↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
36/50

異世界のゲート

俺とユイは、ひとまず迷いの森を出てアルバの街へと戻った。


今の俺は実体化を解き、ユイの胸元で輝く赤い魔石のネックレスに戻っている。魂だけになった俺にとって、ここは一番落ち着く場所だ。


街に入ると、ユイは真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。


「調査の報告に来ました」


受付でそう告げると、昨日と同じように奥の個室へと案内される。

しばらくして、ギルドマスターのフォルガが部屋に入ってきた。彼は部屋を見渡し、不思議そうに眉を寄せた。


「おや?今日は一人か。相棒のダイチはどうしたんだ?」

「彼は今、宿で休んでいます。少し体調を崩してしまって」


ユイはさらりと嘘をついた。本当は彼女のアイテムボックスの中で、石になった俺が眠っているなんて言えるはずもない。


「そうか、無理は禁物だからな。……それで、森の調査で何か分かったのか?」


フォルガが椅子に座り、真剣な眼差しを向けてくる。

ユイは昨日の探索で遭遇した、ウサギ型やクマ型の新種の魔物――一角ウサギやリッパーベアの他に複数の新種がいたことを報告した。そして、最も重要な「新種」についても言葉を選びながら伝えた。


「森の奥には、視認したり返り血を浴びたりすることで対象を石化させる魔物がいました。今の森の奥は、あまりに危険です」

「……石化だと?そんな状態異常、聞いたことがないぞ。よく無事だったな」


フォルガが驚愕して目を見開いた。

この世界には毒や麻痺の魔法はあるが、対象を物言わぬ石に変えてしまうような現象は、伝説の類でしか語られていないらしい。


「その魔物は倒しましたが、森の一部はすでに石へと変わっています。それにまだ同じ種がいるかもしれません。ギルドの方でも、その石化を解く方法を至急調べてほしいんです」

「……分かった。石化した現物を調べたいが、サンプルはあるか?」

「はい、魔物の死体は石化が広がる危険があるので渡せませんが、後でギルドに石化した草木を届けておきますね」

「ああ、助かる。すぐさま各方面の賢者や魔導師に問い合わせてみよう」


話し終えたユイは、足早にギルドを出て宿屋へと戻った。


宿の部屋に入り、鍵をかける。

俺はネックレスの状態から、再び実体化を使ってカーバンクルの姿になり、彼女の胸元から地面に降りた。


「ふぅ……。あのギルマスの反応を見る限り、この世界の知識じゃ石化は治せなさそうだな」

「ええ、私もそう思うわ。……でも、何もしないよりはマシだから」


ユイがベッドに腰掛け、溜息をついた。


「じゃあ、俺たち自身で何とかする方法を考えないとな。……何か心当たりがあるのか?」


俺が問うと、ユイは意を決したように俺の瞳を見つめ返した。


「一つだけ、確実な方法があるわ。……レイディアント・ハーツでは、フィリアの光魔法で石化を解けるの」

「フィリアの?あの子の聖女の力で治せるのか」

「そう。騎士団長攻略ルートにね、森でメデューサと戦った騎士団長が、返り血を浴びて石化しちゃうイベントがあるの。それをフィリアが光魔法で治して、二人が結ばれるっていうシナリオよ」


俺はゲームでは王子ルートしかプレイしなかったから、他の攻略対象の事はほとんど見てなかった。


「……でもフィリアがいないと駄目って事だろ。やっぱり無理じゃないか」

「ここにレイハーの魔獣が現れたってことは、あの森のどこかに二つの世界を繋ぐゲートがあるはずよ。そこを見つけて、私があっちの世界からフィリアを連れてくるわ」


ユイの言葉に、俺は思わず耳を疑った。


「フィリアをここに!?……いや、それなら俺たちがゲートを潜ってあっちに行けばいいんじゃないのか?」

「ダメよ。石化した森だってどんどん石化が侵食するし、フォレストスパイダーの毒だって、この世界の魔法じゃ治せないかもしれない。異変を完全に終わらせるために、ここで彼女の力が必要だわ」

「……でも、いきなり現れたお前に、フィリアが大人しく付いてくるか?あっちの世界じゃ、お前はもうカレンじゃないんだろ」

「それは……、私が説得してみせるわ。彼女なら、きっと助けてくれる」

「……でも、ユイ。一人で行かせるわけにはいかない。俺も一緒に行く」

「ううん、ダイチさんはゲートの前で待ってて。……ゲートの周りには、きっと魔獣がたくさん集まっているわ。もし私がフィリアを連れて戻ってきた時に、出口が魔獣に囲まれていたら彼女を危険に晒しちゃう。だから、ダイチさんには外の敵を掃除しておいてほしいの」


今の俺は弱々しいリスのような姿だが、魔法でなら戦える。


「……分かった。任せろ。ユイが戻ってくる場所は、俺が絶対に死守する」

「ありがとう。ゲートの場所はおそらく、昨日魔力が一番集中していたあの場所よ」

「……よし。今日はしっかり休んで、明日また向かおう」


翌朝、俺とユイは再び迷いの森へと足を踏み入れた。


森の中は魔力の乱れで転移魔法がうまく働かない。俺たちは警戒を強めながら、昨日メデューサを倒した地点へと歩いて進んだ。


道中、茂みから次々と魔獣が飛び出してくる。

俺はカーバンクルの素早い動きを活かし、魔法を放った。


「ウィンドカッター!」


鋭い風の刃が、襲いかかろうとしたグレイハウンドを切り裂く。この姿での戦い方にも、ようやく慣れてきた。


やがて、一部の草木が石化したままの、あの開けた場所にたどり着いた。


「……魔力が一番強いのは、この先だな」


俺が前を見据えると、ユイが杖を握りしめて頷く。

「ゲートを見つけたら私が入るから。援護、お願いね」


さらに奥、森の核心部へと踏み込むと、そこには異様な光景が広がっていた。


空間そのものが熱に浮かされたようにぐにゃりと歪んでいる。直径三メートルほどのその「歪み」からは、時折魔獣が這い出してきたり、逆に吸い込まれるように入っていったりしていた。


「あそこね……」


ユイが息を呑む。歪みの周囲には、一角ウサギやフォレストスパイダー、さらにはリッパーベアまでもが集まっており、この世界にいる本来の魔物たちを寄せ付けない。まるでゲートを守っているようだ。


「じゃあ、ユイ。ゲートまでの道を作るぞ!……行くぞ!」


俺は魔力を練り上げ、一気に解放した。


「アースウォール!」


轟音と共に、地面から巨大な土の壁が二列になって突き出した。ゲートへと続く一本の「回廊」を作り出し、外側からの魔物の侵入を物理的に遮断する。

さらに、回廊の中に残っていた魔獣たちを、風魔法の乱舞で一掃した。


「よし、今だ、ユイ!走れ!」


俺の叫びに、ユイが走り出す。


「ありがとう。……行ってくるね、ダイチさん!」


ユイは一瞬だけ俺を振り返ると、その歪んだ空間の中へと迷いなく飛び込んでいった。


ユイの姿がゲートの中に消える。

ゲートは依然として不気味に揺らめいているが、彼女の姿はもう見えない。


「……さて」


俺は土魔法の壁を解除した。

壁の外で足止めされていた魔獣たちが、一斉にこちらへと意識を向ける。その数は数十、いや、百を超えているかもしれない。


額の赤い宝石が、俺の戦意に応えるように鋭く輝いた。


「ユイが戻るまでの間に、こいつらを全部片付けておくか」


俺は小さな体を低く構え、ユイとフィリアの帰還を待つための、防衛戦を開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。