恋のチカラ
突然、真鍋先輩に告白されて、嬉しいはずなのに、先輩に告白すると言っていた実紅のことを思うと、素直に受け入れられずにいた莉菜。
「不良は嫌い」と、断ってしまったけど、なかなか忘れることができない。
そんな中、真鍋先輩と実紅の様子がおかしくてー!?
昨夜は、全然、眠れないまま朝を迎えたー。
昨日、実紅の告白、どうなったのかな……?
そんなことを思いながら、学校へ行く。
「お、おはよー。実紅」
昇降口で、上履きを履き替えて、教室へ行こうとしていた実紅に挨拶をした。
「おはよ……」
実紅がいつもと違って、よそよそしく挨拶をする。
「み、実紅ー。どうかしたの……?」
まさか、告白した時、先輩に、あたしのことが好きだって言われて、ショックを受けているとか!?
「あ、うんー。昨日、祐希先輩に告白したら、先輩もあたしのこと好きだってー。だから、付き合うことになった」
「……!!」
先輩が、実紅のこと好き……?
昨日、あたしのことが好きだって言ったのに……。
まさか、あの時はからかわれていただけ?
何が何だか、訳が分からない。
「じゃあ、あたし。急いでいるから」
実紅は、あたしと目を合わせないまま、先に教室へ行ってしまった。
お昼の時間ー。
お弁当を持って、いつものように実紅が来るとばかり思っていたのに、いっこうに来る気配がない。
教室の中を見ると、実紅の姿は見あたらなかった。
「ねぇー、実紅知らない?」
あたしは、クラスの子に聞いてみた。
「さあ?購買にでも、行ったんじゃないの?」
そうかも知れない。時々、お弁当じゃなく、購買に行っていることを思い出した。
待っていると、しばらくして、実紅が戻って来た。
「実紅ー。お昼、一緒に食べよう」
「ごめん。食べてきたからー」
「そうなんだ?珍しいね」
そう言ったものの、こんなこと、今までなかった。もしかして……。
「真鍋先輩とお昼食べてきた?」
「うんー。あ、瑠那!昨日の話なんだけど……」
実紅は、すぐに話を変えるとクラスの子の方へ行ってしまった。
先輩と両想いになったんだから、嬉しいはずなのに、実紅の様子がおかしい……。
あたしのこと、避けてるー?でも、どうして?
結局、実紅とはあまり会話しないまま、1日が終わってしまった。
「ちょっと、あれ誰ー!?」
翌日、学校へ行くと、昇降口の所で、2年生の女子達が騒いでいた。
「うちの学校に、あんな、イケメンいたー!?」
栗色のさらさらの髪に、整った顔だちの男の子が、昇降口を入って、すぐの渡り廊下に立っていた。
よく見てみると、どこかで見たことがあるような……?
あたしが、首を傾げていると、実紅がその人に近づいて行くのが見えた。
「祐希先輩ー!!」
実紅は男の子に向かって、そう呼んだ。
「……!?
」
今、祐希先輩って呼んだよねー!?
周りにいた子達も、驚いて先輩の方を見る。
「え!あの、真鍋先輩!?」
「髪の色が普通になってるー!こんな、イケメンだったなんて知らなかったー!!」
次々と周りの女子達が、騒ぎ立てた。
「でも、誰よー。あの子?」
「もしかして、彼女!?」
みんなが騒いでいる中、あたしは、ただ、呆然と2人を見つめていた。
相変わらず、今日も実紅はあたしとは目を合わせようとしなかった。
仕方なく、独りでお弁当を食べようと、屋上へ向かった。
「真鍋!どうしたんだ?その頭ー。少しは、考え直したのかー?」
廊下で、生活指導の山口先生が、驚いた顔で、真鍋先輩に言っていた。
きっと、実紅の為に、先輩は変わろうとしたんだね……。
あたしは、その横を俯き加減で通り過ぎた。
先輩の姿を見るのが、今は辛いけど、きっと、時が過ぎればそれも辛くなくなるよねー?
