表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦えない僕は植物図鑑で生き延びる  ~じぃちゃん、いつの間にか最強になってた~  作者: とも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/25

3-2 岩の向こうの銀筋草

 第一採取区へ入ってすぐ、僕は違和感に気づいた。なんか、草が少ない気がするし‥‥‥

 まったく生えていないわけではないんだけれど‥‥‥

 壁際には小さな葉が顔を出し、岩の割れ目にも細い茎が伸びている。だけど、買い取り対象になる大きさまで育った植物が、ほとんど見つからなかった。


 理由は、地面を見れば分かる。


 土の表面に、採取鍬を差し込んだ跡がいくつも残っていたんだ。

「先に採られていますね」

「まだ、朝だぞ」

 源蔵さんが不満そうに周囲を見回した。

「再開を待っていた採取者は、僕たちだけではありませんからね」

 第一採取区は、戦えない採取者や新人でも入れる場所だ。再開初日となれば、普段より多くの人間が集まっていた。入り口に近く、見つけやすい植物から採られてしまうのは当然だった。僕は地面へしゃがみ、土の状態を確かめた。

 掘り返された土は、まだ湿っている。採取されてから、それほど時間はたっていないようだ。その周りには、銀筋草の小さな芽が何本か残されていた。

「これは採らないのか?」

 源蔵さんが指をさす。

「まだ小さすぎます」

「小さくても、銀筋草なんだろう?」

「今採っても、買い取り価格はほとんど付きませんし、それに全部なくなったら次に来たとき採れなくなります」

 採取者の仕事は、見つけた植物をすべて持ち帰ることではない。育ちきった物を選び、根や周りの芽を傷つけないように次に生える分を残す。

 それを守らなければ、一時的に稼げても、いずれ採取できる場所そのものがなくなってしまうんだ。お父さんとお母さんの図鑑にも、植物の効能より先に書いてある言葉があった。


