空飛ぶ野望 復活
俺とユイは街から少し離れたところにある森に到着した。
高くそびえ立つ木々が陽光を遮り、ひんやりとした空気が肌をなでる。
「さて、今回の依頼はポーションの原料になる薬草の採取だね」
ユイが周囲を見渡しながら説明する。俺はその景色に、どことなく既視感を覚えた。
「ユイ、ここって、最初に俺が目が覚めた森か?」
「そうだよ。あんまり深く入ると本気で迷うから、入り口にマーキングしておくね」
ユイが指先で空中に円を描くと、入り口付近の木が淡い光を放った。女神のナビゲーションなら、遭難の心配はなさそうだ。
俺たちは警戒しながら、森の奥へと歩き出した。
しばらく進んだところで、ユイがピタリと足を止めた。
「ダイチさん、あそこ」
指し示された木の陰に、体長五十センチほどのイノシシ型の魔物がいた。短い角を生やし、地面を前足で蹴っている。
「あれは『プティ・ボア』。突進してくるだけの弱い魔物だけど、戦ってみる?」
「……ああ。剣のレベルを上げるには、実戦あるのみだしな」
俺は腰のショートソードを抜き、正対した。
ルチアの時は指先一つで魔法をぶっ放していたが、剣を持つのは初めてだ。剣道経験があるわけでもない四十歳のおじさんに、まともな立ち回りができるのか……。
「ブモォォ!」
魔物が土煙を上げて突進してくる。
速い! だがギリギリのところで横に飛び退き、すれ違いざまに剣を薙ぎ払った。
手応えはあるが、浅い。バランスを崩した魔物がすぐに体勢を立て直し、再びこちらを向く。
「逃がすか!」
立ち上がろうとする魔物の頭部に向かって、俺は渾身の力で剣を振り下ろした。
真っ二つとはいかなかったが、深い一撃が入り、魔物は短い悲鳴を上げて動かなくなった。
「やったね!初陣にしては上出来だよ」
ユイがパチパチと手を叩き、魔物の死骸をアイテムボックスへ回収する。
「ふぅ……。一撃で仕留められないとは、レベル0だとこんなものか」
「経験値はそこまでじゃないけど、ダイチさんならすぐ上がるよ。ステータス、見てみたら?」
「ステータス?そんなものまで見れるのか?」
「ごめん、教えてなかったね!目を閉じて、心の中で『ステータス』って念じてみて」
教えられた通りに意識を集中すると、真っ暗な視界の中に半透明のウィンドウが浮かび上がった。
名前:ダイチ
レベル:2
職業:剣士・初級の魔導師
スキル:才能開花、土魔法Lv3、錬金術Lv3、剣術Lv1
「おお……本当にゲームみたいだ。剣術もレベル1になってるな」
「『ステータスオープン』って念じれば目の前にも出せるけど、他の人にも見えちゃうから街の中では気をつけてね。ちなみに、この世界のレベル上限は基本的に10。2〜3あれば初級冒険者、才能がない人は一生0か1のままなのよ」
上限が10というのは、かなりシビアな世界だ。その中で、一戦しただけでレベルが上がっている俺は、やはり規格外なのだろう。
さらに奥へ進むと、植生が変わってきた。
「あ、あったわ。これよ」
ユイが地面から青い葉の植物を摘み取った。依頼書にあった通りの薬草だ。
あたりを見渡すが、まばらに数本生えている程度で、必要数を揃えるには時間がかかりそうだ。
「ユイ、ちょっと思い付いたことがあるんだ」
俺はしゃがみ込み、生えている薬草にそっと手を置いた。
そして、その根元の土に魔力を流し込むイメージを持つ。
(もっと育て……増えろ……!)
すると、薬草が目に見える速さで成長し、種を落としたかと思うと、周囲から次々と新しい薬草が芽吹いた。
「今の魔力じゃ、これくらいが限界か」
気づけば、俺の周りだけ小さな薬草畑が出来上がっていた。
「……ダイチさん、それ普通の土魔法だけじゃ無理だよ。ステータスにあった『錬金術』も使ったのね」
「錬金術?ああ、レベル3で持ってたな。才能開花スキルと俺の知識で使えるようになったのか……」
だが、これならもう森の奥まで来る必要はない。土と一株の薬草さえあれば量産できそうだ。
俺たちは十分な量の薬草を採取し、帰り道でも数体の魔物を倒してレベル上げをしながら、街へと戻った。
ギルドで依頼達成を報告し、薬草と魔物の素材を換金してもらう。
「お疲れ様です、ダイチさん、ユイさん。Fランクのポイント、しっかり加算しておきましたよ!」
受付嬢の笑顔に見送られ、俺たちは宿屋の近くの定食屋で少し早い夕飯を食べることにした。
「ところでユイ、風魔法を覚えるにはどうしたらいいんだ?」
俺の唐突な質問に、ユイはスープを飲む手を止めた。
「この世界の魔法は属性ごとの教会で祈りを捧げて、加護を得るのが基本だよ。才能があればだけどね」
「それだけでいいのか?」
「教会にお布施も必要だし、加護が得られるかは才能と運次第。でもダイチさんなら一発だろうね。ただ……この街には『土の教会』しかないのよ」
ユイの説明では、一つの街に複数の教会があるのは珍しく、全属性の教会が集まっているのは王都くらいだという。
「じゃあ、次の目的地は王都だな。そこで風魔法を習得する」
「……ダイチさん。なんでそんなに風魔法が欲しいの?剣士になるんじゃなかったの?」
ユイが呆れたように聞く。
俺は真剣な顔で答えた。
「決まってるだろ。家から会社まで、満員電車を避けてひとっ飛びするためだよ」
「……。ルチアのときに王都の街中で飛んでたアレね。見られたらどうするの?」
「バレないように高く飛べば問題ない。あの爽快感を知ったら、もう満員電車には戻れないんだ」
「いつかレーダーに引っかかったり、自衛隊に出動されたりしてもしらないからね……」
ユイは深いため息をついたが、俺の決意は固い。
王都へ行き、風の加護を得る。それが俺の、現実世界での生活を快適にするための最優先事項だ。
「明日は王都に向けて出発だ。早めに休もう」
俺たちは宿に戻り、それぞれのベッドに入る。
俺は明日への希望に胸を膨らませ心地よい眠りに落ちていった。




