↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/50

フィリアの異世界転移

「ウィンドカッター!」


俺は、小さなカーバンクルの前足を横に払い、鋭い風の刃を放った。襲いかかってきた一角ウサギの首が飛び、光の粒子となって消えていく。


ユイが異世界へのゲートに飛び込んでから、一体どれくらいの時間が経っただろう。

体感ではもう数時間も戦い続けているような気がしていた。


(……まだか。ユイ、無事なんだよな?)


次々に現れる魔獣を睨みつける。

かつて、俺が乙女ゲーム『レイディアント・ハーツ』の世界で悪役令嬢のルチアに転生していた時。カレン(ユイ)やフィリアから逃げ出した先で俺の命を奪ったのは、今目の前にいるリッパーベアだった。


あの時は、不意をつかれたせいでやられてしまったけど、今は違う。


「あの時とは違うんだよ!」


リッパーベアの巨大な爪が俺を切り裂こうと振り下ろされる。


その瞬間、俺はスキルの『実体化』を解いた。俺の体は一瞬で小さなネックレスになり、魔獣の攻撃は虚しく空を切りバランスを崩した。


そしてすぐさま実体化し、無防備な状態のリッパーベアを魔法を叩き込んだ。


「アースバレット!」


石の弾丸が魔獣を貫く。


戦いの中で、自分の感覚がどんどん研ぎ澄まされていくのが分かった。

不意に、体が重力を無視したように滑った。


(……え?)


気がつくと、俺は数メートル離れた位置に移動していた。ステータスを確認すると、新しいスキルが追加されている。


「『瞬間移動』……これか!」


俺には才能開花のスキルがある。戦えば戦うほど新しい力を手に入れて強くなれる。

おまけにこの魔石でネックレスを作ったときに付与した魔力回復のおかげで、いくら魔法を使っても魔力が尽きない。


魔獣の数は目に見えて減っていた。何匹かは俺の魔法に恐れをなして逃げ出していった。


その時、ゲートの空間が大きく歪む。


「また魔物かっ!」


反射的に魔法を放とうとしたが…。


「ダイチさん、おまたせ!無事?」


飛び出してきたのは、見慣れたユイの姿。そしてその後ろには、一人の少女がいた。


「問題無い。そっちこそ、無事フィリアを連れてこれたみたいだな」


俺が安堵の声を上げると、フィリアと呼ばれた少女は、ゲートをくぐった先の見知らぬ景色に目を丸くしていた。


「ここは……?ユイさん、本当に異世界なのですか?」

「ええ。説明は後!まずはゲートから離れて安全な場所に移動しましょう!」


俺たちが向かったのは、昨日ユイが石化した俺の体を運んだ洞窟だった。


洞窟に入り、ユイが入り口に強力な結界を張る。


「……はぁ、はぁ。これで、もう大丈夫よ」


ユイが杖を置いて地面に座り込む。フィリアは慣れない全力疾走で、肩で息を切らしていた。


ルチアに転生していた頃、毎日顔を合わせていたフィリア。

久しぶりに見た彼女は、あの頃と何も変わっていない。金髪に、透き通るような瞳。守ってあげたくなるような、儚くて純粋な妹のままだ。


「それで、ユイさん。ルチアお姉様は……お姉様は本当に生きているのですか?」


フィリアが震える声でユイに聞いた。


(……そんなこと言って連れ出してきたのか、ユイは。嘘だとバレたらどうするんだよ)


俺が冷や汗を流していると、ユイは自信たっぷりに微笑んで、俺を指差した。


「ええ、ここにいるわ」

「えっ!?俺!?」


俺は思わず叫んだ。確かに中身はルチアだったけど、今はカーバンクルの姿だぞ。


「えっ……?この言葉を話す魔獣が、お姉様……なのですか?」


フィリアが不思議そうに俺を見つめる。


「おいおい、俺は魔獣じゃないぞ。れっきとした……えーっと、今はこんな姿だけど」


ユイがフィリアの隣で、優しく説明を始めた。


「フィリア。ここに来る前にも少し話したけど、この人は本当のルチアお姉様ではないの。別の世界から転生して、あなたと仲良く過ごしていたときのルチア。今はダイチという名前で、別世界の人間なの」


