第17話:四人旅の賑やかさと、冒険者ギルド
次の街まで、三日かかった。
グレナを出てから、四人の旅が始まった。
最初の日は静かだった。ドラがまだ打ち解けきっていなくて、リアとエリスとの距離が測りかねている感じがあった。俺は黙って歩いた。無理に話すことはない。距離は、時間が縮める。
変わったのは二日目の朝だった。
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朝食の準備をしていたとき、エリスが火起こしに手間取っていた。
魔法で火を出せるはずなのに、緊張すると制御が乱れる。小さな焚き火を起こすだけで、炎が大きくなったり消えたりを繰り返していた。
「貸せ」
ドラが横からくべていた薪を調整した。
「火は風の当たり方次第だ。風上に向けて焚き口を作れ。自然に燃え広がる」
「あ……本当だ」
「魔法で力技でやろうとするから安定しない。自然に燃えるように整えてやれば、少ない魔力で済む」
エリスが「ドラってアウトドア得意なの?」と聞いた。
「山の集落出身だ。外で生活する方が長かった」
「かっこいい」
「普通だ」
「普通じゃないよ。私なんか昨日も野宿で眠れなかった」
「慣れる」
「いつ?」
「半年もすれば」
エリスが「半年……」と遠い目をした。
俺はそのやり取りを聞きながら、朝の見張りを続けた。
ドラが少しずつ、距離を縮めている。言葉は少ないが、行動で示すタイプだとわかってきた。
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二日目の昼、道中でリアがドラに弓を見せた。
「ドラは弓使う?」
「使わん。近接一本だ」
「武器は何がメインなの」
「素手か、手に入ったものを使う。集落では双剣を使っていたが、捕まるときに取り上げられた」
「双剣か……」
リアが少し考えた。
「今は何も持ってないの」
「廃砦で拾った剣が一本ある」
「一本だけ?」
「当面はそれで十分だ」
俺は口を挟んだ。「次の街で武器を調達する。ドラの希望はあるか」
「廃砦で剣を一本拾ったが、もう一本欲しい。同じ長さとバランスのやつを」
「中古品でもいいか」
「構わん。使えれば」
「わかった。予算に入れる」
俺は懐の財布を確認した。
残りの金を頭の中で計算する。村を出る前に持っていた銀貨二十枚と銅貨十四枚。宿代、食料、グレナでの入場料と情報屋への支払い、廃砦での作戦にかかった諸々。
銀貨が六枚。銅貨が十四枚。
日本円換算で約七千四百円。四人で動いていれば、一週間も持たない。
剣一本の補充と、リアの短刀、旅用品を調達すれば、ほぼ底をつく。
……早急に稼ぎ口を見つける必要がある。
ドラが俺を見た。
「……お前、金の管理もしてるのか」
「俺が一番計算が得意だ」
「十歳のくせに」
「先日十一歳になった」
「……そうか。十一歳が」
「前世——いや、昔から得意だった」
ドラが「前世って言いかけたか」と首を傾けた。
「気のせいだ」
「そうか」
ドラはそれ以上聞かなかった。でも目が「また今度聞く」と言っていた気がした。
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三日目、ドラが訓練の話を持ち出した。
「お前たち、毎日訓練してるのか」
「できるときはしてる」
「俺も混じっていいか」
俺は少し考えた。断る理由はない。むしろドラの戦闘を間近で見る機会になる。
「構わない。ドラが教える側になることもある」
「どういう意味だ」
「俺たちにはない経験を持ってる。学べることがある」
ドラが少し間を置いた。
「……経験を教えることはできる。でも俺のやり方が合うかはわからん」
「合わせる必要はない。各自が吸収できるものを吸収すればいい」
ドラが頷いた。
その日の夕方、四人で簡単な訓練をした。
ドラの動きを見て、俺は少し驚いた。
廃砦での戦いは暗くて細かい動きが見えなかった。でも昼間の明るさで改めて見ると——ドラの体捌きは、俺が今まで見た中で最も洗練されていた。
無駄がない。
一つの動作が次の動作に繋がっている。攻撃が防御になり、防御が攻撃になる。
「ドラ、その動き——どこで習った」
「集落の長老に。獣人族の古い武術だ」
「名前は」
「「爪牙流」という。獣の本能的な動きを体系化したものだ」
リアが「かっこいい名前」と言った。
「強さと直結してるから名前より中身だ」
「でもかっこいいじゃん」
