職場に広まる
武宮の仕事は特殊なものだ。
50年前に突如現れた「ダンジョン」。そして同時に現れた、異能の覚醒者――即ち、ダンジョンを攻略する「探索者」。
武宮はその探索者の中でも上位の存在――「国家認定S級探索者」だ。
探索者協会と連携をとり、人名の救出やダンジョンの管理をする仕事。
いわば、ダンジョン攻略のスペシャリストだ。
未開の深層などを除いた、全ての層のボスフロア撃破によってS級探索者の資格は与えられる。
その年収は〇億……否、○○億を超える。
そんな武宮は、1日の終わりなどで、協会へ行って書類作業をすることがある。
パソコンで報告しなければいけないことは多い。その日の業務の報告、モンスターやダンジョン内の変化など、そういった点検・管理をするのも彼ら国家認定探索者の仕事なのだ。
とある日の、午後6時。
1時間ほど作業をしていたのだが、その間ずっと、女性の事務員からヒソヒソと、白い目を向けられながら噂をされていた。
なんだろう、と……3日ぐらい前から起きているその現象に、武宮はとても嫌な気持ちになる。
やがて、1人の女性事務員が近づいて来た。
50代前半くらいの、ベテランの事務員だ。
彼女の後ろには、これまた50代くらいのベテラン女性事務員が固まり、ニヤニヤしながらこちらを見て「やだ、鈴木さんったら!」「勇気あるわね~」「ダメよ~、そっとしてあげないとっ!」なんてことをコソコソ言っていた。
「ねえ、これってアンタのことよね?」
鈴木、と呼ばれた女性事務員が携帯でSNSに投稿された画像を見せてくる。
「え? え?」
目を疑い、脳が現実を受け入れられなかった。
うかつではあった。だけど、だからといってこんなことになるとは思わない。
最初に飛び込んできた画像は、机の上に置かれたS級探索者を証明する武宮 竜の顔写真つきのライセンス。
それ以外には、脱ぎ散らかされた衣服や、乱れたベッドシーツ、溜まった洗い物などの画像が載せられていた。
そして画像のメッセージには、こう書かれている。
『私の旦那はこんなにも稼ぎが良いのに、専業主婦は絶対に認めないと怒鳴り、そして家のことはなにもしません。今日も私が仕事をしながら、家のことも全てやりました。もう限界です。誰か助けてください。』
画像がバズっていて、大量のいいねとコメントが送られている。
鈴木がニヤニヤしながら、こちらを見た。
「このアカウント、アンタの嫁でしょ? 他の発信も見たけど、新婚からモラハラしたり、サイテーねぇ。ちょっと稼ぎが良いからって、調子に乗っているんじゃないの? アンタみたいな女を舐めたやつって、いつか痛い目にあうわよ~。そういう男、いっぱい見てきたから。ふふふ」
取り巻きのベテランがケタケタ笑い「鈴木さんこわい~」「武宮さん、気にしないでね~。私達、おばさんが騒いでいるだけだから~」「夫婦の形は、それぞれだものね~。たよーせーの時代ってやつね~」バカにしたような声音でそう言って、なにが面白いのか、4人でまたケタケタと大きな笑い声を上げる。
「あの……その……」
ものすごい勢いに、武宮は言い返せない。
4人のオバちゃんたちは満足して、嵐のごとく去っていった。
起きている事態が異常すぎて、頭が追いつかない。
(なんで俺がこんな目に……)
貴重品は銀行の金庫に預けているが、探索者ライセンスは仕事で必要なので、常に持ち歩いている。
武宮が風呂かなにかに入っている間を見計らって盗み、撮影したのだろう。
そしてこの真由美が投稿した内容は、かなりの脚色がある。
専業主婦は絶対に認めないと怒鳴ったことはないし、家のことはほぼ全部武宮がやっている。真由美は洗濯も掃除も料理もなにもしない。一度、自分の分の洗濯物は畳んでとお願いしたら「家のことも全部私にやらせようとするんだ。なにもできないのはあなたの方なのに」とこれまたわけのわからないことを言われ、武宮はもうこの人はダメだと思い、自分で全部処理するようになった。
ちなみにゴミを出すので、色々とよくわかる。
例えば嫁は今、ポテチにハマっているらしく、ゴミ袋にはよくポテチの袋が入っていた。最新のウマそうなポテチも食べていた。
スレンダーであった嫁は、この短期間でぶくぶく太り始めている。
だが――反撃の材料も、手に入っていた。
汚嫁はあまりにも頭が悪い。ゴミ箱の中には、精液の入った使用済みのコンドームが、いくつか入っているのだから。




