オスカルの新しい世界とお友達!
宮殿探検ができなくなったオスカルはお庭探検に出発!
たくさんの花や動物、虫たちとの出会い、新しいお友達ができて元気いっぱい!
フランス共和国第一執政の邸宅は、もはや宮殿ではなく、対二歳児用の『要塞』へと変貌を遂げていた。
「いいか、ウジェーヌ。一カ所の突破も許してはならん。すべての部屋、すべてのクローゼット、果ては引き出しの一つ一つに至るまで、徹底的に施錠するんだ!」
ナポレオンの厳命により、屋敷中のすべての扉に鍵がかけられてしまい、お気に入りの宮殿探検ができなくなったオスカルは、不満の意を全身で表明していた。
「ぶぅ……」
両頬をこれでもかと膨らませ、大広間の扉におもちゃをポンポンと投げる。仕方なく、ナポレオンは義理の息子ウジェーヌを護衛につけ、宮殿の広大な庭を散策させることにした。
「オスカルくん、待って! 早い、早いよ!」
ウジェーヌの必死の呼びかけも虚しく、二歳児の機動力は凄まじかった。低重心から繰り出される予測不能なダッシュに、若きウジェーヌは何度もオスカルを見失い、庭中を這いつくばって探しては追いかけるを繰り返した。
昼食の時間になり、息も絶え絶えのウジェーヌはオスカルをなんとか見つけ出し、一緒に庭園から戻ってきた。
オスカルは満面の笑みでズボンのポケットからゴソゴソと何かを取り出した。
「にょろ~~~ん」
「……え?」
いち早く異変に気づいたウジェーヌの顔から、血の気が引いた。オスカルの小さな手が掴んでいたのは庭園の草むらで捕獲したとおぼしき、ツヤツヤと黒光りする二匹の黒ヘビだった。
「うきゃっ!」
オスカルが嬉しそうにヘビを床に放すと、さらにもう一つのポケットのから、丸々と太った大量のトノサマバッタを「見て見て」と言わんばかりに取り出して部屋中に放った。解放されたバッタたちは大広間を飛び回った。
「キャァァァァァァァァァッ!!」
オルタンスとジョゼフィーヌのみならず、宮女たちまでもが絶叫した。
「兵士たち、早く、早くあれを排除しなさい!」
「ヘビ! ヘビがこっちに来ますわ、ジョゼフィーヌ様!」
「いやあああああ!!ドレスにバッタが這い上ってくる!!」
女性たちはドレスの裾を振り乱して椅子やテーブルの上に飛び乗り、大広間は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。
飛び交うバッタたちやヘビを見て、「うきゃ〜〜!」とオスカルは大喜び。そして兵士たちが蛇やバッタに悪戦苦闘している間、レティシア特製のレンズ豆のスープを食べると、別室でスヤスヤお昼寝するのであった。
そんな中、唯一の癒やし(?)が訪れた。 ジョゼフィーヌが溺愛するペットのパグ、フォルチュネとオスカルがなぜか意気投合したのだ。一緒にトコトコと歩き、おもちゃを分け合う微笑ましい姿に、一同は「あぁ、やっと普通の子供らしい一面が……」と胸をなで下ろした。
――だが、それは束の間の平和にすぎなかった。
オスカルの手にはジョゼフィーヌがイタリアから取り寄せた最高級の口紅が握られていた。あの宝石事件の時にこっそりポケットに入れていたのだ。
「フォネ!おけしょー♪」
「ワン……?」
数十分後、そこには鮮やかな赤色で全身にサイケデリックな落書きを施されたパグの姿があった。
その顔や体に、ルージュで楽しそうに「ぐるぐる」とうずまき模様を全身に描かれ、額に「肉」とも読めない謎の文字を入れられたパグは、見たこともない奇妙なクリーチャーへと進化していた。
フォルチュネはもはや抵抗する気力もなく、遠い目をして「おにいちゃんは辛いワン……」と言わんばかりに、深々と大きなため息をついていた。
「フォルチュネーーー!!オスカルちゃんに落書きされたの~~~!!私のお気に入りの口紅がぁ・・・」
変わり果てた口紅と愛犬の姿に、ジョゼフィーヌは激しい立ちくらみを起こしてソファーに倒れ込んだのだった。
(続く)
チュイルリー宮殿はたくさんの植物が植えられていたことでも有名でした。子どもが走り回っても問題ないですね!
チュイルリー宮殿は残念ながら1871年のパリ・コミューン動乱で焼失してしまい、現在はフランス最大の国立公園となっています。