実紅に無視されるようになってから、5日が過ぎようとしていた。
実紅と真鍋先輩が、学校で一緒にいるところをよく見かけるようになった。
「はぁー。いつになったら、この気持ちがなくなるんだろう……」
昼休み。
あたしは、切ない溜め息をつきながら、いつものように、お弁当を持って、独りで屋上へ上がって行く。
一息つくと、誰もいない屋上で、お弁当を食べ始めた。
「藤井……」
真鍋先輩が、屋上のドアを開けて入ってきた。
「隣、いいか?」
「……」
あたしは、無言のまま、お弁当を食べていたけど、先輩は無視してあたしの隣に座った。
「よく、ここがわかりましたね……」
「前に何度か、屋上に上がって行くの見たから」
見られていたのかー。
「それで、何か用ですか……?」
先輩の顔を見ると、切なくなってしまうので、わざと冷たい態度をとる。
「ポップ、元気か?」
「……」
用って、ポップのこと……?
そうだよね、冗談で告白した相手と話すことなんて、そんなことくらいしかないか……。
「元気です。じゃあ、あたし教室に戻るから……」
あたしは、お弁当を片付けると、立ち上がった。
これ以上、一緒にいたら辛くなるだけだー。
歩き出そうとした時、急に先輩に腕を掴まれた。
「……!!」
驚いて、あたしは先輩の方を振り向いた。
「祐希先輩!こんな所にいた!」
実紅が、屋上のドアを開けて入ってきた。
あたしは、慌てて先輩の手を振りほどく。
「捜しちゃった!」
実紅は、先輩の腕に自分の腕を絡ませた。
あたしは、2人から目を逸らすと、背中を向けて歩き出した。
ドキンドキン……。
さっき、どうして、引き止めようとしたの……?
あたしは、左腕にそっと手をやった。
先輩の温かい手の感触が残っていた。
寒さが、ますます厳しくなる12月ー。
あたしは、ぶるると身震いしながら、バスへ乗り込んだ。
朝の通勤ラッシュということもあって、バスの中は満員。
あたしは、人と人の隙間を通り抜けながら、やっと、吊革に掴まる。
バスが発車して、外へ目をやると、街はクリスマス一色に染まってきた。
もうすぐ、クリスマスかー。
今年は、実紅は先輩と過ごすのかなー?
そう思ったら、キューと胸が締め付けられる。
バスが、学校前に到着すると、あたしは重い足取りでバスから降りた。
実紅とは、一週間以上も口を利いていない。
真鍋先輩とも、屋上で逢ってからは、全然、逢っていない。
噂では、人が変わったように、真面目に授業を受けているらしいけど、やっぱり、実紅の影響が大きいんだろうな……。
チクンとあたしの胸が痛む。
「ねえねえ!見た?校舎裏で実紅が、泣いてたの」
教室へ入ると、クラスの女子達が騒いでいるのが聞こえてきた。
「泣いている時、真鍋先輩が一緒にいたの見たって子がいるんだけど、莉菜、実紅から何も聞いてない?」
クラスの中で、一番の情報屋の亜季が調査に来た。
めったに涙を見せない実紅が、泣いていたなんて初耳だ。
「莉菜も知らないの?……これは、やっぱり、真鍋先輩が関係あったりして。他に目撃者がいるかも知れないから調査に行ってこよう!」
亜季は、さっさと教室を出て行ってしまった。
確かに、実紅の感情を左右されるとしたら、真鍋先輩に関係するかも知れない。
そんなことを考えていたら、実紅が教室に入ってきた。
クラスの女子達が、実紅の方をチラッと見る。
「み、実紅ー」
あたしは、思い切って声をかけた。
「何?」
実紅は、無表情であたしをチラッと見た。
「えっと……。実紅が、泣いていたってクラスの子が言っていたんだけどー。何かあったの?」
「……別に。あったとしても莉菜には関係ない」
実紅は、少し強い口調で言うと、自分の席に座った。
「……」
そうだよね……。あたしが、横から口を出すことじゃないかー。
あたしの無神経な所が、気にさわったのかな……。
ちらちら……
寒いと思ったら、夜になると雪が降り始めた。
ブブ……。
バイブにしていた携帯のメールの着信音が、振動で知らせていた。
画面を覗くと、真鍋先輩からだった。
今まで、無視していたけど、何だか実紅のことが気になってメールの画面を開く。
『久しぶり。近くにの公園に来てる。ポップを連れて出て来ないか?』
