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戦えない僕は植物図鑑で生き延びる  ~じぃちゃん、いつの間にか最強になってた~  作者: とも


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13/25

2-3 ゴミは洗ってもゴミなのか

 壊れた荷車を共同住宅へ持ち帰ると、管理人に止められた。

「それを、どこへ置くつもりですか?」

「とりあえず、空いている部屋に‥‥‥」

 源蔵さんが答える。

「空室は物置ではありませんよ」

「なら、廊下で直す」

「邪魔です」

「食堂は?」

「食事をする場所です」

「では、どこで直せばいい?」

「持ち帰る前に考えてくださいよ!」

 昨日も同じようなことで怒られていた気がする‥‥‥

 管理人と話し合った結果、僕たちは元技術室だった部屋を借りることになった。共同住宅になる前は、学校の授業で木材や金属を加工していた場所らしい。

 古い作業台と万力が残っていて、工具はほとんどないけれど、修理をするには十分な広さがあった。

 ただし、使用料として、共同住宅の壊れた椅子を直すという条件が付いた。

「これなら、家賃を取られるより安いだろう」

 源蔵さんが満足そうに言う。

「椅子は何脚あるんですか?」

「17脚だそうだ」

「結構、多くないですか?」

「また、仕事が増えたな!」

 なぜ、うれしそうなのだろう‥‥‥

 僕たちは、持ち帰った物を作業台の上へ並べた。


 壊れた荷車。

 折れた短剣の柄。

 穴の開いた鍋。

 破れた防水布。

 錆びたねじや金具。

 そのほかにも、使えそうな木材を何本か持ち帰っていた。

「まずは荷車を洗うぞ」

 源蔵さんが水の入った桶を用意する。僕は荷台を確認したが土や泥が付いている。

 隅には、枯れた草が挟まっていたけど、危険な魔獣の体液は見当たらなかった。

 ただ、荷台の裏側に薄い緑色の染みがある。

 指で触れず、匂いだけを確認すると少し甘い匂いがした。

「これは、魔力草の汁ですね」

「危険か?」

「毒はありません。でも、そのままだと虫が寄ってきますよ」

「洗えばいいか?」

「普通の水では落ちにくいです。灰を少し混ぜてください」

 源蔵さんは、僕の言ったとおり水へ灰を混ぜた。

 布へ染み込ませ、緑色の汚れをこすった。何度か繰り返すと、染みはかなり薄くなった。


 《ダンジョン由来の汚れを除去しました》

 《経験値を0.01獲得しました》

 また、声が聞こえた。

 僕が植物の種類を見分け、源蔵さんが汚れを落とす。

 2人で作業をしたから、どちらにも経験値が入ったらしい‥‥‥

「これなら、修理だけでも強くなれるかもしれんな」

「0.01ですよ」

「毎日100回やれば1だ」

「毎日100台も拾ってこないでくださいね」

「部屋が足りんな」

「置くつもりなんですか?」

 本気で考えていたらしい。荷車を洗い終えると、源蔵さんは外れた車輪を取りつけ始めた。

 車軸は無事だったけれど、車輪を固定する金具が割れている。

 新品の部品を買えば直せる。

 でも、それではお金がかかる。

 源蔵さんは持ち帰った折れた短剣を分解した。刃と柄をつないでいた金属の留め具を取り出す。

「これを削れば使えるぞ」

「短剣の部品を、荷車へ付けるんですか?」

「金具は金具だ」

「戦うために作られたものですよ」

「今日から車輪を守る仕事に変わる」

 金具にも仕事を選ぶ権利はないらしい。

 源蔵さんは留め具の形を整え、車軸の先へ取りつけた。

 外れていた車輪が、今度はきちんと固定される。回すと、少し音はするけれど滑らかに動いた。

「直りましたね」

「まだだ。荷台と持ち手が残っておる」

 荷台のひびには、廃材から切り出した薄い板を当てる。錆びたねじの中から、使える物を選ぶのは僕の仕事になった。

 植物の葉を見分けるより難しい。

 長さは同じでも太さが違うし、太さが同じでも、ねじ山がつぶれている。

「これは?」

「短い」

「こっちは?」

「細い」

「これは?」

「錆びすぎだ」

「全部駄目じゃないですか」

「使える物を見つけるのが仕事だ」

「植物なら、もう10本は見つけています」

「ねじは歩いて逃げん。落ち着いて探せ」

 草も歩いて逃げないけどな‥‥‥

 それでも、少し悔しかった。

 僕はねじを1本ずつ並べ、太さと長さを比べた。

 その中から、使えそうな4本を選ぶ。

「これなら、どうですか?」

 源蔵さんは、僕の選んだねじを見る。

「悪くない」

「使えますか?」

「3本はな」

「1本は?」

「ねじ山が少し欠けておる」

