表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダマスクローズ  作者: 木蓮


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/15

民間病院

「急患です!!!!」

ここは避難所の近くにある病院。

毎日たくさんの患者が運ばれてくる。


私はハムザ。ダマスにある国立病院の外科医として働いていた。

内戦がはじまり、政府軍につく者や国外へ移住する仲間もいた。


だけど私はここで、最後まで命を繋いでいくことを選んだ。


……………


私には妻がいる。彼女の名はカメラ。

フリージャーナリストとして働いている。

イスラーンの観光メインとした記事や自身のブログで”言葉”を発信していた。

彼女の綴る文章はとても美しく、心にささると幅広い世代から人気を集める。

だが内戦がはじまり、投稿は控えることになった。

身元がばれ、襲われる可能性があるからだ。

けれどカメラは自分の目でみたことをパソコンに記録している。

いつか…未来へ残すために。



―民間病院―


「ハムザたちに差し入れをもっていこう。」

カメラは病院に素泊まりしているハムザの様子をみにきた。


病院の暗い廊下を歩いていると、奥の方からすすり泣く声が聞こえる。


“ああ。今日も誰かが亡くなった”


彼女はぐっと涙をこらえ、重い足を動かす。


毎日運び込まれる患者さん。

治療して退院しても、また怪我をして運ばれる。

終わりがみえない毎日だ。


「いつまで続くのかしら…」溜息をつきながら彼のいる場所へ向かった。


ドアをノックし彼がいる診察室を開けた。

「あなた、大丈夫?」


「カメラきてくれたのか。ありがとう。」笑顔でいうハムザだが、彼の顔は疲れてきっていた。


助けられなかった悔しさと内戦への怒り。

そして何より医師として命の尊さを知っているからこそ、苦しかった。


内戦がなければ、今も生きているはずなのに。


終わりがみえない辛い日々が続く。


そんなある日、異国の女性が手伝いにきた。

彼女はリリーというシンからきた留学生。


「ここで私にできることはないでしょうか」そう申しでてきたのだ。


祖国へ帰還すればいいのに……

わざわざ危険なイスラーンにとどまりたいという。


彼女は軽傷者へのサポートや心の傷を抱えた患者さんへのメンタルケア、

そして親を亡くした子どもたちの学力サポートを率先して行った。


もちろん最初から上手くいくわけではなかった。

外国人ということもあり、患者さんとうまくいかず、ときには怒らせてしまったこともあった。


彼女も戦争の被害者ではあるが、自分が育った町や国が壊れていく怖さや不安をイスラーン人と共有することはできない。

そしてなにより、大切な人を失った悲しみを理解できないと、受け入れられなかった。


だけど彼女はめげずに何度も患者さんのもとへ通いつづけた。


その様子をみた私たち医師やボランティアは、彼女の行動力に幾度も励まされた。


終わりがみえない辛い日々から、希望という光が少しずつ照らしはじめた。



「ハムザさん、おはようございます!」

「カメラさん、来てくださったんですね!」

「みてみて!綺麗な花が咲いていますよ!」

「おばあちゃん、今日もお天気いいですよ~」

「みんな~今日は算数の勉強するわよ~!」


明るい元気いっぱいな声が病院を明るくする。

彼女と出会えば、花がぱっと咲いたような笑顔を向けてくれる。


そんな彼女を見てきて、患者さんたちも受け入れるようになっていった。

そして時間がたつにつれ、ここにいる人たちは、”家族”のようになっていった。


……………


「ははは!」

「うわ~綺麗!!」

「上手上手!!」

「よし、あと999枚折るわよ!」


ある部屋から元気いっぱいな声が聞こえる。


カメラは、声のする方に足を向けた。

そこには、リリーとたくさんの患者さんが四角い紙を折っていた。


「リリーさん、何をしているの?」


「カメラさんこんにちは!これは千羽鶴です。」

「私の国では千枚の鶴を想いを込めて折ることで、願い事が叶うと言われているんです。」

「せっかくだから、みんなでやったら楽しいかなって!」


楽しそうに鶴を折りながら言うリリー。


周りにいる患者さんたちもリリーにつられ、笑顔で折り紙を折る。


彼らたちはとても生き生きとしていた。


カメラは民間病院にハムザときてから、たくさんの患者さんの姿をみてきた。


大切な家族を失って悲しみから立ち直れない人。

身体が不自由になった現状を受け入れることができず自殺をしようとする人。

生きることが辛くて、寝たきりになってしまった人。


その姿をみてきたからこそ、今の生き生きとした姿を見て気づいたことある。


“自分にも何か人のために出来る事がある“という存在欲求が、生きる意味を見出せるのではないか。


そこからカメラはパソコンに感じたことを記録していった。


大きな傷を背負って生きていく人たちと共にこの内戦を乗り越え、いつか平和が訪れた時、二度と同じ過ちを踏まないように何か未来へ残したいと考えた。


