↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
6/50

初めての戦闘

「……あれ?」


目が覚めた瞬間、俺は嫌な汗をかいた。


視界に飛び込んできたのは、いつもの古びた天井じゃない。豪華な天蓋てんがい付きのベッド、そして公爵令嬢ルチアとしての身体だ。


いつもなら、眠れば現実世界に戻って、陽葵ひなたに朝ごはんを作る時間なのに。


なぜだ。現実の俺はどうなっている? 会社は? そして何より、陽葵は一人で大丈夫なのか?


「ルチア様、おはようございます。そろそろご準備を」


不安に押しつぶされそうな俺の前に、メイド長のカレンがやってきた。


心配しても今はどうしようもない。俺は必死に心を落ち着かせ、王都へ出発する準備を始めた。


屋敷の外には、数台の豪華な馬車と、武装した護衛たちが並んでいる。


父・エドワードが執事長に留守中の指示を出し、馬車に乗り込む。


先頭は父・エドワード。次が母・エレノア。そして三台目の馬車に俺とフィリア、そしてカレンとフィリアのお付きのメイドが乗り込んだ。


(……家族バラバラに乗るのか。もしもの時のリスク分散ってやつかな。貴族も大変だな)


「お姉様、王都に着いたら一緒に街を見て回りましょうね!」

隣でフィリアが嬉しそうに笑う。


カレンは何も言わず、ただ窓の外を鋭い目で見つめていた。乙女ゲームの「両親死亡イベント」が起こらないことを祈っている。


屋敷を出て数時間。馬車はのどかな街道を順調に進んでいた。


王都まではまだまだかかりそうだな。そう思っていた時、ガタン!と激しい衝撃と共に馬車が止まった。


「どうしたのかしら?」

俺が声を上げるより早く、外から護衛の叫び声が響いた。


「敵襲!盗賊だ!」


カレンが弾かれたように立ち上がった。


「ルチア様、外へ!フィリア様はここで護衛と共に待機してください!」

「えっ、カレン!?」


「急いで!旦那様たちの無事を確認します。ルチア様、付いてきてください!」


カレンは迷いなく馬車を飛び出していた。


何が何だかわからないが、俺も必死でカレンの後を追った。


父と母の馬車は少し先にある。まだ盗賊の手は届いていないが、数人の男たちが護衛をかいくぐって迫っていた。


「ルチア様、来ますわよ!旦那様と奥様を守るために、魔法で戦ってください!」


カレンの叫びに、俺の心臓が跳ね上がった。普段は冷静な彼女の、鬼気迫る表情。


(……戦う?相手は人間だぞ。傷つける、いや、殺すってことか!?)


現実離れした状況に、足がガクガクと震える。


でも、やらなければ俺たちが殺される。娘のようなフィリアも、両親も。


カレンは風魔法で敵の攻撃を紙一重で避けながら、隠し持っていたダガーで次々と盗賊を無力化していく。その動きは、まるで熟練の暗殺者のようだ。


(カレン、すごすぎる……。返り血すら浴びてないじゃないか)


「ルチア様、一人取りこぼしましたわ!」


一人の盗賊が、こちらを睨みつけながら突進してくる。


「死ねぇ、お嬢ちゃん!」

「やばい――っ!」

俺は身を守るため、必死に魔力を込めて「土魔法」を発動した。


全力で地面を押し上げ、壁を作るイメージ!


――ドゴォォォォン!!


「えっ」


目の前に現れたのは、ただの壁じゃなかった。


地面から突き出した巨大な岩の壁が、エドワードからフィリアの馬車までをぐるりと囲い、さながら「巨大な要塞」を作り上げてしまったのだ。


「…………え?」


襲ってきた盗賊も、守っていた護衛も、そして作った本人である俺も、一瞬何が起きたのか理解できず固まった。


(……さすが大地さん。やりすぎよ)

カレンが心の中で呟いた。


規格外すぎる魔法に、盗賊たちが戸惑っている。


「これなら……いけるか!」


俺は風魔法で城壁の頂上まで一気に飛び上がった。


眼下に群がる盗賊たちを見下ろし、風魔法で声を増幅させて言い放つ。


「死にたくなければ武器を捨て、今すぐ立ち去りなさい!」

「たかが壁を作ったくらいで、いい気になんじゃねえぞ!」


盗賊たちが強がって怒鳴る。


「……じゃあ、これはどうかしら?」


俺は右手を空へ掲げた。

イメージするのは、太陽のエネルギー。それを極限まで圧縮して、巨大な炎の球を作り出す。


頭上に現れたのは、周囲を一瞬で真昼のように照らす「巨大な火球」


じりじりと焼けるような熱が、下にいる盗賊たちに恐怖を叩き込む。


「う、うわあああ!化け物だ!」

「逃げろ!焼き殺されるぞ!」


一人が逃げ出すと、そこからは早かった。


盗賊たちは武器を放り出し、クモの子を散らすように森の奥へと消えていった。


「ふぅ……。脅しだったけど、なんとかなったな」


俺は魔法を解き、城壁を地面に戻してゆっくりと降りてきた。


「ルチア様、あれを本当に放っていたら、わたくしたちも灰になっていましたわ」


カレンが苦笑いしながら近づいてくる。


「も、もちろんやるつもりなんてなかったわよ!ただのパフォーマンスよ!」

慌てて否定したが、カレンは「助かりましたわ」と静かに微笑んだ。


「お姉様!」

「ルチア、無事か!」


フィリアと両親が駆け寄ってくる。


フィリアは俺の無事を確認して泣き出し、父・エドワードは厳しい顔で俺を叱った。


「ルチア!なぜこんな危険な真似を!カレン、お前が付いていながら!」

「申し訳ございません。わたくしが……」

カレンがひざまずいて謝ろうとするのを見て、俺は慌ててフォローに入った。


「お父様、違うの!私の魔法がみんなを守れると思ったから、自分の意志で行ったのよ。責めるなら私を責めて!」


父は困り果てたような顔をしたが、実際に俺が守ったのは事実だ。


幸い、家族に怪我はなかったが、護衛には負傷者が出ている。


「まずは負傷者の手当てだ。フィリア、手伝いなさい」

「はい、お父様!」


フィリアが光魔法で治療に回る中、俺はカレンの隣に立った。


「カレン、ありがとう。……でも、すごかったな。返り血どころか埃もついてない」

「風魔法で防御膜を張っておりましたから。ルチア様こそ庇っていただきありがとうございます」


カレンは淡々と答える。


盗賊を容赦なく排除したカレンの冷徹なまでの立ち回りと、迷いのない忠誠心。


異世界で生きるということの「重さ」を改めて突きつけられ、俺は少しだけ震える肩を、自分の手で強く押さえた。


現実世界に戻れない不安。でも、この世界で俺には守るべき家族がいる。


今はみんなが無事だった事で良しとしよう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。