 見落としていた。でも、最初は全部同じに見えたねじから、3本は使える物を見つけられた。

 植物の見分け方を覚えたときと同じだ。

 知らない物は、どれも同じに見える。

 違いを覚えれば、少しずつ使える物が分かってくる。

 そのとき、作業室の扉が開いた。

 芳江さんが、白いエプロン姿で立っていた。

「昼だよ。いつまでやっているんだい?」

「もう、お昼ですか?」

 窓を見ると、太陽が高いところまで昇っていた。作業を始めてから、3時間近くたっている。

「手を洗っておいで。今日は麺だよ」

「肉は入っておるか?」

 源蔵さんが聞く。

「入っているよ。小さいのが‥‥‥」

「わしの分は?」

「全員で3切れだ」

「少ないな!」

「肉が食べたいなら、稼いできな!」

 芳江さんは作業台の上にある破れた防水布を見つけた。

「それもゴミかい?」

「端が破れているだけです。真ん中は使えます」

 僕が答えると、芳江さんは防水布を広げた。

 厚手の布が2枚重ねられ、間に水を通さない魔獣素材の薄皮が挟まっている。

「縫えば使えそうだね」

「縫えるんですか?」

「食堂をやっていたころは、前掛けも袋も自分で直していたよ」

 芳江さんは布を持っていこうとする。

「待て。それは、わしらが拾ってきた物だ」

 源蔵さんが止めた。

「分かっているよ。縫ってやろうと言っているんだ」

「昼飯のあとでいい」

「頼み方というものがあるだろう?」

「頼んだつもりだ」

「どの言葉が?」

「昼飯のあとでいい」

「それは許可だよ!」

 2人が言い争いながら、食堂へ向かっていく。

 僕は作業台に残された防水布を見た。

 源蔵さんは金属や木を直せる。

 芳江さんは布を縫える。

 僕は付着している植物や魔獣の痕跡を見分けられる。捨てられた物によって、必要な技術は違う。

 もしかすると、この共同住宅には、まだ僕の知らない技術を持つ人がいるのかもしれない。


 昼食後。


 芳江さんは、本当に防水布を縫ってくれた。破れた部分を切りそろえ、端を内側へ折り込む。

 その上から、太い糸で細かく縫っていく。

「縫い目が細かいですね」

「水を通さないようにするなら、隙間を作らないことだよ」

 芳江さんの指は、驚くほど速く動いた。

 あっという間に、破れていた布が小さな防水袋へ変わっていった。最後の糸を切ったとき、芳江さんが目を丸くした。

「また、聞こえたよ」

「経験値ですか?」

「ああ。防水袋を再生しました。0.05だとさ」

「わしの荷車より先に完成させるな!」

「競争じゃないだろうが‥‥‥」

 芳江さんは完成した袋を裏返し、縫い目を確認する。

「これ、売れるのかい?」

「検査に通れば売れるそうです」

「いくらで?」

「分かりません」

「値段も知らずに拾ってきたのかい?」

「源蔵さんが、直せる物を持ってきたので」

「直せることと、売れることは別だよ」

 昨日、芳江さんが言っていた。食べられると、おいしいは別‥‥‥

 それと同じなのかもしれない。

 使える道具を作っても、買う人がいなければお金にはならない。

「まず、完成させるよう」

 源蔵さんは、荷車の新しい持ち手を取りつけた。

 最後のねじを締めると荷台を手で押し、車輪を回す。

 さっきまでゴミだった荷車が、きちんと立っていた。


 《廃棄された荷車を再生しました》

 《経験値を0.30獲得しました》

 源蔵さんが、ゆっくりと立ち上がる。


「0.30だ」

「僕にも0.05入りました」

 ねじを選び、荷台を洗った分らしい。源蔵さんは荷車の持ち手を握り、作業室の中を歩いた。

 車輪から小さな音がする。

 でも、ぐらつきはない。

「これなら、きっと売れるぞ」

「いくらで?」

 芳江さんが聞く。

「それは‥‥‥」

 源蔵さんが黙る。

「検査に通るかも、まだ分かりません」

 僕が付け足す。

 源蔵さんの肩が少し下がった。


 3人で完成した荷車を見る。

 見た目は、古いし荷台には傷が残り、左右の金具は色が違う。

 新品には到底、見えない‥‥‥

 それでも、これはもうゴミではなかった。

「明日、検査へ持って行ってみましょう」

 僕が言う。

「落ちたら?」

 芳江さんが聞いた。

「また直します」

 源蔵さんが答えた。

 ゴミは、洗っただけではゴミのままかもしれない。

 直しただけでも、売り物にはならないかもしれない。

 それでも、使えるようになるまで何度でも直せばいい。

 それは、物だけではなく。


 仕事を失った人間にも、同じことが言えるような気がした。


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