第33話:別れの焚き火
五層の中継点で、全員で焚き火を囲んだ。
ドラが《岩甲竜》の肉を切り分けた。「焼けば食える。質がいい。ボスの素材だ」
「本当に?」とリアが少し引いた顔で言った。
「嗅げばわかる。毒はない。脂が乗ってる」
「……食べてみる」
脂が落ちて、いい匂いがした。
「……おいしい」
リアが目を丸くした。
「だから言った」
ガロが「ボスの肉は基本的にうまい。深い層のものほど質がいい」と言った。
七人で、火を囲んだ。
《鋼牙》と《灰燼》が、同じ焚き火を囲んだのは初めてだった。
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食事が終わって、静かな時間になった。
ガロが焚き火を見ながら、ぽつりと言った。
「……俺には弟がいた」
誰も何も言わなかった。
「十歳の時に死んだ。魔物に。俺が守れなかった」
炎が揺れた。
「冒険者になったのは、弱かった自分が嫌だったからだ。二度と守れないままでいたくなかった。——まあ、弟はもう戻らないけどな」
俺は黙って聞いていた。
「お前を最初に見た時」
ガロが俺を見た。
「弟に似てると思った。目が似てる。感情を出さない目。でも——中に何かある目だ」
「俺は弱くない」
「わかってる」
「守ってもらう必要もない」
「そういう話じゃない」
ガロが少し笑った。
「ただ——気になっちまうんだよ。どうしてもな。弟だからじゃなくて、お前がお前だから。それだけだ」
俺は少し黙った。
「……迷惑か」とガロが言った。
「迷惑じゃない。ただ——弟の代わりにはなれない」
「なってくれとは言ってない。俺が勝手に気にしてるだけだ」
「……わかった」
それ以上、何も言わなかった。
でも——悪くなかった。
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ガロが眠りについた後、ミナが俺の隣に座った。
静かな人だった。いつも観察している。喋る時は必要なことだけ言う。そういう人間だった。
「一つ聞いてもいいですか」
「何だ」
「ケンジさんたちが追われているんですか」
俺はミナを見た。「……なぜそう思う」
「エリスさんが人の多い場所で帽子のつばを下げる癖があります。ドラさんが常に周囲の匂いを確認している。ケンジさんは休憩中も気配を探っている。習慣になっている警戒だ」
「……鋭いな」
「調べることが得意なので」
「追われている。組織に。エリスが狙われている」
ミナが少し黙った後、静かに言った。「……私にできることがあれば。情報収集は得意です」
「ヴォルテクスという名前を知っているか」
ミナが目を細めた。「……知っています。王都の裏で動いている組織です。獣人や亜人の売買。構成員が王都の一部に潜り込んでいるという情報もある」
「その組織に追われている」
「わかりました。何かわかったら、ダンジョンの外に出た時に伝えます」
「助かる」
ミナが「ただ——」と続けた。
「エリスさんを、ちゃんと守ってあげてください。あの子の目が——少し心配です」
「何が心配だ」
「自分のせいで誰かが傷つくと思っている目です。ずっとそれを抱えている」
俺は何も言わなかった。
ミナが静かに立ち上がった。「おやすみなさい」
「ああ」
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翌朝。
《鋼牙》が六層への道を下る準備をしていた。
ガロが「ここで別れだな」と言った。
「ああ」
「俺たちは十五層まで行く。お前たちは」
「行けるところまで行く」
ガロが手を差し出した。俺はその手を握った。
「死ぬなよ」
「死なない」
「——また地上で会おう。その時は飯でも食おう」
「その時はお前が出せ。同じCランクだろう」
「……生意気な奴だ」
でも笑っていた。
ゴッツがドラの前に立った。無言だった。ドラも無言だった。
それからゴッツが右手を差し出した。ドラがその手を掴んだ。拳と拳を合わせるような、力強い握り方だった。
「……また」とゴッツが言った。
「また」とドラが言った。
ミナがエリスとリアに向かって小さく頭を下げた。「気をつけて」
「ミナさんも」とエリスが言った。
「また会えたら——ゆっくりお話ししましょう」
エリスが少し目を丸くして、それから頷いた。
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《鋼牙》が六層への道を降りていく。
ガロが振り返った。「《灰燼》——いい名前だ。お前たちに合ってる」
「《鋼牙》も悪くない」
ガロが一度だけ笑って、背を向けた。
三人が暗い道を降りていった。
その背中が見えなくなった。
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四人だけになった。
リアが「……行っちゃったね」と言った。
「ああ」
「また会えるかな」
「会える。生き残る奴らだから」
リアが少し笑った。
ドラが「ゴッツは……いい奴だった」と静かに言った。「無口だったな」
「だから良かった。余計なことを言わない」
エリスが「ミナさんと、もっとお話ししたかったな」と言った。
「ダンジョンを出たら話せる」
「……うん。楽しみにしてる」
俺は地図を広げた。
六層。
ここからは——四人だけだ。
「行くか」
「行く」とドラが言った。
「行く」とリアが言った。
「……行く」とエリスが言った。
四人で、六層への階段を降りた。
光が薄くなる。
空気が重くなる。
でも——足は止まらなかった。
まだ先がある。
深く。
もっと深く。




