表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋のチカラ  作者: 夢遥
2/5

恋のチカラ

実紅が真鍋先輩を想う気持ちを知りながら、先輩が助けた猫を通じて、先輩との距離が縮まっていく莉菜ー。

 果たして、恋の行方はー!?


 ある日、そんな様子に気づいた実紅は、それとなく聞いてきた。


「莉菜ー。最近、祐希先輩と仲が良いね」


「えっ……」


 あたしは、ドキッとさせた。


「わかった!祐希先輩と猫の話してるんでしょ?」


「う、うん……」


 実紅に、先輩がポップのことを助けて、うちで飼うようになったことは報告していた。


「でも、変わったよねー、莉菜。あんなに、祐希先輩のこと怖がって、近づけないでいたのにー」


「それは、実紅が言うように、良い人だってわかったから……」


「そっかそっかー。やっと、先輩の良さをわかったかぁー」


 実紅が、嬉しそうに微笑んだ。


「わかったけどー。今日もケンカして、先生に怒られていたみたい……」


 今朝、学校に来るなり、先輩と不良仲間が下級生をシメていたのを、1年生が目撃していた。


「それは、前にも言ったけど、先輩には理由があるのよー」


「どんなー?」


「んー?例えば、いじめっ子をシメてるとか?」


「……」


 理由はどうあれ、ケンカはよくない。


「ね、それより。今日はいい天気だし、お昼は外で食べない?」


「いいけど、気が早くない?まだ、3時間目の休み時間なのに」


 あたしは、苦笑いをする。


「実は、お腹が空いちゃってー。朝、時間がなくて、ご飯抜いたからかもー」


 実紅は、恥ずかしそうに、自分のお腹をさすった。




「今日は、暖かくて気持ちいいー!」


 あたしは、ウインナーを口に頬ばった。


 お昼になって、約束通り、外でランチタイム。


「莉菜ー。あたしの卵焼きをあげるから、そのウインナーちょうだい!」


「いいよ!」 


 あたし達は、それぞれのおかずを交換しながらランチを楽しんでいると、実紅が急に食べるのやめて、視線を横の方へ向けた。


「あ、祐希先輩だー」



 先輩は、珍しく独りでお昼を食べていた。


 あたし達の視線を感じたのか、こっちに歩いてきた。


「藤井。ポップは元気か?」


 真鍋先輩は、あたしに声をかけた。


「あ、はい。写メ、撮ってきたから観ますか?」


 あたしは、携帯をスカートのポケットから出すと、ポップの写真を見せた。


「また、少し大きくなったんじゃないのか?」


 先輩は、写メを見ながら、微笑んだ。


 ポップの話をすると、先輩の表情が穏やかになる。


「毎日、暴れまくっているせいか、食欲旺盛なだからかな?」


「あいつの話を聞いたら、会いたくなってきたなー」


 先輩は、淋しそうに写メを見つめた。


「あのー。良かったら、ポップ、連れてこようか?……でも、学校に連れて来るのは無理かなー?」


「じゃあ、日曜日の1時頃、校舎裏に連れてきてくれるか?」

 先輩は、1つ提案した。


「あ、あのー。あたしも、莉菜と一緒に行ってもいいですか?」


 今まで、話を聞いていた実紅が、口を開いた。


 先輩が、じろっと実紅に目を向けた。


「あ、あたしの友達の早川実紅」


 あたしは、慌てて自己紹介をする。


「早川……?」


「先輩ー。実紅のこと知ってるのー?」


 先輩が、実紅のことを知っているような素振りだったので聞いてみた。


「あ、ほら!文化祭の時も会っているし、それでじゃないのかな?」


 でも、先輩の代わりに、実紅が応えた。


「……」


 それもそうかー。文化祭の時に会っているし、同中だって言っていたし。


「先輩、実紅もポップに会いたがっていたし、一緒にいいかな?」


 あたしは、話を戻すと、先輩に聞いてみた。


「いいぜ。一緒でもー。じゃ、日曜日

にな」


 先輩は、それだけ言うと、さっさと行ってしまった。


「莉菜ー。ありがとう!」


 先輩が行ってしまうと、実紅が嬉しそうに、あたしに抱きついてきた。


「実紅が、先輩のこと好きなのはわかっているし、協力するのは当たり前だよー」


「感謝ー!それはそうと、祐希先輩笑うようになったね」


「ポップの話だからじゃないかな?」


 いつもは、クールでいつも怖い顔をさせているけど、ポップの話になると、人が変わったように笑ってくれる。


「でも、笑った顔も素敵だわー。よし、決めた!告白できないと思っていたけど、もっと、先輩に近づいて、告白できるように頑張る!莉菜ー、協力して」


 実紅は、両手を合わせた。



「うん。わかった」


 この時は、何気なく返事をしたけど、あとで、自分の気持ちに気づくことになるなんて、考えもしなかった。




「真鍋先輩!お待たせー」


 日曜日ー。


 実紅と待ち合わせをして、ポップを連れて約束の時間に、学校の校舎裏へ行った。


「みゃー!」


 ポップもバックの中から顔を出した。


 何処に入れてこようか迷っていたけど、ポップがバックの中で何故か、落ち着いていたのでそのまま連れて来た。


「おー!ポップ、元気だったか!?」


 先輩は、子供のように無邪気な笑顔で、ポップの頭を撫でた。


 ポップも喜んでいるのか、先輩の手にじゃれていた。


「可愛いー!祐希先輩、あたしも抱っこしてもいいですかー?」


 実紅は、先輩に寄り添うように、近かづいた。


「ああー」


 先輩は、実紅の腕にポップを抱かせてあげた。


「あー、そうだ。これ、やるよ」


 先輩は、思い出したように、ビニール袋の中から、キャットフードや猫じゃらしなど、色々な種類の物を取り出した。


「えっ、こんなに、貰ってもいいの?」



「全部、ポップに買ってきた物だから」


 恥ずかしそうに袋ごと、あたしに差し出した。


「ありがとうー」


 あたしが、袋を受け取った時だった。



「いたっ!!」


 実紅が、小さな悲鳴をあげた。



「どうした?」


 真鍋先輩が、実紅の方に目を向けた。


「じゃれていたら、ひっかかれちゃった……」


 自分の指を、ハンカチで押さえた。


「大丈夫か?」


 先輩は、パッと実紅の手を掴んだ。


「ゆ、祐希先輩……。あの、少し血が出てるくらいだから大丈夫ですー」


 実紅は、恥ずかしそうに先輩に言った。


「あたし、絆創膏持ってる」


 あたしは、急いでバックから取り出した。


 真鍋先輩は、あたしから絆創膏を貰うと、優しく実紅の手に貼ってあげた。


 ドクンドクン……。



 2人を見ていたら、急に息苦しくなって、心臓の鼓動が速くなる。


 あれ?どうしたんだろう……。



「先輩も実紅も、ありがとう」


 あたしは、実紅の声にハッとする。



 何だろう。この気持ち……。


「あの……、先輩。あたし、そろそろ帰ろうかなー」


 あたしは、ポップを入れようと、バックのチャックを開けた。


 でも、先輩は、あたしの声に耳を傾けず、実紅のことを見つめていた。


「あ……あの。先輩?」


 もう一度、呼んでみた。


「あ、ごめん。何?」


「そろそろ、帰るって言ったんだけど……」


「おー、悪かったな。わざわざ」


 先輩は、ポップを抱き上げると、バックの中に入れた。



 どうして、実紅を見ているのー?


