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天才の戦い

「……相変わらずね、彼女は」


 指令室にて、野崎は頭を軽く抱えた。

 雨咲 ソフィア。

 過去に例のないペースでダンジョンを攻略した、まさに天才と評するにふさわしい少女だが……その性格は、かなりの負けず嫌い。

 同じA級探索者である江川、中條、茨木に対してもライバル心を出している。

 彼女は基本的に、誰かの力を借りることを良しとしない。

 自分1人でなんとかしようとするのが、基本なのだ。


(S級への意識が、相変わらず強い)


 野崎はそう考える。

 S級の強さを、雨咲は形から真似しようとしている節があるのだ。

 通常、第九層にいるAランクモンスターは、何人かのパーティーを組んで狩りをする。

 だが、S級はそれすらも必要としない。

 たった1人で、それもたやすくAランクモンスターを撃破出来るのだ。

 実際、彼らは強力すぎてA級探索者がパーティーを組んでも、足手まといになる可能性すらある。

 それほどまでに、規格外の強さなのだ。

 雨咲が単独行動にこだわるのは、この辺りだろう。

 自分1人でなんとか出来るという、その力が欲しいのだ。


(でも、まだその強さには至っていないわ)


 短い期間だが、共に仕事をして雨咲の実力はなんとなく計れている。

 A級探索者。その最低限といえる強さであった。

 ソロでB級モンスターと戦いたがるが、ギリギリだ。危なっかしさがある。対して江川達は、ソロでもB級モンスターを安定してたおせる。

 それなのに、雨咲はA級モンスターへ単独撃破を目指している。

 まさに無謀であった。


「どうしますか、支部長? 今日も天才ちゃんがツンツンしてますけど」


 観月の言葉に、野崎は肩をすくめた。


「言わせておきなさい。どっち道、S級のフォローが必要になるはずよ」





顕現(けんげん)せよ、氷結の力――アイシクル・セイバー」


 宣言と共に、雨咲に右手に白い剣の柄が現れる。鍔の部分は羽の形をしており、魔力の結集と共に青い氷の刃が形成された。

 雨咲が氷の剣を片手に前へ出る。

 新種の黒い狼は、雨咲に気づいて足を止めた。


「ガアアアアアッ!!!」


 地に響くような、大きな咆哮。

 逃げていた男の探索者達が大きな声を上げる。


「お、おい君、危ないぞ!」


 だが、他の探索者が気にするなと男の背中を押す。


「あれは国家認定の探索者だ! 俺達を助けに来てくれたんだよ!」


「だ、だけど、あんな小柄な女の子で大丈夫なのか……?」


 そんな話をしている間にも、事態が動く。

 黒い狼が四肢を低くした瞬間、その姿が消えた。


「っ!?」


 観月が息を飲む。

 黒い狼は目にも止まらぬ速さで、もう背後をとっていた。


「なんてスピード――ううっ!」


 とっさに剣でガードするも、黒い狼の強力な頭突きによって、雨咲の体が吹き飛ばされる。

 平原の上を、雨咲が違法速度のダンプカーに跳ねられたかのように、転がっていく。

 探索者が一瞬だけ足を止めるも、第2層で活動しているような実力にできることはない。

 彼らは悔しそうにしながら、背中を向けて去っていった。


「……やりますね」


 だが、雨咲はクールな笑みを浮かべながら、立ち上がる。

 黒い狼が彼女を獲物と認識し、前へかけ出そうとした瞬間であった。その四つ足は、一歩も前へ踏み出すことが出来ず、地面へ固定されているのだ。


「ぐルルルルっ!?」


 黒い狼が自身の足へと目をむける。

 四つ足はいつの間にか、青い氷によってかためられていたのだ。地面にはりめぐらされた氷が、あっという間に膝の辺りまで浸食してきている。


「動けないところを、一気にしとめます」


 雨咲が両手でにぎった剣を天へかかげると、彼女の周囲に複数の氷の槍が現れた。一本一本が熟練された槍のように鋭い。


「――アブソリュート・ゼロ!」


 そして剣を指揮するかのように前へ突き出すと、槍がミサイルのように、一斉に勢いよく飛び出していく。

 黒い狼が口を開いた。目の前に黒い魔法陣が展開され、漆黒の炎が吐き出される。


「っ、あれは……!」


 本能的に危機を察知し、雨咲がすぐさま横へ飛ぶ。

 だが、回避は間に合わず、広範囲にまかれた黒い炎が小さな体を襲った。

 ずどおおおおおおおっ!!! と辺りに響き渡るほどの爆音と共に、破壊をつくす。大気が揺れ、雨咲の放った氷の槍を砕きながら、炎は周辺をめちゃくちゃにし、地面をえぐった。

 氷の槍はいくつか黒い狼に突き刺さる。だが、倒れることはない。そして体から黒い魔力を放ち、足の氷と刺さった氷を砕き、消し去った。


「グオオオオオっ!!!」


 黒い狼が怒りをふくめた様子で吠える。

 地面には黒い炎、魔力の残滓がパチパチとともっている。

 その中で、剣を地面にたてて、足を震わせる弱った雨咲がいた。

 とっさに氷の壁を作って防御した上、体ががんじょうな探索者。だが、それらをもってしても、全身が焼けるように痛い。

 雨咲は歯ぎしりをして、黒い狼をにらんだ。


「たかがA級ごときに、負けるわけには……!」


 剣を構えようとするも、膝をついてしまう。

 通信で、観月がさけんだ。


『雨咲さん! もう下がってください!』


「嫌です……ここから、隠された力が覚醒して逆転しますので」


『それ隠していない力に関しては、万策尽きているってことじゃないですか!? 死んじゃいますよ!』


 だが、黒い狼は攻撃をしてこない。

 それどころか「グルルぅ……!」と、なにかに怯えるように尻尾を下げ、ジリジリと後ろへ下がっていた。


「……?」


 雨咲が首をかしげていると――彼女の背後から、すっと武宮が前へと現れた。

 黒い狼の視線は、武宮の方へと固定されている。


「なっ、あなたは……!」


 驚く雨咲を背後に、武宮は左手を右手の拳で軽く叩き、ぱん、と心地いい音を立てた。


「よし。色々あったからな……ちょっとお前でストレス発散させてもらうぞ。デカくて黒いワンちゃん」

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