淡々とした言葉が並んでいた。
「ポップ、おいで!」
のんびりと、クッションの上で寝そべっていたポップを抱き上げると、外へ連れ出した。
まだ、それほど雪はたいしたことはないけれど、明日の朝までには、かなり積もりそうだ。
公園に到着すると、真鍋先輩がブランコに座って待っていた。
「悪い。こんな時間に」
久しぶりに聞く先輩の声に、あたしの胸はキュンとする。
「みゃー」
ポップが、ジャンパーの胸元から、寒そうに顔を出した。
「ポップ!元気だったかー?」
真鍋先輩が、ポップの頭を撫でたけど、すぐに顔を引っ込めてしまった。
「ポップに、嫌われたかな……」
先輩は、少し淋しそうに呟いた。
「ポ、ポップ寒いの苦手だから……。それに、いつもと先輩が違いからかも」
あたしは、慌てて言う。
「そんなに変わったか?」
先輩は、自分の髪を触る。
「うん。前よりカッコ良くなっててびっくりしたー。クラスの女子も、先輩を見て、キャーキャー騒いでいたもの」
そう言うと、先輩は照れながら、頭に手をやった。
「でも、先輩が変わったのって、実紅のため……」
あたしは、ボソッと呟いた。
「早川のー?」
「だって、実紅と付き合い始めてから、先輩ー、真面目になったから……。そんなに、実紅のこと好きなのに、泣かせるなんて信じられないー!」
何だか、段々に感情が高ぶってきた。
「早川のこと、泣かせたのは謝るー。でも……」
先輩が何か言おうとしたのも聞かずに、あたしは先輩を責めることしかできなかった。
「やっぱり、実紅のこと泣かせたの先輩だったんだ!?」
いくら、実紅に無視されても、友達だもの。泣いていたら助けてあげたい。
「どうして?実紅、先輩のことあんなに好きなのにー。先輩だって実紅のことが好きだから、付き合うようにしたんでしょ?」
「俺が早川とー?」
先輩は、驚いた顔をさせた。
「……あたし、先輩に告白されて本気にしちゃって、バカみたいー」
あたしは、苦笑いをする。
「告ったの冗談だと思ってるのか?」
「だって、そうでしょうー?じゃなきゃ、実紅と付き合ったりしない」
先輩が急にあたしの腕を掴むと、強引に引き寄せた。
「……!!」
あたしは、突然のことに驚いて、心臓の鼓動が速くなる。
「みゃー!?」
ポップが、先輩とあたしに挟まれて苦しいのか、ジャンパーの中で、じたばたしていた。
「ごめん、ポップ」
ジャンパーのチャックを少し下げてあげると、ポップが顔を出したかと思うと、パッと地面に飛び下りて、走り出した。
「あ、ポップ!」
あたしと先輩は、慌ててポップを追いかけた。
寒いの苦手のはずなのに、ポップは勢いよく走って行く。
「はあはあ……」
捕まえようと、思いっきり走ったのに、追いつけず見失ってしまった。
「先輩、どうしようー。ポップが車にひかれたら……」
あたしは、半分泣きべそをかきながら言った。
「多分、道路には出てないんじゃないか?ほらー」
先輩は、うっすらと白くなった地面を指差した。
くっきりじゃないけど、小さな足跡が点々と続いている。
「こっちだ!」
真鍋先輩は、あたしを促すと、足跡の方向へ走り出した。
あたしと先輩が、ポップを捜しに行くと、トンネルになっている遊具の所で、足跡が途切れていた。
あたしは、トンネルの中を覗き込んだ。
「いた!」
トンネルの中でポップが、身体を丸くなって寝ていた。
「見つかって、良かったな」
先輩は、あたしの肩をポンと叩いた。
「ありがとうー」
ポップは先輩が助けた子猫。名前もつけてくれたー。
ポップが先輩だと思って、飼い始めたのに、ポップがいなくなったら、きっと、気持ちが落ち込んだままだったと思う。
先輩は、そっとポップを抱き上げた。
「ありがとうー」
あたしが、ポップを受け取ろうとした時、あたしと先輩の瞳がぶつかって、先輩は、そっと顔を近づけた。
「みゃー!」
その時、ポップが、ジャンパーに足をかけた。
「ポ、ポップ!ジャンパー汚れちゃう」
あたしは、慌ててポップの泥だらけの足を、ハンカチで拭いた。
ドキンドキン……。
ポップが邪魔しなかったら、あたし先輩とキスしてた……?
先輩には、実紅がいるのにどうしてー?
ドキドキが、いつまでも鳴り響いていた。