 あたしは、何だかモヤモヤした気持ちのまま、帰ることにした。



「先輩に絆創膏、貼ってもらっちゃったぁー」


 実紅は、貼ってもらった方の手を嬉しそうに見つめた。


「良かったね……」


 喜んであげるべきなのに、何故か喜べない自分がいた。




 モヤモヤした気持ちのまま、何日か過ぎたある日のこと。



「おはよー、藤井。これ、ポップにー」


 朝、学校へ行くと、昇降口で待ち伏せしていた真鍋先輩が、紙袋を差し出した。


 袋の中を見ると、この前、貰った猫じゃらしとは別に、違う種類の物や猫缶などが入っていた。


「えっ、こんなに?」


 あたしは、びっくりして先輩の顔を見た。


「見かけると、ついポップに買ってあげたくなってー」


 先輩が、照れた顔で言う。


 顔に似合わず、先輩って、溺愛なんだぁー。



「おはよー!莉菜」


 いつの間にか、実紅が横に立っていた。


「実紅、おはよー!」


 あたしは、元気よく挨拶をした。


「どうしたの?こんな所で立って」


 実紅は、あたしが持っている紙袋に目をやった。


「え……と、これは、ポップにプレゼントだって。本当に先輩って、ポップが大好きだよねー」


 あたしは、苦笑いをした。


「そうなんだー?」


 実紅は、チラッと先輩を見る。


「あ、あたし。朝、先生に呼ばれていたんだ……。実紅、先に行ってるね」


 本当は呼ばれていないのに、実紅に気を使ってあたしは、教室へ行こうとした。


「藤井、ちょっと、まった!アドレス教えてくれ。ポップの写真を撮ったら、俺の携帯に送ってほしいんだ」


「え?あ、はい……」


 せっかく、理由をつけて、先輩と2人きりにしてあげたのに……。


 あたしと先輩は、アドレスを交換した。


 でも、実紅には悪いけど、何だか、先輩とアドレスの交換するのが嬉しいー。




「莉菜ー。朝、先輩のメアドを教えてもらったよねー?あたしにも、教えて!」


 昼休みー。


 お弁当を食べ終わると、実紅が両手を合わせた。


「……教えてあげたいんだけど、真鍋先輩に聞いてみないとー」


 あたしの口から、ポロッと言葉がこぼれた。

 何言ってるんだろう。あたし……。

 実紅に協力するって言ったのに……。



「もしかして、莉菜ー。祐希先輩のこと……」


 実紅が、ボソッと呟いた。


「え?」


「ううん。ごめん、無理言って。無断で聞いたら、先輩に嫌われちゃうよね」

 実紅は、残念そうな顔をさせた。




「こら、ポップ!そこで爪とぎしないで」


 その日の夜。

 自分の部屋で宿題をやっていたら、ポップがクッションに爪をたてていたので、あたしは、ポップを叱った。


「みゃー!」


 ポップは、つぶらな瞳であたしを見る。


 ポップの顔を見ると、それ以上、怒れない。

 あたしは、先輩からもらった猫じゃらしを袋から出した。


「ほらー、真鍋先輩に貰った猫じゃらしで遊んでて」


 ポップに向けて、シャラシャラと猫じゃらしを動かした。


「みゃーみゃー!!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねながら、ポップが猫じゃらしに飛びついてきた。


 何て、可愛いのー!!


 そうだ、写メ撮って先輩に送ってあげよう。

 早速、写真を撮ると、先輩に送った。



 ピロロ……。

 何分か経って、先輩からメールの返信が返ってきた。


『ポップの写真、サンキュー』


 先輩のメールは、一言だったけど、何だか凄く嬉しい。


 そういえば、前と違って真鍋先輩に会えるだけで、嬉しい気持ちが増えてきたようなー?


 何だろう、この気持ち?




