第20話:それぞれの告白
その夜は、少しいいものを食べた。
ギルドから近い食堂で、焼いた肉と野菜のスープと黒パンを頼んだ。四人分で銀貨一枚半ほど。今なら問題ない。
エリスが肉を一口食べた瞬間、目を丸くした。
「……美味しい」
「干し肉とは違うか」
「全然違う。こんなに柔らかいんだ」
ドラが「俺の集落では食事中はあまり喋らなかった」と言った。
「獣人族の習慣か」
「そうだ。食うことに集中する」
リアが「でも話しながら食べる方が美味しいよ」と言った。
ドラがしばらく考えた。「……そうかもしれない」
ドラが素直に認めた。エリスが嬉しそうに笑った。
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食事の後、安宿に戻った。
四人で寝床を並べて、しばらく黙っていた。
外から夜の虫の声が聞こえてくる。遠くで誰かが笑っている。
エリスが天井を見ながら言った。
「ねえ。みんなに聞いていい?」
「なんだ」
「みんなはなんで戦ってるの。本当の理由」
静寂が落ちた。
本当の理由、か。
リアが先に答えた。「ケンジについていきたいから。ずっとそれだけだよ。ケンジが向かう先を、一緒に見たい」
エリスが「ドラは?」と聞いた。
ドラが少し間を置いた。「最初は父と仲間の借りを返すためだった。でも今は——ヴォルテクスを潰したい。俺の集落を壊滅させた連中だ。そのためならどこまでも行く」
「そっか」
エリスが俺を見た。
「ケンジは」
俺は少し考えた。
この場で話すか。
四人、全員。
……話していい相手たちだ。
「俺には前世がある」
三人が黙った。
「前世というのは、この世界じゃない場所での話だ。別の世界で、人間として生きていた。会社に勤めて、毎日遅くまで働いて——働きすぎて死んだ」
リアが「働きすぎて、死んだの」と静かに繰り返した。
「過労死という。前の世界ではそういうことがあった。死んで、気づいたらこの世界にいた。赤ちゃんとして生まれ直した——わけじゃない。一度目の転生があった」
「一度目」とドラが言った。
「ああ。最初に転生したのはここじゃない別の場所だった。森の中に突然放り出されて、何も分からないまま、魔族の村に連れて行かれた」
俺は一瞬、止まった。
あの夜の光景が蘇る。焚き火。笑顔。肉の味。
「その村で——喰われた」
エリスが息を飲んだ。
「笑顔で歓迎してくれた魔族たちに、生きたまま食われた。骨まで」
静寂が、重くなった。
「それが俺の復讐の始まりだ。その村の連中、その村を操っていた存在、この世界の構造全部——全部に怒りがある。その怒りが俺の呪印の燃料になってる」
誰も何も言わなかった。
しばらくして、リアが「……知らなかった」と言った。
「言う必要がなかった。でも今は言っておく必要があると思った」
「なんで今」
「仲間だから」
リアが目を赤くした。
ドラが「……そうか」とだけ言った。静かな声だった。
エリスが俯いた。
「私も、話す」
俺はエリスを見た。
「村にいた頃——大人たちがひそひそ話してるのを聞いたことがある。私の首の後ろの紋のことを話してた。何か特別な意味があるって。でも私が近づくと黙るから、詳しくはわからなかった」
「ああ」
「ケンジは知ってるんでしょ。あれが何なのか」
俺は少し間を置いた。
「……知ってる」
エリスが俺を真っ直ぐ見た。「教えて」
「魔族の王家の紋だ」
エリスが目を大きく開いた。
「お前は魔族の王家の血を引いている。だからあれだけ魔力が多い。ヴォルテクスが執拗に狙ってくる理由も、そこに繋がってると思う」
「王家の……血」
「ただ——ヴォルテクスがなぜお前を狙うのか、目的まではまだ俺にもわからない。それは今後、調べていく」
エリスがしばらく黙っていた。
「……村の大人たちが、私のことを隠してた理由が、それだったのかも」
「可能性はある」
「私のこと、ずっと特別扱いしてた。でも理由を教えてくれなかった。何かを知ってたんだと思う」
リアが「……それって怖いね。大切にされてたのか、何か別の理由があったのかわからない」と言った。
「わからない」とエリスが言った。「でも——逃げてよかったと思ってる。今ここにいるから」
エリスが俺を見た。
「教えてくれてありがとう、ケンジ」
「前から話すつもりだった。タイミングを待ってた」
「なんで今?」
「仲間だから」
エリスが目を赤くした。
ドラが「俺も魔族に家族を奪われた」と言った。静かな声だった。「だがお前は違う。お前の力がどんな血から来ていようと、俺はもう見ている」
エリスが顔を上げた。ドラを見た。
「……ドラ」
「泣くな。それより強くなれ」
エリスが苦笑いした。「ドラって、慰め方が独特だよね」
「慰めてない。事実を言ってる」
リアが「でも伝わってるよ」と言った。
俺は四人を見回した。
全部、出た。
それぞれが抱えていたものが、この夜に少し軽くなった気がした。
「一つだけ言っておく」
俺が言うと、三人が俺を見た。
「お前たちと一緒にいて、俺の中で変わったことがある」
「何が」と リアが聞いた。
「最初は復讐だけだった。でも今は——守りたいものができた」
静寂が落ちた。
リアが目を赤くした。
エリスが泣きそうな顔で笑った。
ドラが「……それが一番重要だな」と静かに言った。
「お前が守りたいものを持った。それは強さになる」
「そうか」
「本当のことだ」
火が揺れていた。
四人分の影が、壁に映っていた。
呪印が、静かに脈打っていた。
復讐の炎と、守りたいものの温かさが、同じ胸の中で燃えていた。
矛盾しているようで——俺には今、どちらも本当だった。