『採りすぎないこと』


 両親が何度も書き直したのか、その部分だけ文字が濃くなっている。

「草にも、採り時があるんだな」

「ありますよ。人間だって、子どものうちから働かせすぎたら大きくなれないでしょう?」

 源蔵さんが僕を見る。頭の先から足元まで、ゆっくりと‥‥‥

「お前は働きすぎたから小さいんだな」

「違います」

「なら、もっと飯を食え」

「今は草の話をしています」

 源蔵さんは納得していない顔をしていた。入口近くで粘っても、籠はいっぱいにならないので、僕たちは、人の少ない脇道へ進むことにした。

 通路の壁には、閉鎖中の調査で付けられた白い印が残っている。安全を確認した場所は丸。崩落のおそれがある場所には三角。立ち入り禁止の道には、大きな赤い線だ。

 僕は印を1つずつ確認しながら歩いた。

 以前なら通れた道にも、縄が張られている場所がある。奥から逃げてきた鎧穴熊が暴れ、壁や地面を傷つけたらしい。

「ずいぶん荒れておるようだな」

 源蔵さんの声が、少し低くなる。荷車の車輪が、小さな石を踏んだ。

 ごとり、と音が洞窟の奥へ響く。

 僕は足を止め、耳を澄ませた。


 水の落ちる音。

 遠くで何かが土を引っかく音。

 人間の話し声は聞こえない。

 危険な魔獣の気配も、今のところ感じなかった。

「ゆっくり進んでみましょう」

「何かおるのか?」

「分かりません。分からないときは、急がない方がいいです」

 源蔵さんも足音を小さくした。牙鼠から逃げていたころなら、こうはならなかったと思う。

 今の源蔵さんは、僕の話を全部理解しているわけではないけど、分からないときには勝手に進まず、僕を見るようになった。少しだけ、採取者らしくなっている。

 脇道を曲がったところで、壊れた木箱を見つけた。

 蓋が外れ、中には泥の付いた布が入っていて、金具の一部には、まだ新しい傷が残っていた。

 源蔵さんが荷車を止める。

「直せそうだな」

「触らないでください」

「拾わん。見るだけだ」

 源蔵さんは両手を背中へ回し、木箱をのぞき込んだ。ダンジョン内に落ちている物が、すべてゴミとは限らないんだ。

 持ち主が魔獣から逃げる途中で、仕方なく置いていった可能性もあるし‥‥‥

 所有者が分からない物は、出口の遺失物受付へ届ける決まりになっている。一定期間を過ぎても持ち主が現れなければ、そこで初めて廃棄物として扱われるんだ。

「札を付けておきます」

 僕は回収地点を書いた札を、木箱の取っ手へ結んだ。帰りに荷車へ載せ、受付へ届けるつもりだ。

「捨てた物だったら、もらえるのか?」

「持ち主が放棄して、安全確認が終わればね」

「直せば使えそうなんだがな」

「だからこそ、勝手に持っていったら駄目なんです」

 源蔵さんは名残惜しそうに木箱を見たあと、荷車を動かした。さらに奥へ進むと、道の真ん中を大きな岩が塞いでいた。

 僕の胸くらいまでの高さがあった。閉鎖前にはなかった岩だ。天井から落ちたらしく、周囲には砕けた石が散らばっていた。

 荷車が通れる隙間はない。

「引き返しますか?」

「待て」

 源蔵さんが岩の前へ出た。

「動かすつもりですか?」

「少し横へずらせば、荷車が通れる」

「無理ですよ。こんなに大きいのに‥‥‥」

 僕が両手で押してみても、岩は少しも動かなかった。表面に付いた砂が落ちただけだ。

 源蔵さんは腰を落とし、岩の下側へ手をかけた。

「腰を痛めますよ」

「持ち上げるんじゃない。転がすんだ」

 工場では、重い機械や材料を動かすことがあったらしい。力任せに持ち上げず、重さのかかる場所を見つける。

 岩と地面の隙間へ小石を挟み、動きやすい方向へ少しずつ押す。源蔵さんは岩の形を確かめながら、足の位置を変えた。

「樹。危ないから下がっておれ」

「本当にやるんですか?」

「荷車を置いていく方が面倒だからな」

 源蔵さんが、岩へ肩を当てた。

 腕だけではなく、曲げた足を伸ばす力まで使って押す。

 最初は何も起きなかった。

 源蔵さんの靴が土へ沈み、額に太い血管が浮かぶ。

 やっぱり無理だよ‥‥‥そう思った直後。


 ごりっ。

 岩の下から、低い音がした。

「動きました?」

「まだだ」

「今、動きましたよ」

「まだ、ほんの少しだけだ!」

 源蔵さんが、もう一度力を込める。


 岩が傾いた。

 下に挟まっていた石が割れ、巨大な岩が半回転する。僕は慌てて、さらに後ろへ下がった。

 岩は道の端まで転がり、壁へぶつかって止まった。

 荷車1台が、どうにか通れる幅ができていた。

 源蔵さんは岩から手を離し、ゆっくりと腰を伸ばした。

「ほら、通れるぞ」

「どうやったんですか?」

「普通に押した」

「それは見ていましたけど‥‥‥」

「なら、聞くな」

 源蔵さんは平然と答えたけれど、僕には妙な感じが残った。確かに、岩は丸みを帯びていた。下に小石を挟み、動きやすい方向へ押してもいた。

 それでも、68歳の老人が1人で動かせる大きさには見えない。


「腰は痛くありませんか?」

「大丈夫だ」

「腕は?」

「なんともない」

 源蔵さんは、むしろ自分の手を不思議そうに眺めていた。


 道具を直す。

 籠を作る。

 荷車を修理する。

 そうした仕事をするたび、源蔵さんは少しずつ経験値を得ていた。その積み重ねが、体へ何か変化を与えているのかもしれない。だけど今は、確かめる方法がない。

 僕たちは岩の横を通り、道の先へ進んだ。

 そこだけ空気が少し湿っていた。

 落ちた岩が壁から流れる水をせき止め、土に水分が残っていたらしい。

 薄暗い地面に、細長い葉が何本も伸びている。

 葉の中央を走る、銀色の筋。

「銀筋草です」

 僕は思わず、声を小さくした。数えてみると、全部で38本あった。

 大きく育った物が29本で、残りは、まだ採るには早い。

 僕は採取鍬を取り出し、最初の1本の周りから慎重に土を崩した。

 根を切らないように指を入れ、そっと引き抜く。


 《銀筋草を採取しました》

 《経験値を0.01獲得しました》


 久しぶりに聞く声だった。手の中の銀筋草は、傷1つなく、まっすぐに伸びていた。

「源蔵さん」

「なんだ?」

「29本、採れます」

「全部、わしが運んでやる」

「残りの9本は採りませんよ」

「分かっておる。次の分だろう?」

 源蔵さんはそう言って、荷車の上へ布を広げた。

 僕が見つけ、僕が採る。源蔵さんが、傷つかないように並べて運ぶ。

 閉鎖される前にはなかった、僕たちの仕事の形だった。

 岩の向こう側で、銀筋草の葉が静かに揺れている。

 僕は次の1本へ採取鍬を入れた。

 その間も、道の端へ転がされた大岩のことが、ずっと頭から離れなかった。


 あとで受付の職員に聞いたところ。


 あの岩は、調査員の大人4人でも動かせなかった物らしいんだ‥‥‥


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