「げ!もう、こんな時間!」


 翌日の放課後。


 実紅が、日直だったので、待っていたら、外は薄暗くなっていた。


「ごめん!莉菜。付き合わせて」


 昇降口で実紅が、靴に履き替えながら、あたしに言う。


「真鍋!また、お前は……」


 山口先生の声が昇降口の外に響いた。


 真鍋先輩と、山口先生が言い合いしているのが目に入った。


「いいだろ!そんなことでいちいち指図を受けられるか!」


 真鍋先輩は、じろっと先生を睨んだ。


「祐希先輩、どうしたんだろうね……」


 実紅が、心配そうに先輩を見つめた。


「もういい。この話は、もう終わりにしようー。明日は、必ず出るように」


 先生は諦めたのか、さっさと、職員室へ戻っていった。



「ー何だ。見られてたのか」


 先生が行った後、先輩は、あたし達に気づいて、気まずそうな顔をした。


「何かあったんですか?」


 実紅が、直接先輩に聞いてきた。


「ああー。ここのところ、授業サボってるから、説教されていたとこ」


 うちの学校は、大学までエスカレート。でも、授業をサボったりしていると単位がとれず進級できなくなる恐れがある。



「祐希先輩ー。先生の言う通り授業に出ないと、留年になったら大変だし、明日からでも出たほうがいいかも」


「わかってる。でも、授業中でもクラスの奴がビクビク俺を見るのも、イラッとして授業を受ける気分じゃなくなるんだよなー」


 先輩は、チッと舌打ちをする。


「先輩のこと、怖がっている奴がいたら、本当は怖くないって、あたしが証明してあげます!」


「サンキュー、早川ー。じゃあ、俺帰るわ。藤井も、またな」


「ま、また明日……」


 あたしは、軽く手を上げた。


 先輩は、正門の方へ歩き始めた。


 実紅は、淋しそうな顔で、先輩の後ろ姿を見つめた。


「ほら、実紅ー。先輩と一緒に帰ったら……?」


 あたしは、実紅の様子に気がついて、気を使う。


「ありがとう!莉菜。……祐希先輩ー!!」


 実紅は嬉しそうに、先輩のもとに走って行った。


 先輩は、実紅の声に振り向くと、2人で少し話した後、実紅と肩を並べて、歩き始めた。


 実紅は時折、笑みを浮かべながら、じゃれるように先輩の腕に手をやった。


 ズキン!!



