中、弟子入りをかけた鬼ごっこの開始です。
急遽決まった鬼ごっこ。驚きの展開が待っています。
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