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戦えない僕は植物図鑑で生き延びる  ~じぃちゃん、いつの間にか最強になってた~  作者: とも


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12/25

2-2 じぃちゃん、ゴミを拾いに行く

 共同住宅で暮らし始めて、2日目の朝。

 僕が食堂へ行くと、もう源蔵さんはすでに朝ご飯を食べ終えていた。机の上には空になった器が置いてあった。足元には、大きな籠が2つ並んでいた。

「どこかへ採取に行くんですか?」

「今日は、ゴミを拾いに行もうと思ってな」

「ゴミ?」

「そうだ」

「どうしてですか?」

「金がないからだ」

 胸を張って言うことではないと思う‥‥‥

 僕は席へ座り、芳江さんから朝ご飯を受け取った。

 麦の入ったお粥と、少しだけ漬物。昨日より漬物が1枚多い。

「僕の分、多くないですか?」

「源蔵が自分のを1枚よこしたんだよ」

「余計なことを言うな!」

 源蔵さんが、芳江さんへ怒る。

「嫌いなんですか?」

「違う。育ち盛りに食わせただけだ」

「僕は漬物では育たないと思います」

「なら、返せ」

「もう食べちゃいました」

「早いな!」

 漬物を飲み込んでから、源蔵さんの籠を見る。

 何かを拾いに行くのなら、軍手や袋も必要になる。

「町のゴミ拾いですか?」

「ダンジョンのゴミだ」

 僕は持っていた箸を止めた。

「ダンジョンは閉鎖中ですよ」

「中へ入るとは言っておらん」

「でも、ダンジョンのゴミですよね?」

「話を最後まで聞け!」

 源蔵さんの説明によると、ダンジョンの出口側には大きな廃棄物置き場があるらしい。

 壊れた武器。

 破れた防具。

 穴の開いた鞄。

 探索中に使えなくなり、持ち帰るだけ邪魔になる道具。そういったものを、探索者は回収箱へ捨てていく。

 ダンジョンの中へ置いていけば、魔獣が巣の材料にしたり、通路をふさいだりする。だから、持ち帰った者には少額の回収報酬が支払われるんだ。

 集められたゴミは、管理局の職員が危険物を取り除いたあと、廃棄物置き場へ運ぶ。ほとんどは業者が処分するけれど、その前に再利用できる物を持ち帰れる制度があるらしい。

「そんな制度、初めて聞きました」

「受付に貼ってあったぞ」

「どこに?」

「初心者講習の案内の下だ」

「源蔵さん、初心者講習の案内は読んだんですか?」

「その下は読んだ」

「上も読んでください」

 牙鼠から逃げたことを、もう忘れているらしい。

 朝ご飯を食べ終え、僕たちは高尾山ダンジョンへ向かった。

 ダンジョンは今日も閉鎖されていた。

 普段は探索者で混雑している入口に、人影はほとんどなかった。大きな鉄製の門には、赤い文字の札が取りつけられている。


『安全確認が終了するまで、全面閉鎖』

 門の前には、鎧を着た管理局の職員が立っていた。その奥から、回収作業を終えた人たちが大きな袋を運び出してくる。

 閉鎖直前に置き去りにされた道具を、職員が回収しているらしい。僕たちは建物の裏側へ回った。

 高い金網で囲まれた敷地に、いくつもの箱が並んでいた。


 木材。

 金属。

 布。

 革。

 危険物。


 それぞれ分別されていた。

 山積みになった壊れた道具を見て、源蔵さんの目が輝いた。植物の群生地を見つけた僕も、こんな顔をしているのかもしれない。

「お宝の山だ」

「ゴミの山です」

「同じようなものだ」

「全然違いますよ」

 入口の小屋で、受付のお姉さんが待っていた。

「小森君。今日は採取ではありませんよね?」

「源蔵さんに、ゴミを拾いに行くと言われました」

「再利用品の回収ですね」

「ほら、ゴミ拾いで合っておる」

「言い方‥‥‥」

 お姉さんから、利用方法の説明を受けた。持ち帰れるのは、管理局が所有権放棄の札を付けた物だけ。

 危険物へは絶対に触れない。持ち帰った物をそのまま売ってはいけない。

 修理して売る場合は、必ず再生品検査を受けなければならない。

 そして、持ち帰れる量は1日1人につき籠1つ分。

「なぜ、売るのに検査が必要なんだ?」

 源蔵さんが聞く。

「修理した剣が戦闘中に折れたら、人が死ぬからです」

「当たり前だな」

「当たり前のことを守らない人がいるので、規則があるんです」

 お姉さんは、源蔵さんの新品の短剣を見る。

「高倉さんは、武器を修理して売らないでください」

「まだ、何もしておらん!」

「先に注意してみました」

 僕たちは貸し出された厚い手袋を着け、廃棄物置き場へ入った。金属の箱には、曲がった短剣や折れた鍬が積まれている。

 布の箱には、破れた袋や防水布。

 木材の箱には、折れた杖や籠の枠。

「これは使えるな」

 源蔵さんが、刃の折れた短剣を持ち上げる。

「刃が半分ありませんよ」