 急に、胸が締めつけられて、喉の奥が熱くなる。



 この間から、実紅が先輩の隣にいるだけで、胸が苦しくなる。


 今まで、気づかなかったけど……。

あたし、真鍋先輩のことが好きなんだ……。


 実紅に協力するなんて言いながら、あたしも先輩のことが好きなんて言えない。どうしよう……。



 その夜ー。


 真鍋先輩から、メールが届いた。


『また、ポップの写真、撮れたら送ってくれるか?』


「……」



 メールの内容は、ポップのことだけど、ささいなことでも、先輩からメールが届くだけでもって嬉しかった。


「いいですよ。今度、コスプレしているところでも送りますね!」


 早速、メールの返事を返した。


「ポップ、お前はいいねー。いつも先輩に、気にしてもらえて」


 あたしは、ポップの頭を撫でながら呟いた。


 何分か経ってから、先輩からのメールが返ってきた。


『コスプレ、いいねー!明日、学校が終わったら、一緒に買いに行かないか?』


「え……」


 実紅を差し置いて、先輩と買い物になんて、行けないー。


「断ろう……」


 あたしは、断りのメールを入れたけど、いつならいいのか、先輩からメールが返ってきた。

「いつなら、都合がいいのか聞かれても、無理だよ……」


 あたしは、そっと唇を噛み締めた。





 それから、何日か経ったある日のことー。


 先生に雑用を頼まれて、昼休み、みんなに配るプリントを職員室まで取りに行くと、また、真鍋先輩が山口先生に捕まっていた。


 よくは聞こえないけど、先生は困った顔で溜め息をついていた。


 多分、単位の話なのかも知れない。



 あたしが、先生からプリントを預かって、職員室を出る頃には、真鍋先輩も、先生との話が終わったのか廊下へ出てきた。


「藤井ー」


 先輩は、あたしに気がついて、声をかけてきた。


「真鍋先輩……。ーまた、先生にお説教されていたんですか?」


「この前の話の続きさ」


 先輩は、平然とした顔で応えると、あたしの腕を掴んだ。


「ちょ、ちょっと。先輩!あたし、教室に戻らないとー」


 あたしは、慌てて先輩の手を振り払おうとした。


「話があるんだ。すぐ、すむからー」


 強引に、あたしを屋上へ連れて行った。



「何ですか?話って……」


 屋上へ行くとあたしは、先輩から目を逸らしたまま聞いた。

「話って言うのは、メールのことなんだー。どうして返事、くれないんだ?」


「どうしてって……。予定が入っていて、一緒に買いには行けないってメール入れました……」


 あたしは、先輩に嘘をついた。


 本当は、予定なんて入っていないー。


「予定が入っているのはわかった。でも、少しくらいなら時間作れるだろ?」


「……」


 あたしは、ただ、左右に首を振ることしかできなかった。


「じゃあ、いつならいいんだ?」


「……あ!そうだ。実紅も誘って、明日、学校が終わってからなら……」


「早川も?」


 先輩は、キョトンとしながら、あたしを見る。


「み、実紅もポップのことー、か、可愛いって言っていたし……」


 あたしは、しどろもどろになってしまう。


「……わかった」


 先輩は少し考えた後、低い声で返事をした。



 教室に戻ったあと、実紅に話をしたら当然、大喜びだった。


「ありがとう!莉菜」


「あ、明日ー。学校が終わったら、正門の所で待ち合わせだから……」


 あたしは、無理に笑顔を作った。



 本当は、先輩と2人で行きたいー。

でも、実紅のことを考えると、そんなこと、とても言えなかった。




「お願い!莉菜。帰りのことなんだけどー。途中で祐希先輩と2人っきりにさせて」


 翌朝、学校へ行くと、実紅は教室に入ってくるなり、あたしに頭を下げた。


「え……」