「……まあ」
ドラが少し照れたような顔をした。初めて見る表情だった。
エリスが「教えてもらえる?」と聞いた。
「魔法使いに近接武術は向かない」
「でも知りたい」
「……基本だけなら」
ドラがエリスに構えを教え始めた。
リアが俺の隣に来た。
「私も教えてもらいたい」
「弓があるだろ」
「弓だけだと懐に入られたとき何もできない。近接もできるようになりたい」
俺はリアを見た。正しい判断だ。弓は遠距離では最強だが、接近戦になると途端に弱くなる。
「ドラ、リアにも頼めるか」
ドラがリアを見た。
「弓使いに近接か。悪くない発想だ」
「それと——」リアが少し間を置いた。「次の街で短刀も買いたい。懐武器として」
「弓と短刀の二刀流か」
「遠くは弓、近くは短刀。逃げながら撃って、詰められたら斬る」
ドラが少し目を細めた。「……考えてるな」
「当たり前じゃん」
「教えてやる。ただし基礎から手を抜くな」
「わかった」
ドラがエリスとリアに同時に構えを教え始めた。
俺はそれを見ながら、呪印の制御練習をした。
黒炎を右手の指先に集める。五ミリの大きさで、三十秒保つ。消す。また出す。
精度が上がってきた。
廃砦の戦いより、制御が安定している。少しずつ、でも確実に。
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三日目の夕方、街が見えてきた。
「ルーデ」という街だ。グレナより小さいが、交通の要所らしく行商人の往来が多い。情報が集まりやすい。
「また街か」
ドラが言った。
「何か問題があるか」
「俺は街より山の方が好きだ」
「好みは関係ない」
「わかってる。ただ言っただけだ」
リアが「私も村の方が好きだったけど、街って面白いよ」と言った。
「どこが」
「知らないものがいっぱいある。食べ物とか」
「食い物か」
「大事だよ!ケンジも昼食のこと聞いてたでしょ」
「それは体力管理だ」
「同じことだよ」
ドラが俺を見た。「お前は街で何をする」
「情報収集と武器の調達。あとヴォルテクスの動きを確認する」
「休まないのか」
「休む必要がある場面では休む」
「今は違うのか」
「街に入るまでは油断できない。ヴォルテクスの追手がいる可能性がある」
ドラが周囲を見渡した。「……今も気配があるか」
「今はない。でも街の中に入ったら変わる可能性がある」
ドラが頷いた。「わかった。街では俺も警戒する」
「ありがとう」
ドラが俺を見た。
「……お前、素直に礼を言うんだな」
「感謝があるときは言う」
「さっき礼はいらないって言ってたのに」
「自分が礼を言うのと、相手から礼を受け取るのは別の話だ」
ドラがしばらく俺を見た。それから短く笑った。
「……なるほどな」
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城門をくぐると、夕暮れの街が広がっていた。
グレナより落ち着いた雰囲気の街だ。石畳の路地が入り組んでいて、商店の看板が傾いていたりする。古びた感じが、逆に温かさを感じさせる。
街に入って最初にしたことは、冒険者ギルドの場所を確認することだった。
「あそこだ」
大通りの中ほど、頑丈そうな木造の建物に「冒険者ギルド・ルーデ支部」の看板が出ていた。
「今日から登録するのか」
ドラが言った。
「金が尽きかけてる。早く稼ぎ口を作る必要がある」
「魔物討伐か」
「効率がいい。一件ごとに報酬が出る。計算しやすい」
リアが「今日は遅いから明日?」と聞いた。
ギルドの扉を見ると、まだ明かりがついている。
「今夜、登録だけ済ませる。依頼を受けるのは明日でいい」
「今夜?腹減ったんだけど」
「登録して飯を食う。それだけだ」
リアが「順番逆じゃない?」と言った。
「腹が減っても登録はできる。登録しなければ稼げない」
ドラが「お前は飯より仕事か」と言った。
「優先順位の問題だ」
「子供らしくないな」
「よく言われる」
エリスが「私は腹減ってる」と言った。
「……登録は十分で終わる。その後で飯にする」
三人が顔を見合わせた。それから頷いた。
俺はギルドの扉に向かった。
中から、冒険者たちの喧騒が漏れてきた。
金が必要だ。
四人で動くには、もっと金が必要だ。
呪印が、静かに脈打った。
明日から、また稼ぎが始まる。
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