真の優しさ
「ばかだねえ。戦争なんて愚かなことを。」
リリーは一人のおばあちゃんと出会った。
彼女の名前はパメラ。御年、73歳の元気いっぱいなおばあちゃんだ。
「こんな不便なところじゃ何もできやしないよ!」
「こんな食事じゃ死んじまう!」
生まれ育った故郷からここに移動してきたが、以前のような生活が送れない環境に毎日パメラは小言を言う。
「みんな精一杯生きているのに…」
「何もしていないくせに…」
パメラの言動に不快に思う人も多く、あまり彼女に近づく人は少なかった。
「見えない未来に不安なのよ。」パメラを担当する看護師さんはいう。
リリーはパメラと仲良くなってから知ったことがあった。
彼女は、旦那さんを数年前に亡くした。
娘も孫も国外に住んでおり、内戦がはじまる前から移住するよう提案していた。
だが、パメラは旦那さんとの思い出の地を離れることを拒んだのだ。
■■■■■
「パメラさん。今日のご飯ですよ~!」リリーは元気いっぱいに声をかける。
「なんだい。こんなのじゃ足りないだろう!」パメラは文句を言いながらもご飯を手にする。
パメラの一日は決まっている。食事以外はいつも外を眺めている。
少しずつ避難所の生活は改善されているが、まだまだ以前のような自由もなく、生きづらい環境だ。
「パメラさん、以前はどんなことをして過ごしていたんですか?」
「なんだい。お前さんは。私なんかと話してもつまらないだろう。」
「いいえ!パメラさんのこと知りたいんです。」
「変な子だねぇ…。
家庭菜園と編み物が趣味でね。よく旦那と一緒によくやったものだよ。」
懐かしいそうに話すパメラは、少し寂しそうだった。
「旦那さんも編み物を??」
「うちは編み物で作った商品を売り物にしていたのさ。」
そういい、以作った作品を見せてくれた。
驚くことに、どれも素敵な作品ばかりだった。
それをみたリリーはあることを思いついた。
「編み物教室を開きましょう!!先生はパメラさんで!!」
リリーは早速必要な材料を支援者にお願いをした。
「お前さん、何いってるんだい!私に習いたい人なんているはずがないさ!」
「そんなことに準備してもらうお金がもったいないさ!」
「いいえ、パメラさん。まず私が習いたいんです。」
「それに、こんなつまらない毎日より、何かした方が楽しいじゃないですか!」
「それが自分のためであっても、いつか誰かのために繋がるかもしれない。」
「呆れた…仕方ないねぇ。私は口がうるさいから覚悟しなよ!」
それから編み物教室は、週3回開くことになった。
はじめはパメラさんを毛嫌いする人も多く、参加者はすくなかった。
だけど作った作品を共有したり、編み物教室から聞こえる笑い声につられ、日に日に参加者の人数が増えていった。
言葉足らずのパメラさんは、誤解をまねくことも多かった。
「あんたは下手くそだねぇ」「何を作ったんだい?…虫?」「話を聞いていたかい!」
腹を立てる人もいたけれど、少しずつパメラなりの愛情だと受け入れるようになった。
実は普段の悪口も、不満を声に出せない人のために、代わりに大きな声で言っているそう。
「ふふ、本当は優しい人なんだから!」みんな笑いながらパメラを見る。
「うるさいわい!!もう教えんぞ」真っ赤になってパメラは安定の大きな声をあげた。
…………
部屋から夕陽を眺めながらパメラはリリーにお礼をいった。
「リリーさん。お前さんのおかげだ。」
「この年になると、どうしても他人と関わりたくなくなるのさ。」
「だけど編み物教室で皆と話して、心に空いた穴が少し埋まったきがしたよ。」
「こちらこそ!不器用な私に根気よく教えてくださりありがとうございます!」
「本当お前さんの不器用さに困ったもんだよ…」
リリーがはじめて作った作品をみて2人は声をだして笑った。
「「ははははは!」」
その作品は、パメラの松葉杖にマスコットとして飾ってあるのだ。
………………
ある日、パメラからイスラーンについて教えてもらったことがあった。
「リリーさんよ。
イスラーンを嫌いにならないでおくれ。
本来この国は温かく、外国人であっても誰にでも愛を与える、人情のある国だったんだ。
イスラーンに住む人々を家族だと思い、手を差し伸べてくれた国王が大好きだった。」
「だけどいつしか、欲望に目がくらみ、大切にするはずのものが見えなくなってしまった。」
「国民である家族を殺し、互いに自分たちが正しいことを武力で証明する。」
「だけどねぇ、争いは何も生まれない。ただただ、大事な人を失い、心に大きな傷ができる。」
「誰かを殺めたり、傷つけるということは、自分も自ずと傷つけることになる。」
「その人の人生を奪うのさ。」
「その重みを背負ってこれから生きていくことができるんかぁ。」
「命というものは本当にあっけないものだよ…銃一発で奪われてしまうのだから」
ポツリポツリ話すパメラさんは、とても悲しそうな顔だった。
彼女は旦那さんと過ごしたこの国を、心から愛していたのだ。
■■■■■
ある日パメラが病気にかかってしまった。
十分な栄養がとれないここでの生活に免疫力が低い高齢者には辛い生活であった。
もう助からないと医師に言われたのだ。
最後はリリーと看護師で看取ることになった。
「パメラさん…」リリーはパメラの手を握る。
「私はたくさん生きたさ。もう後悔することはない…」
「リリーさん。ここでの暮らしは辛かった…
けれど、あんたに出会えてから毎日が昔のように騒がしくて、楽しかった………本当にありがとう。」
その後眠るようにパメラは亡くなった。
「リリーさんよ。イスラーンを嫌いにならないでおくれよ。」
以前パメラが言った言葉を思い出した。
「パメラさん…ゆっくり休んでください。私にイスラーンのこと。命の大切さをたくさん教えてくださりありがとうございました。」
リリーは涙流しながらパメラ冷たくなった手を握る。
外国人である私にイスラーンの内情をお教えてくれる人は少なかった。
だけどパメラさんは、私がこれから生きていくために教えてくれた。
言葉足らずで、言い方が厳しくて、誤解をまねきやすい人だったかもしれない。
でも本当は他人を想う、愛溢れる素敵なおばあちゃんだった。
………………
パメラは目をひらくと、昔旦那さんと住んでいた家があった。
家の前には、見慣れた古い椅子がある。
そこにある男性が腰をかけていた。
「ばかだね。私をおいて先に逝ってしまって」
「これまでよく頑張ったなぁ。ありがとう。これからは一緒だよ。」
手を差し伸べた旦那さんの手をパメラは握った。
ぎゅっと握った手を、もう二度と離さないように。