それからカメラはシャフィたちと映画を作ることにした。

その映画は戦争で被害にあった人たちの生き様を映した。


残されてる人はずっと心に抱えて生きていく。


そして未来へ受け継がれるように、並行してある詩を作った。


ひとつひとつ皆の願いが込められた千羽鶴をみて、パソコンに言葉を綴った。



―1年半後―


戦争がはじまってから1年半が経った。

毎日が地獄ではあったが、今思えばあっという間だったかもしれない。


集いの場所であるホールには、唯一テレビが設置されておりニュースを皆でみるのが日課だ。


「速報ニュースです!!」

いつものニュースから、急にダマスの中心地であるパルミラ城が急に映し出された。

そこには国王がマイクの前に立っていた。


「なにごと?」「え!国王?!」「内戦が終わるのかな?」

みんなが釘付けになってテレビの画面をみる。


どうやら国王が公開演説をするようだ。


「私はイスラーンの王、シャムス。突然の演説にも関わらず多くの者に集まっていただき心より感謝する。」


本来は堂々と立ち振る舞うべき国王が、深く頭を下げたのだ。


パルミラ城に集まった、市民の驚く声が聞こえる。


そしてシャムス国王は言葉をつづけた。


「内戦がはじまってから、1年半が経った。」

「2万3700人。この内戦で犠牲となった数だ。」

「そのうちの一人に私の妻もいる、先月の空爆で亡くなった。」


「妻を失ってから気づいた。」

「彼らの未来を奪ってしまったのだと…」

「そして誰かの大切な命を奪ってしまったのだと。」


「なぜこのようなことが起きてしまったのか…」

「本来国民は守るべき大切な家族であるはずが、私欲のために武力で抑圧した。」

「自分を脅かすものを恐れ、他人の命を奪うことを選んだのだ。」

「今になっては、人を殺す道具を平気で生み出す人間が恐ろしく思う。」


「国王である私の力不足により、政府軍、反政府軍、そして巻き込まれた国民たちのたくさんの命を失ってしまった。」


「謝っても許されるべきでないことをしてしまった。」

「大変申し訳なかった。」


シャムス国王は頭をもう一度深く下げた。


「私はこれ以上大切な家族を失いたくない。」

「政府軍は、今日をもって武器を捨て内戦を終わらすと誓う。」

「反政府軍よ。どうかこれからの未来を共に力を合わせてほしい。」


「私はこの過ちを一生背負って生きていく。

本来の人情溢れるイスラーンをつくっていくためにも、まずは政権から変えていきたい。」


「王政から共和制国家にする!!」


城の前にいる市民からたくさんの歓声が聞こえた。

わぁああああああああああああ!

映像も市民を映した。


テレビをみている私たちも、希望がみえた!と心がほっとしていた。


「内戦がやっと終わる...!」「シャムス国王はやっぱりいい人よ」「あともう少しの辛抱ね!」



画面から大きな音が聞こえた。

パンパンパン!!!!


「え……?」


拳銃の音だ。


映像は国王を映した。

国王を守るように、ある男性と国王は倒れていた。


どちらかの血が、地面に流れる。


映像がアップされた。

かばった男性はブロンドヘアで、イスラーン人ではない見た目だった。

国王は彼の撃たれた場所を止血している。


打たれたのは国王ではなく男性のようだ。


テレビをみていた者たちは、悲しみで静まり返った。


警察が城を囲い、すぐに医師たちきてタンカーで彼らを運んだ。

そこで中継は途絶えてしまった。


ハムザが患者さんたちに部屋に戻るように声をかけた。

「みなさん、もうすぐ朝食の時間です。部屋に戻りましょう。」


するとガタン、と後ろから音がした。


音をするほうへ振り向くと、膝を落としたリリーがいた。


「ノア…ノア…」涙を流し、口をおさえながら震えていた。


どうやら撃たれた男性は彼女の知り合いだったようだ。


泣き崩れる彼女に、周りにいる患者さんや看護師が彼女の背中をさすった。

「リリーさん…きっと大丈夫だ。」「すぐにお医者さんに運ばれただろう?」


真っ青になっていた。

彼女にはみんなの声が聞こえていないようだった。


その日から、彼女は時より悲しい顔をするようになった。

だけど私たちの前では、いつもと変わらない姿を見せた。


………………


ある日深夜に病室を見回っていたところ、ある部屋からリリーの声がした。


千羽鶴の前で、何度も彼の名前よびお祈りをしていた。


「ノア…ノア…

お願い…ノアを連れていかないでください。」


ハムザはカメラを呼び、一緒に彼女をそっと抱きしめた。


「ここにいるみんなはあなたに救われた。」

「あなたは大切な家族よ。一人じゃないわ。」


あれから人前で涙を流すことができなかったリリー。


一生分ってぐらいの涙を流した。


その後、落ちたいたリリーは2人にお礼をいった。


「ハムザさん、カメラさん‥

そばにいてくれてありがとうございました。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