黒い狼と最年少のA級探索者
メインモニターに映ったのは、全長7メートルほどの狼であった。炭のように真っ黒な毛並みで、不気味な見た目だ。つり上がった2つの瞳は赤く、炎のようにギラギラと光っていた。
映像と報告に、部屋の中心の上座――支部長席に座った野崎が、驚きの声をあげる。
「第二階層にA級……? ありえない。どうして、そんなことが」
そのつぶやきの理由は、これが異例の事態であるからだ。
ダンジョンには階層があり、規模によるが基本的に第一~第十階層までがある。
そしてモンスターの魔力はランク分けがされており、E~Sランクまでだ。
第二階層は初心者・及び慣れはじめの探索者が活動するエリアであり、モンスターの魔力ランクはE~Dだ。
本来であれば、Aランクなんて出るはずがない場所。
そしてAランクとまともに戦えるのは、A級探索者以上でなければならない。
Dランクの相手が適正である第二階層の探索者は、危険にさらされてしまう。
「こ、こちらのモンスター、データベースに照合するものがありません! し、新種です!」
緊張した様子で、朝倉が報告をあげる。
「これが螺旋の塔の特徴だというの……? モンスターの位置に警戒して、第二階層の探索者へすぐさま退避指示を! 迎える探索者をすぐに集めて!」
野崎が指示を飛ばす。緊急事態に、武宮も動き出した。
「野崎支部長。俺も行きます。端末と通信の支給を」
「わかったわ。朝倉ちゃん! 武宮さんを用具室まで案内して!」
「は、はいぃ、わかりました!」
朝倉が立ち上がる。ええ~~~、と観月が抗議の声をあげた。
「ずるい~! 私が案内します!」
野崎が首を横にふる。
「あなたは色仕掛けをはじめそうだからダメよ」
「さすがにこんな緊急事態でしませんよ!? 平常だったらしますけど! もう~、なんでよりにもよって、ひまりっちなんですか! ひまりっち私より可愛いしおっぱい大きいから、ワンチャンとられちゃいます~!」
「そんな情けないこと言ってないで、仕事に集中なさい」
「ぶぅ~!」
武宮と朝倉が指令室を出て、1階の用具室へと向かう。通信機と多機能を備えた端末をそこで受けとり、扉の横に設置されたカードリーダーに、武宮のライセンスで入退室記録を残す。
「武宮さん。お気をつけて」
「ん、ありがとう」
朝倉に見送られながら、武宮はダンジョンへと向かった。
☆
平原をすさまじいスピードで、1人の女の子が駆ける。
「――第二階層へ到着。私がいきます」
指令室にクール女の子の声が響いた。
この螺旋の塔におけるもう1人のエース――雨咲 ソフィアだ。
銀色のショートヘア。青い瞳に、無表情で人形のように整った顔立ち。雪を連想させる白く美しい肌。青の上着に白のシャツ、水色のショートパンツを穿いていて、すらりとした足が美しく伸びている。
151センチの小柄な体もあって、探索者として強そうな見た目ではないが……その実力は国家認定A級探索者。
しかもその齢は18歳。A級探索者として、歴代最年少だ。
探索者として本格稼働して、たった1か月でとあるダンジョンの9層までをクリアしたという異例中の異例の天才。
それが雨咲 ソフィアなのだ。他の探索者と深くつるまない孤高な性格、そして極めて高い将来性ということで、まだ体制が整っていない螺旋の塔への配属をすすめられ、およそ2週間前にここへやってきた。
『了解でーす! 今、そちらへ新任のS級探索者、武宮様もむかっていますので!』
耳につけたイヤホンから、観月の元気の良い返事が聞こえる。だが、雨咲はむっ、と眉を曲げた。
「……S級が?」
『はい!』
「その人が来る前にわたしが片づけます。助けは不要とお伝えください」
『ええっ!? ちょっと、相手はA級モンスターですよ! いくら雨咲さんでも、単体での討伐なんて無茶です!』
「無茶ではないことを、これから証明します。ちょうど、現場に着きました」
現地の一般探索者達5人パーティーが、悲鳴を上げながら逃げている。そんな彼らを獲物としてとらえた黒い狼が、地面を揺らしながら、その巨体で素早く駆けている。
雨咲の何倍もの大きさのモンスター。
その威圧感は強く、見るだけで生命の危機を感じるような、禍々しさがあった。
だがひるまず、ためらいもなく。雨咲は前へ駆け出た。
「ヒーローさんは、未来のS級探索者であるわたしです。みなさんはこの偉業をよいしょする報告書の内容でも、考えていてください」




