お茶会は女の戦場?ジョゼフィーヌの戦い!
オスカルのママ、デジレから届いたお茶会の招待状。
果たしてジョゼフィーヌはどう立ち向かうのか!
カマキリの卵事件から一ヶ月後。
チュイルリー宮殿のジョゼフィーヌのもとに、一通の上品な招待状が届いた。
薔薇の香りの代わりに、どこか家庭的な温かみを感じさせるその手紙の差出人を見た瞬間、ジョゼフィーヌの美しい顔はみるみるうちに蒼ざめていった。
「……デジレ・クラリー・ベルナドット…」
手紙の内容は、二ヶ月と一週間もの間、愛息オスカルを預かってくれたことに対する心からの「お礼のお茶会」への招待だった。
デジレ自身は、礼儀正しく上品な素晴らしい女性である。問題はそこではない。問題は、彼女の背後に確実に控えているであろう、あの破壊神オスカルの存在である。あのアパッチのごとき悪魔ちゃんが住まう本拠地(プレヴォテ城)へ、自ら乗り込まねばならないのだ。
「断りましょう、お母さま! また何をされるか分かったものじゃないわ!」
オルタンスが恐怖に震えながら進言するが、ジョゼフィーヌはキッと眉をあげて首を横に振った。
「だめよ、オルタンス。私はフランス共和国のファーストレディよ? 閣下の部下の妻からの、純粋な感謝のお茶会を拒絶したとあっては、社交界での私の面目は丸つぶれですわ。……行くのよ。これは戦争よ!」
ジョゼフィーヌは、まるでマレンゴの戦いに臨むナポレオンのごとく、冷徹な軍師の目で机の上の作戦を練り始めた。
まず、同行者の選定である。このお茶会の話をレティツィアに振ると、彼女はコルシカの素朴な顔で笑った。
「私はいいよ。いま、オスカルに編んでやる新しい靴下の刺繍が忙しいんだ。お留守番させてもらうよ。」
最高権力者の不参加。これで不仲な義母の前でオスカルの攻撃を受けて笑われるという一つの懸念は消えた。しかし、ジョゼフィーヌは一人で行く無謀さは持ち合わせていなかった。
「オルタンス、あなたも来なさい。」
「ええっ!? 嫌よお母さま!」
「万一の際、攻撃の標的を私一人に集中させないためよ。被害の分散は戦術の基本でしょう?」
ジョゼフィーヌは、年頃の娘を容赦なく「身代わり」として徴兵した。さらに、絶対に欠かせない戦力がもう一つ。
「フォルチュネ、あなたも来てもらうわよ。」
「ウ、ワン……(遠い目)」
あの全身口紅落書き事件以来、すっかり哲学的になってしまったパグのフォルチュネを、オスカルの気を引くための「対児兵器」として随伴させることにした。
そして、極めつけは「ドレスコード」の策定であった。ジョゼフィーヌはクローゼットを開け、パリの最新トレンドを完全に無視した、ある意味で究極の防護服を選び出した。
ドレスはリボン、フリル、レース、一切の装飾なし。色は汚れが目立つ「白」は厳禁。万一、口紅や泥、食べこぼしが付着しても周囲に馴染む『濃い目のベージュ』を選定。
アクセサリーは引きちぎられても目立たない、かつ肌の色に溶け込んでオスカルの視界に入りにくいゴールドのネックレス。
髪飾りは自分の髪の色に馴染み、小さめのサイズで万が一ひっぱられたり折られたりしてもびくともしない「強靭な作り」のもの。
ドレッサーの前に立ったジョゼフィーヌとオルタンスの姿は、普段のきらびやかな宮廷衣裳と比べると、驚くほど地味で、控えめに言って「貧乏くさい」ものであった。しかし、ジョゼフィーヌの瞳には、かつてない覚悟の光が宿っていた。
「いいわね、オルタンス。ドレスやアクセサリーをボロボロにされて這う這うの体で帰るくらいなら、一日くらい貧乏くさい格好をしてやり過ごす方が何十億倍もマシよ!」
「……う、うん。分かったわ、お母さま。」
こうして、完璧な防御陣形を敷いたジョゼフィーヌ一行は、ファーストレディのプライドと、それ以上の恐怖を胸に抱きながら、破壊神の本拠地――プレヴォテ城という名の、最前線へと旅立ったのである。
(続く)
上流階級や富裕層の人々にとってお茶会は大事なイベント。
軽食と紅茶を味わいながら、いろんな話をして楽しむコミュニケーションの一環でした。
ちなみに一番最初にサンドイッチから食べるのがマナーだそうです。