「柄と留め具は使えそうだ」

「何に使うんですか?」

「それは、持ち帰ってから考える」

 何を作るかまでは、考えていなかったらしい‥‥‥

 次に源蔵さんが拾ったのは、底に穴の開いた鍋だった。

「穴をふさげば使えるぞ」

「縁も曲がっています」

「叩けば戻る」

「取っ手もありませんよ」

「付ければいい」

「ふたもありません」

「ふたは、なくても煮えるぞ!」

 使えるというより、無理やり使うつもりらしい。

 僕は布の箱を調べた。

 破れた袋の中に、まだ使えそうな防水布がある。

 端を切りそろえれば、採取籠へかぶせる布として使えるかもしれない。

 それを取ろうとしたとき、隣で、源蔵さんが黒い染みの付いた革袋を持ち上げた。

「待ってください」

「なんだ?」

「それには、触らない方がいいです」

「少し汚れているだけだろう?」

「赤舌蛙の粘液なんです。それ‥‥‥」

 袋の表面には、黒っぽい赤色の染みが広がっている。乾いているように見えるけれど、粘液は革の中まで染み込んでいるはずだ。

「洗えば落ちるのか?」

「水をかけると膨らみます」

「革が?」

「粘液が」

「膨らむと、どうなる?」

「大きな泡になります」

「泡なら、つぶせばいい」

「つぶすと破裂します」

「先に言え!」

 源蔵さんが慌てて革袋を戻す。

「まだ触っていませんよね?」

「少しだけ触った」

「手袋を洗ってください」

「厚い手袋をしておるぞ」

「粘液が付いたまま、ほかの物へ触らないでください」

「分かっておる!」

 源蔵さんは、洗浄場所へ向かった。

 しかし、その途中で近くの箱へ手を置きそうになり、職員から怒られていた。

 僕はため息をつき、革袋の横へ危険を示す赤い札を置く。


 そのとき。

 頭の中に声が響いた。


 《危険物を判別しました》

 《経験値を0.02獲得しました》

 植物を採っていないのに、経験値が入った。

 赤舌蛙の粘液は植物ではない。

 それでも、知識を使って誰かの危険を防いだから、経験値を得られた‥‥‥のか?


「どうした、樹?」

 手袋を洗い終えた源蔵さんが戻ってきた。

「危険物を見分けて、経験値が入りました」

「いくつだ?」

「0.02です」

「草2本分か」

「そう、ですね」

「わしの手を止めただけで、草2本分か‥‥‥」

 源蔵さんが少し不満そうな顔をする。

「破裂していたら、手袋を洗うだけでは済みませんでしたよ」

「分かっておる。とりあえず礼は言っておく」

「素直ですね」

「わしは、いつも素直だ」

 それは違うと思う。

 廃棄物置き場の奥まで進むと、大きな車輪が見えた。

 壊れた木材の下に、荷車が埋もれている。

 採取物や魔獣の素材を運ぶための、小型荷車だった。

 片方の車輪が外れ、持ち手も折れている。

 荷台には大きなひびがあり、金具は赤く錆びていた。

 どう見ても、でかいゴミだった。

 ところが、源蔵さんは荷車の前にしゃがみ込んだ。

 車輪を回し、軸をのぞき込み、荷台を裏返す。

「これにするぞ」

「籠に入りませんよ」

「大型品は、1人1つまで持ち帰れるんだ」

 規則だけは、よく読んでいる。

「直せるんですか?」

「車軸は曲がっておらん。外れた車輪も割れていない。持ち手と荷台を直せば、まだ使える」

「新品はいくらですか?」

「知らん」

「売れるんですか?」

「知らん」

「何も知らんじゃないですか」

「だが、直せることは分かる。最近、新しいものも中々手に入らない時代だから、絶対売れる」

 源蔵さんは、壊れた荷車の持ち手を握った。

「使える物を、壊れたというだけで捨てるのはもったいないだろう」

 どこかで聞いた言葉だった。

 僕が、少し傷んだ植物を見つけたときにも同じことを考える。

 葉が虫に食われていても、根まで傷んでいなければ売れることがある。

 売れなくても、薬や食事に使えることもある。

 大切なのは、見た目ではなく、本当に使えないのかを見分けることだ。

「分かりました。持って帰ってみましょう」

「最初から、そのつもりだ」

「でも、どうやって運ぶんですか?」

 源蔵さんが動きを止めた。

 車輪は片方しか付いていない。

 持ち手も折れているし、押すことも、引くこともできない。

「樹」

「嫌です」

「まだ何も言っておらん」

「2人で担ぐつもりですよね?」

「息が合うな」

「合っていません!」


 結局。

 僕たちは壊れた荷車を担ぎ、共同住宅まで歩いて帰った。

 途中で何度も休み、源蔵さんは腰を押さえ、僕は腕が上がらなくなった。使えるようになれば荷物を運べる道具なのに直すまでは、僕たちが運ばなければならない。


 宝の山から持ち帰った最初のお宝は、とても重たいゴミだった。


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