理沙に会いたい……。
途中から涼目線です。
修学旅行三日目ーー。
国際通りで、班単位の自由行動。
目的は主にお土産を買うこと!
ジュウジュウと油で揚げる魅力的な音と、甘い匂いが高校生の胃袋をわしづかみにする。
通りに面した商店で、人好きのする笑顔のおばちゃんが、サーターアンダギーを揚げていた。
「サーターアンダギー食べよう!!」
満場一致で決まる。
様子を見ていたおばちゃんが、「揚げたては、おいしーさー」と豪快に笑った。
女子剣道部の皆にと事前にお金を出しあって、お菓子を買うことになっている。
沖縄らしいものということで、沖縄にしかない駄菓子の詰め合わせを買った。
梅干しのお菓子や、ゴーヤのチップスなど珍しいものから、お馴染みの駄菓子の南国フルーツ味などが詰め合わされている。きっと盛り上がるはず。
* * * * *
「涼くん、呼び出してごめんね」
「いいえ。篠原さんこそ、お忙しいのにこんな時間になってしまってすみません」
学校帰りに涼はショーレストランに来ていた。
昨日の今日で、篠原さんに呼び出されるとは思っていなかったが、姉が篠原さんに理沙が代役をする脚本の変更を頼んだのは明白だ。
ふたり揃って仕事が早いというか、せっかちというか……。
お似合いなのは確かだ。
「篠原さん、おめでとうございます。姉を……よろしくお願いします」
何となく照れくさかったが、あの姉を制御出来るのも、同じペースで動けるのも篠原さんだけだ。
勧められた椅子に座る前に、目の前の姉の婚約者に挨拶をする。
篠原さんも照れくさそうにしながら、コーヒーの入った紙コップをテーブルに置いた。
「ありがとう。僕たちの我が儘を聞いてもらうことになって、涼くんも、理沙ちゃんにも申し訳ないね」
「我が儘だなんて、思ってませんよ」
ニコリと篠原さんは、笑った。
「今日来てもらったのはね、脚本を変えるなら、理沙ちゃんのトレーニングの成果に合わせて演出を考えたいなと思ったからなんだけど……」
「そうだと思いました。でも、本当にまだ基礎体力を付けてる段階で、何もやってないんですよね」
差し出されたコーヒーを一口含んだ。
「その割には、習練場に籠っているって聞いたけど?」
ニヤリと含んだ笑みを返されて、コーヒーを吹きそうになった。
「垂直跳びの練習をしてるんですよ」
「ふうん、垂直跳びね……」
篠原さんの口角が益々上がる。
「……何が言いたいんですか?」
「いや〜、彼女と二人っきりで秘密のレッスン、楽しそうだなぁと思って♪」
いくら姉の方が篠原さんに積極的だったとはいえ、結局10歳も年下の女の子に手を出した貴方に言われたくないですよ。
ニッコリ笑って、こちらもやり返す……。
「楽しいですよ。特にこちらは手取り足取りですしね」
姉の方は、忍者の訓練は兄弟揃ってお祖父さんが仕込んだから、貴方の出番はありませんでしたからね。羨ましいんですね……。
言葉の裏に隠したトゲに気付いたか……。
篠原さんのキリッと整えた眉毛が僅かに上がった。
「参ったなぁ。涼くんとこんな会話が出来るようになるなんてね〜」
篠原さんは、コーヒーに手を伸ばしつつ朗らかな笑顔を見せる。
「会長からも話は聞いてるし、涼くんが理沙ちゃんのフォロー出来る形にするから、せめて補助つきのジャンプと、殺陣の型は幾つか仕込んどいてね。詳しい殺陣の段取りは、脚本出来てから知らせるから」
篠原さんは、ぺらぺら喋りながら手元のノートにボールペンを走らせる。
「いやぁ〜、理沙ちゃん可愛いよね〜。手も小さくて柔らかいし、背も小さくてさぁ〜♪ ぎゅうって、包み込めるサイズだよね〜」
……目の前のオッサンがうっとりしながらのたまう。その両手は自分の身体を抱き締めている。
いい加減イラッとしてくる自分がいる。
いつ理沙の手を握ったんだよ!!
「いっそ、新しい話を書こうかな〜♪ まあ、楽しみにしててね」
……嫌な予感しかしない。
無理矢理笑顔を貼り付けて答える。
「ええ。よろしくお願いします」
サッと席を立って出ていこうとする俺の背中に、篠原さんの声が追いかけてくる。
「今度理沙ちゃんも一緒にご飯食べに行こうね。ご馳走するからさ」
クルリと振り返って、ニッコリ。
「ありがとうございます。では、失礼します」
……篠原さんは、決して悪い人じゃない。それは分かってる。
確かに男から見ても、ワイルドな男前だし、軽そうで遊んでそうなのに実際は真面目な人だ。
父もお祖父さんも、信頼してる人だし。
だけど、子どもの頃から俺はあの人が少し苦手だ……。
天馬は例外として同業者は少なからずあんなタイプが多いのも事実なのだが。
だから、素直で純粋な理沙に惹かれたのか……。
自分でも答えは出ないけれど、愛しい気持ちは日に日に強くなっている。
はぁ……疲れた。
……理沙に会いたい。




