二年目のバレンタイン 2
受け取り方によっては下品な表現が含まれております。お気を付け下さい。
小鍋に沸かした湯の中にチョコレートを投入して溶かそうとして、母に止められた。
そして、正しい湯煎の仕方を教わったのだ。
湯の上に小鍋よりも大きいサイズのボウルを置いて、ゴムべらで混ぜながらチョコをゆっくりと溶かしていく。
「本当はテンパリングした方がいいんだけど……」
テンパリング?
頭の上に『?』が飛び交う様子を見て、「あんたには無理よね」と、母が諦めたようにため息をこぼす。
「美味しくなるならやる! お母さん教えて」
「……理沙、あんた女の子になったわねぇ」
失敬な。生まれた時から女の子ですとも!!
母の厳しい指導のもと、チョココーディングしたイチゴとバナナが出来上がった。
テンパリングされたチョコは艶々ピカピカで美味しそう。
ちなみにチョコバナナは、夏祭りで必ず買ってしまうほど、私の大好物なのだ♪
そして、コーディングで残ったチョコと、コーンフレークや刻んだナッツ類を和えて、オーブンシートの上にスプーンで形を調えつつ固めれば、クランチチョコの出来上がりだ。
うん、こっちも美味しそう。
全形チョコバナナに生唾を飲みつつ、可愛く一本ずつラッピングする。
イチゴとクランチチョコは、お弁当用カップに乗せる。
「バナナ2本とぉ、イチゴ~、クランチチョコ~♪」
細長い箱にラッピング用緩衝材を敷き詰めた上に、それらをバランスよく詰めていく。
「出来た!!」
予想外に今年は良く出来た。自画自賛だということは自覚している。
アドバイスをくれた愛里ちゃんにもプレゼントしようかな……。
翌日の2月14日、バレンタイン。
教室の中では、女の子同士でチョコを渡しあっていたり、他の教室からの女の子のお客さんが訪ねてきたりして、学校全体が浮足立っている気がする。
女子から男子へチョコを渡している姿は、教室では見られない。
ただひとつの例外を除いては。
それはそうだろう。本命になればなるほど、衆人環視の中でチョコを渡すなんて出来るわけがない。告白して振られたら居た堪れない。告白した女子も、振った男子も、周りの人間も。 だから、こんなにきゃいきゃいと、明るく告白しているのは、こいつらだけだよ。と、横目で観察してしまう。
それは、天馬優駿くんの周りで起こっていた。
「優駿く~ん。私と付き合って?」
「あ! ずる~い。私も~ぉ」
「サッカーいっつも応援してるよ?」
「ありがとう! でも、みんな可愛くて一人に決められないなぁ~」
制服をこれでもかと改造して、究極まで可愛さ(女子主観)を追求したオシャレ女子に囲まれて、中心でニヤニヤしている優駿くん。
……私のチョコなんて要らないじゃん。
馬鹿正直に一応用意していた、優駿くん用のチョコは後で自分が食べる事にしよう。
人気があるのは知っているけれど、涼先輩のこんな姿見たくないなぁと、優駿くんと優駿君の取り巻きを見ていて思う。
彼女になって先輩の隣に立てるようになったけど、それに引き換えに弱くなった気がする。
去年までは、涼先輩のこんな場面を見ても、「さすが人気あるなぁ」と見ていられた。
あわよくば、どさくさに紛れてチョコを渡しちゃおうとまで思っていたのに。
「あ、愛里ちゃん」
「よう! チョコ作り上手くいった?」
教室に帰って来た愛里ちゃんを呼び止めた。目が合って、愛里ちゃんはにやっと笑ったが彼女にはそんな表情でさえも可愛らしい。
「いやぁ~、まさか理沙がそこまで初心者だと思わなくて、ごめんね~」
全然済まなく思ってないニヤニヤ顔で言われても……。面白がられてるなぁ。
「はい、教えて貰ったお礼に」
チョコが入ったラッピング袋を愛里ちゃんの前に差し出すと、予想外の展開だったのか、すごく嬉しそうな顔を見せてくれた。良かった~。
「うわー!! ありがと。一緒に食べよ♪」
「うん。あ、自分の分もあるから、分けなくて大丈夫だよ」
自分の席に戻り、カバンから優駿くんに渡す予定だった袋を取り出し、愛里ちゃんの元に戻った。
愛里ちゃんはイチゴチョコを、私はやっぱりチョコバナナを選択。
「でっか!」
と、愛里ちゃんが私の持つチョコバナナを見て驚きの声を上げた。
そうかな? こんなものじゃない?
チョコをぺろんと舐めてから齧りつく、じっとそれを見ていた愛里ちゃんの顔が、赤くなりだした。
「理沙、いっつもそんな食べ方すんの?」
「? うん。コーティングされたチョコって、舐めたくなるんだよね。アイスバーとかも。あと、バウムクーヘン薄く剥がしたりとか。お行儀悪いって親に怒られるんだけどさー」
「お行儀悪いっていうか……それ、彼氏に見せてあげたら喜ぶよ。すっごく可愛い顔して食べてるから」
愛里ちゃんは、にっこり笑ってそうアドバイスしながら、愛里ちゃんの分の袋に入っていたチョコバナナを強引に私の持っていた袋に突っ込み、自分はイチゴにキスをするように可愛らしくイチゴチョコを頬張った。
「……? うん。分かった」