 あたしは、言葉が出てこなかった。


「昨日の夜、考えたんだけど、こんなことめったにないしー。今日、思いきって、告白しようと思うの」


「……!!」


 あたしは、実紅の言葉に絶句した。


「ね!だから、お願い」


 実紅に、懸命にせがまれて、あたしは、頷くことしかできなかった。




 学校が終わると、約束通り真鍋先輩とポップのコスプレ衣装を買いに行く。


「ねえ、これなんかいいんじゃない?」


 ホームセンターのペットコーナーへ行くと、実紅が衣装を手に取って、あたしに見せた。


「本当だー」


 実紅が告白宣言してから、今日は気になって、勉強どころじゃなく、今も買い物に集中できないでいた。


「何よ、気のない返事してー」

 実紅が不満そうに、唇を尖らせる。


「こっちのも、ポップに似合いそうだなー。どうだ?」


 横で、真鍋先輩がモコモコの衣装を手に取った。


 確かに、ポップに似合いそうだ。


「莉菜、先輩が選んでくれたのしてみたらー?」


 莉菜が、横から口を挟んだ。


「うんー。それに、決めようかな」


 少し考えた後、先輩が選んでくれた衣装に決定した。


 あたしが、商品を買って2人のもとに戻ると、実紅があたしの耳元で言った。


「莉菜、ごめん。そろそろ先輩と2人っきりにさせて」


「……うん」


 あたしは、重い気持ちで返事をした。


「祐希先輩ー!莉菜、このあと用事があるみたいで先に帰るみたい」


 実紅は、先輩に嘘をつく。


「じゃあ、送ってく」


 先輩は、そう言ってくれたけど、あたしは実紅に気遣って、嘘をついた。


「だ、大丈夫……。独りで帰れるから」


 あたしは、その場から逃げ出すように歩き出した。


 ズキンズキン……。


 あたしの心臓の鼓動が、大きな音をたてながら、速くなっていった。


 もし、先輩が実紅の告白にOKしたらどうしよう……。


 そう思った瞬間だった。


「藤井ー!」


 真鍋先輩が、慌てて後から追いかけてきた。


「これも、ポップにプレゼント」


 さっきの、モコモコの衣装とお揃いの帽子をあたしの手に渡した。


「ありがとうー。お揃いで、着せてみる……。先輩ー。でも、もうこれでプレゼント貰うのは終わりにします」


「んー?」


「先輩がポップのこと、助けたし可愛いのはわかるけど……。これ以上、先輩に何かしてもらう筋合いはないしー」


 あたしは、先輩から目を逸らしたまま言った。


「俺、藤井のことが好きだから、何かしてあけだたいんだー」


「え……?」


 先輩の言葉に、あたしは自分の耳を疑った。


「助けた猫の飼い主になったからって、好きでもない女に物とかあげるわけないだろ」


 先輩は、顔には出していないけど、照れているみたいだった。


 突然の告白に、あたしはびっくり!!


 嬉しくて、心が温かくなる。


「急に、悪いー。こんなこと……。ポップを理由にどこかで、藤井とつながりがほしくて、メールしてた」


「……」


「藤井ー。俺と付き合ってくれないか!!」


「……!!」


 これから、実紅が告白しようとしている時に、先輩の気持ちになんて応えたらいいんだろう……。



「あ……あたし、先輩とは付き合えない。今まで言えなかったけどー。本当は、先輩みたいな不良は嫌いなの!!」


 こんなこと、言うつもりはないのに、思っていないことが口から出てしまう。


「わかった……」


 先輩は、ボソッと一言だけ言うと、あたしに背中を向けて歩き出した。



 ズキンズキン……!!


 ごめんなさい。先輩ー!!


 始めは、不良は嫌いって思っていたけど、今は、そんなこと思ってない。



 あたしは、ただ、先輩の後ろ姿を見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