楽しいお茶会と破壊神の真実!
お茶会が始まり、オスカルはフォルチュネと楽しく遊びます!
しかしジョゼフィーヌはオスカルから目が離せない。
デジレママが語るオスカルの前日譚とは?
パリ郊外のお城の前でジョゼフィーヌたちを乗せた馬車は止まった。
「ここが……プレヴォテ城……」
ナポレオンから事前に入手していた情報によれば、ベルナドット家は住み込みの使用人が合計十人(料理人が三人、年配と若手のメイドが五人)のみ。
お城の構造は中央の正面玄関を中心としてシンメトリーに窓や部屋が配置された地上三階建て。部屋の総数は二十、その中で寝室は八部屋。
外壁は淡いピンクやベージュ系の優しい色合いの石造り。チュイルリー宮殿とはまた違う、極めてシンプルなお城である。
馬車から降り立ったジョゼフィーヌは、ベージュの防護ドレスをきっちりと正し、覚悟を決めて門をくぐった。 主人のジャン=バティスト・ベルナドットは仕事で不在。玄関では、上品な笑みをたたえたデジレと、二人のメイドが丁重に出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、ジョゼフィーヌ様、オルタンス様。」
「ええ、招いてくれてありがとう、デジレさん。」
緊張の面持ちで家の中に足を踏み入れたジョゼフィーヌだったが、次の瞬間、廊下の向こうからトテトテと小さな足音が響いてきた。現れたのはあの悪名高き破壊神オスカルだった。
完全防御用のベージュのドレスを着たジョゼフィーヌとオルタンスは、条件反射で身構えた。
「フォネ~~!!」
オスカルはジョゼフィーヌたちには目もくれず、連れてこられていた愛犬のパグのフォルチュネを見つけるなり大喜びで駆け寄った。
「ワンワンッ!」
「フォネ! あーうー!」
「キャン!」
全身口紅落書き事件を経て、奇妙な男の友情(?)で結ばれた一人と一匹は、再会を祝して大喜び。フォルチュネも短い尻尾をちぎれんばかりに振りながらオスカルのもとへ駆け寄り、二人はそのまま、庭へと楽しそうに飛び出していった。
「まぁ、オスカルったらフォルチュネちゃんが本当に大好きね。では、私たちはあちらのテラスの席へ行きましょうか。」
デジレに案内され、庭が一望できるテラスでお茶会がスタートした。
お茶会といっても、出されたお菓子や紅茶は、やはり宮殿の最高級品に比べれば素朴でシンプルなもの。普段のジョゼフィーヌであれば、「あら、ずいぶんと小さくて質素なお城ね。住み込みの使用人が十人? 紅茶の葉も宮殿のものと比べたら少し香りが薄いかしらん。」と、笑顔の裏でマウントを叩き込んでいるところだ。
しかし、今日ばかりはマウントを取る余裕など微塵もない。ファーストレディの威信を懸けて、破壊神の襲撃をいかに無傷でかわすかという「サバイバルミッション」の真っ最中なのだ。
庭園はオスカルが迷子にならないためであろう、木の壁がぐるりと取り囲むように立っている。オスカルがフォルチュネを追いかけ回してキャッキャと遊んでいる様子がテラス席に座るジョゼフィーヌの視界に丸見えで飛び込んでくる構造だ。
「宮殿から戻って以来、オスカルには色々と変化がありまして……」
デジレが上品に微笑みながら、最近の破壊神の近況を語り始めた。
「最近は、絵や色とりどりのものに異様な興味を示しはじめたんです。それに、パパの真似をして、紙に『字らしきもの』を熱心に書き始めたりして……。閣下の宮殿で、何か良い刺激を受けたのかしら?」
(刺激どころか、うちの娘の化粧品と壁紙と、私のアクセサリーが全滅したのよ……!)
ジョゼフィーヌはベージュのドレスの裾を握りしめ、引きつった笑みを浮かべた。
「そうそう、一昨日なんて、庭で遊んでいたと思ったら、オスカルが素手でネズミを捕まえたんですの。ネズミの尻尾をガシッと掴んで、胸を張ってパパに見せに来たんです。ネズミの方は『助けて~~!』と言わんばかりに空中をジタバタ暴れていて。もう、夫婦で大騒ぎになって……。あのあとは流石にお医者様を呼んで、噛まれていないか診てもらいましたわ。」
((ネズミを生け捕り……っ!?))