フィリアは戸惑った様子だったが、やがて小さく頷いた。


「……まだ不思議な感覚ですが。でも、ユイさんが私とカレンしか知らないはずの話を知っていたので、信じることにします」

「……やっぱり、素直でいい子だな。そんなんじゃ悪い人に騙されないか不安だよ」


俺がルチアだった頃によく言っていた事だ。フィリアの瞳が大きく揺れた。


「……それ。お姉様によく言われていました」


確信を持たせるために、俺はあの頃の思い出を口にする。


「王都の屋台で食べたクレープ、美味しかったな。時間に間に合いそうになくて魔法で空を飛んでさ。カレン――今のユイにスカートで飛んではしたないって怒られて。フィリアにも『バカ!』なんて言われたっけ」


フィリアが口を押さえて、ポロポロと涙をこぼした。


「……本物のお姉様なんですね。姿は違っても、そのその話を……」

「本物、というのはちょっと違うかもしれない。でも、君と過ごしていた数ヶ月は、本気で仲良く、お姉様らしく振る舞ってたつもりだ」


俺が言い切る前に、フィリアが駆け寄ってきて俺を抱きしめた。


「ああ!お姉様!本当に、本当にごめんなさい!私がいれば、あの日、お姉様を死なせなかったのに……!」

「ユイにも聞いたよ。あの日、お前たちが俺を追放しようとしたのは、俺を守るためだったんだろ?話は全部聞いてるし、何も恨んじゃいない。だから、もう気にしないでいいんだ」


俺は短い前足で、彼女の頭をポンポンと撫でた。


「私がフィリアにルチアの追放に協力をさせたんだから、フィリアは悪くないわ」


ユイがフィリアの肩に手を置く。


「何だか……ルチアお姉様とカレンと話しているようで、すごく安心します」


フィリアが微笑んだ。


「カレンは、今もいるでしょう」


ユイが言うと、フィリアは少し困ったように笑った。


「はい。今のカレンは性格が違いますよ。昔のとにかく厳しいメイド長に戻りました。他のメイドたちは、優しくなったと思ったらまた厳しくなったって。優しかったメイド長がよかったって、こっそり言っていますけど」

「あら、私だって厳しくしてたはずなんだけど」


ユイが可笑しそうに肩をすくめた。


「さて、思い出話はこれくらいにしましょう。とりあえず、本題よ」


ユイの表情が引き締まる。

彼女は自分のアイテムボックスから、石化した俺の体を取り出した。


「……っ」


フィリアが息を呑む。


「石化した体……。本当に、私の魔法で治せるのでしょうか?」

「大丈夫。あなたの力ならできるわ」

「…わかりました。やってみます」


ユイの言葉にフィリアが深く頷き、石化した俺の体へと両手をかざした。


「理を外れた封印よ、大いなる慈愛の光に帰せ……リベレイション・ライト!」


フィリアの手から、眩いばかりの純白の光が溢れ出した。

その光は優しく、それでいて力強く、俺の石化した体を包み込んでいく。


少しずつ、足先から灰色の石の質感が消え、肌の色が戻っていく。


数分後、光が収まると、そこには元の俺の体が横たわっていた。


「……治った。本当に、私にこんな力があったなんて」


完全に石化が解けた俺の体を、ユイが丁寧に横に寝かせた。


「メデューサはあの世界でもボス級の魔物だからね。詳しい生態は知られていなかっただけよ」


ユイが満足げに頷いた。


「……これで、俺もようやく元の体に戻れるんだな」


俺は自分の体を見下ろし、込み上げる喜びを噛み締めた。


「そうね。魂を魔石から肉体に移すわ。一度ダイチさんの意識を現実世界に戻すわね」


ユイが真剣な顔で俺を見つめる。


「わかった。次に目覚めた時に、元の体で起き上がれることを期待してるよ」


俺はスキルの実体化を解除し、光の粒子となってユイが持つ魔石のネックレスへと戻った。


ユイがネックレスを手に取り、静かに何か唱え始める。

視界が白く染まり、俺の意識は深い眠りの淵へと吸い込まれていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。