ジョゼフィーヌとオルタンスは、思わずお茶を盛大に噴き出しそうになった。二歳児の戦闘力が、もはや人間の枠を超えて素手で野生のネズミを狩るハンター領域に突入し、確実に進化していたのだ。
ジョゼフィーヌが恐る恐る庭を見るとオスカルがフォルチュネ抱きしめてモフモフと体全体で撫でている。
「フォネ~~モフモフ~~!!」
「ワウ!」
立ち上がったオスカルは歩きながら庭の石ころを拾い集め、フォルチュネと一緒にテラスの階段を上ってきた。
ジョゼフィーヌは優雅なファーストレディの微笑みを崩さぬまま、内心ではナポレオンばりの防衛陣形を展開した。しかしオスカルはジョゼフィーヌのベージュの防護服には目もくれず、庭から拾い集めてきた小石をザラザラとテラスの床に広げ始めた。そして、手にした小枝を振り上げると、小石に向かってペチッ!と叩きつけたのだ。
「あうー! じゅー!」
(ひっ……!?)
ジョゼフィーヌとオルタンスの心臓が跳ね上がった。それは紛れもなく、あの宮殿を震撼させた「二万フランのティアラ打楽器事件」の完全なる再現だった。
しかし、小枝と小石では、最高級の純金と真珠が奏でたような美しい高音は出ない。
「う~~……」
満足のいく音が出ないのか、オスカルはすぐにつまらなそうな顔をして小枝をポイッと放り投げた。
「あっ!そうですわ。」
デジレが苦笑しながら紅茶を口に運ぶ。
「最近のオスカルは、色んなものを叩いて音を出すのが本当に好きでして……。気に入った音が出たら、それこそ何時間でもずっと叩き続けるんですよ。」
(何時間も……!? あの二万フランのティアラを、何時間も叩き続けるつもりだったの!?)
ジョゼフィーヌとオルタンスは、あまりの恐ろしさに内心ガタガタと震え、幽体離脱の一歩手前まで追い込まれていた。
「本当に好奇心旺盛でやんちゃな性格なものですから、私や主人の私物や生活用品は全てオスカルの手の届かない高い棚の中にしまってあるんです。でもマインツへ行く準備をしていた時は本当に大変で……」
デジレは当時の苦労を思い出したように、ため息を交えて語り始めた。
「たくさんの荷物をまとめているのを見て、オスカルの目が輝いてしまって。私の白粉の箱をパカッと開けて床にぶちまけようとしたり、おもちゃだと思ったのか宝石箱が開かなくてイラッとしたのか、床に思いっきり叩きつけて力ずくで開けようとしたんです。主人が止めてくれたのでよかったのですが……」
((……やってた……!! ウチの宮殿でも完全に全く同じことをやってた……ッ!!))
心の中で盛大に絶叫するジョゼフィーヌ。しかし、デジレの衝撃の告白はこれだけでは終わらなかった。
「極めつけは、マインツの晩餐会で使うために姉から借りたティアラを見つけた時ですわ。」
「ジュ・・・ジュリーのティアラを……!?」
ジョゼフィーヌの声が裏返る。
「ええ。オスカルはそのティアラを持ち出して、あの子が持っていたおもちゃの楽器に、力いっぱいぶつけようとしたんです! すぐに私が気づいて取り上げたのでティアラは無事だったんですが、お気に入りのおもちゃを取り上げられたと思ったのか、『うえ~~ん!』と泣きだして。泣き止んだかと思ったらおやつの時間になるまで拗ねちゃって。もう本当に大変でしたのよ。おほほほ。」
デジレは「今となっては良い思い出」とばかりに可愛らしく笑うが、ジョゼフィーヌの精神はすでに限界を迎えていた。
(……この子は、宮殿に来る前からティアラを叩く英才教育(?)を済ませていたのね。そしてうちの宮殿で、ついに『二万フランの最高級打楽器』を手に入れて夢を叶えたんだわ……!)
これまでの破壊行動はすべてオスカルの叶えたい夢だったのだ。ジョゼフィーヌは目眩に耐えながら、お茶会という名の戦いを続けるのである。
(続く)
幼児にとって旅行準備や引っ越しはテンションが上がるため、転倒や誤飲事故などにつながるのでとても大変ですよね。
オスカルもおもちゃの山と思ってしまったのかもしれませんね。




